21話 学園祭前夜
「明日は日程通りに。皆、今日までよく頑張ってくれた。成功を目指して本番も頑張ろう」
シオンの言葉で会議が締められる。
つい1週間前まではまだ余裕があったと思うのに、気付けば学園祭前日。
それほど忙しかったということだ。
ろわ、
「後輩ちゃん達ぃ?明日はもっと大変だよ?」
「……ミア先輩はなんでそんな元気なんですか」
「それは乙女の秘密ってヤツよ。ほらほら、会議は終わったんだしさっさと寮に戻って休みなさい」
なんか、やけに強く押してくるものの、これもきっとミア先輩なりの気遣いなのだろう。なんだかんだ後輩に優しいのはいくらか見てきている。
……変わった人なのはそうなんだけどね。
「はい、明日は頑張りましょう!」
特に断る理由もなく、私は生徒会の部屋を出るのだった。
* * *
私は、ユノと共に寮の部屋へと戻っていた。
その道中、様々な所から学園祭の空気を感じ取れた。
「おい、その道具は図書室に」
「終わりますか!?これ!?多分間に合いませんよ!?」
「劇のリハーサルお疲れ様!明日もよろしくね!」
忙しくも、皆の顔は普段とは違ってどこか浮ついているように見えた。
「うちはなんとか準備終わって良かったよね…」
「でもでもっ、明日からが本番、ですね」
フンフンと、ユノは張り切っているみたいだ。
会計も当日は庶務の手伝い、その他雑用になる。要は私と同じらしい。
「うん、頑張ろっ……あ、そうだ。そういえば言おうと思ってたんだけど」
「…?」
「明日明後日、学園祭のどこかで時間あったら一緒に回らない?」
「えっ、いいの!?」
いいのも何も、私がそうしたかった。
きっと1年きりの学園生活、初めてにして最後になるであろう学園祭。セイルやユノ等と全力で楽しみたい。
「もちろん!その感じだといいってことだよね?」
「あっ、っと、う、嬉しい!私も、ルナと回りたい…でも忙しいかな…」
「空いてたらでいいよ。それに、大変そうなら手伝うし!」
こんなにも喜んでもらえたなら、誘って正解だったなぁ。
「ありがと、楽しみっ!」
私も、明日が楽しみで仕方なくなってきていた。
ミア先輩の言っていた通り、今日は早く休んでしまおう。
* * *
ユノと明日の話をしながら寮へと戻り、自室の扉を開ける。
確か今日はルリエナは私用で帰りが遅くなると言っていたから…ヨルが代わりに留守番しているはずだ。
「ヨル、ただいま〜」
くたびれた声で、恐らく居るであろう相棒へと声を掛ける。が…返ってきたのは別の声だった。
「よぉ、ご苦労さんだな。軍師殿────────べぶぅぁ!?」
後ろに流した黒い髪。そして、特徴的な片眼鏡を掛けニヤリと笑みを浮かべる男。
……よし、殴ろう。
「キャー、不審者ー」
「おいっ!ちょっ、待て!」
「んぐっ!?」
フルスイングで殴りかかったのだが、流石はヴェルト。上手い具合に躱し、更には私の口を手で封じてきた。
「…悪かった。ルリエナから色々聞いている。だから…文句なら幾らでも聞くからその手を抑えてくれると助かる」
こくりと頷く。するとヴェルトは私の口元から手を外して…
「騙されたねイキリ眼鏡!」
「俺相手にそう上手くいくわけねえだろうがっ」
考えることは同じ。互いにブラフを掛け合っていたようで…
気付けば、私は押し倒され口を再び抑えられていた。
ただ、されるがままという訳では無い。私も反撃として全力で耳を引っ張っているし、今にもその手に噛み付こうとしている。
「いでででっ!ちょっ、いい加減に…」
「ただいま戻りました、軍師殿───────お兄様?」
その状況を崩したのは、自身の兄をゴミを見るような目で見据えながら入ってきたルリエナだった。
…………
「最低ですねお兄様。力で勝るからと言ってまさか軍師殿を…」
「そーだそーだ!サイテー」
「誤解だ!」
取っ組み合いは終わり、今は2対1でヴェルトを虐めているところだ。
へっ、いい気味だね。
「先に殴りかかってきたのはお前だし、俺はお前みたいな貧相なのには興味ねぇ」
「…っ、へ、へぇー、じゃあルリエナみたいな豊満なのが好みってこと?」
「なっ、そうは言って」
「……」
ルリエナの視線が1層冷たいものに。
もはやヴェルトは肯定も否定もせず、頭を抱えて諦めるようにため息を吐いた。
「全く……いいか、俺がわざわざここに来たのはなぁ」
「興味無いし、もう寝ていい?」
「…まぁ、いいか。お前には関係ないしな」
存外すんなり引き下がったヴェルトに、私は目を丸くした。
いや、冗談のつもりだったんだけど…
「軍師殿、お気になさらず。いつもの心配性だと思います」
「…?そっか。ま…いいならいっか」
明日は早いのだ。それに、約束もある。
私はいそいそと、寝る準備を済ませていく。
「おやすみ、ルリエナ」
「おやすみなさい、軍師殿」
その後、2人の気配が部屋から消えた気がするが…
疲れて速攻で夢の世界へ行っていた私には、気にする余地も無かった。




