20話 気弱な会計ちゃんの奮闘
「…申し訳ないんだけど二人、ユノに付いて行ってくれないかい?」
「えっと…どこに?」
「各クラブの予算の見積もり……の、最終決算。」
予算自体、あらかじめ決まってはいるものの大抵のクラブは交渉してどうにか増やせないかとごねるらしい。そのため交渉事の苦手なユノをフォローしてやってくれ、というわけなのだが…
「どうして僕とルナなんですか?」
私も同じく疑問であった。ユノにはシオンが付いて回ると言っていた。
「何、大したことないよ。同学年同士、仲良くなってほしいだけさ」
ニコニコと、善意の微笑みが放たれる。
確かに嘘を言っている気はしないし、納得もできる。
何よりも今の実務はフェイに頼りきりだ。少しでも苦労を減らしたい。
「セイル」
セイルも同じようなことを考えていたらしい。顔を見合わせ、頷く。
「私たちで…なんとかしてみます!」
「そう。期待しているよ」
シオンは最後まで、笑みを絶やさなかった。
* * *
「おっ、お二人とも、今日はお手伝い、ありがとうございますっ!」
ユノがそうたどたどしく言って、勢いよく90度のお辞儀を見せる。既に緊張しているみたい…
「まだこれからだよ。今日はよろしく」
「はいっ」
今一度握手を交わし、本題へ。
「副会長が予算に関して意見がありそうなクラブはある程度まとめてくれているから、これを優先的に回ろう」
流石はシオンだ。ただ単純に新人三人に任せようってわけじゃないようだ。
その期待を裏切らないよう、張り切らねば。
……
「魔術クラブの予算は決まってまして…」
「我々の研究成果の発表の場を奪わないでいただきたい。確かに今や紋章学のほうが注目されていますがその基盤の魔術!これを疎かにすることなどありえないのです!いいですか!詳しく説明するので今から席に」
「ひぃっ…」
初めに訪れたのは魔術歴史クラブ。古き良き、紋章学の更なる前の魔術を主に扱って戦っていた時代。その文化や魔術体系その他理論について日夜研究を重ねているそう。
正直、それなりに興味はあるが今はそれどころではない。
シオンに言われた通り、ユノをフォローしなければ。
「あのっ」
「ちょっといいですか?」
私が口を挟むよりも先に、セイルが割って入った。
「確かに、興味深い研究内容だと思います」
「おお!分かりますか!では!」
「はい……でも、予算の繰り上げは出来ません。この部室のみしか、貴方々は使ってはなりません」
「……何が言いたいのです?」
明らかに不満そうな様子でクラブ長がセイルを睨む。
が、セイルは構わず続けた。
「ですが、こうすればどうでしょう?例えば案内にここの詳細を1部載せます。それと今回は、劇の合間に各クラブの広報が可能です。その機会を活かしてみてはどうですか?」
「むっ、む、むむぅ……なるほど、それなら……」
ようやく悩んだ態度を見せるクラブ長。これは中々にいい具合じゃないの…?
「我々も学園祭の大成を願っています。協力していただけると助かりますし……それに、来季以降の予算の融通を優先します」
「乗った!」
……
「剣術クラブで追加の予算が必要なんですか…?」
「新会計殿!我々は学園祭にてこれといった計らいはありませんですが!それは少々不公平じゃないでしょうか!」
「あえっ……そう、ですかね?」
ちょっとちょっと!流されちゃダメだって!
それに確か剣術クラブは劇の殺陣をやるんじゃないの!?
「失礼。ちょっといいですか?ここからは僕が担当します」
「ユノ、流されちゃダメだって…!」
全くこの子は……手が掛かる。
……
「えーっと……1週間前で申し訳ないんすけどー……その、舞台で使う大道具が一つ不備がありまして。補修のために追加して頂きたいんです」
「演劇クラブっ、ですよね?」
「あっ、はい。一応これクラブ長のサインです」
本物、だね。しかも案件も真っ当。これなら問題なし。
私はグッと、ユノの方を向き頷く。
その訴えが通じたらしく、ユノはパッと張り切った顔で、答える。
「分かりましたっ、副会長に伝えておきますね。演劇、楽しみです」
「はは、ありがとね。新会計さん」
初めて、ユノがまともな交渉を終えた。
正直、感動しちゃったよね……まるで我が子の成長を見守る母鳥の気分。
なんて冗談は捨て去っておこう。
「今回は、僕の出番は無さそうかな」
* * *
セイルが交渉を、私がユノのメンタルケアを。
役割分担によって、交渉は案外スムーズに進んで行った。
「きょっ、今日はありがとう、ね。2人とも」
「ううん、なんだかんだ楽しかったし……」
「僕も練習になったよ。こちらこそありがとう」
前に名前呼びは許してもらったけど、随分と話しやすくなった気がする。
ユノも私やセイルに慣れてきたということだろう。
「後は副会長に報告して、資料にまとめるだけなので…そのっ、後は一人で」
「手伝うよ?」
「え……?いいの?」
目をまん丸にして、ユノが呟く。
まぁ確かに、明らかに面倒くさそうな仕事だけど……1度受けた仕事は最後までやらなきゃでしょ?
「もちろん。それに、今日回った分を全部だと朝までかかっちゃうよね?なら絶対、私も手伝う」
「そ、そっか……えっと、ほんとのほんとにありがとう。ルナちゃん」
────ルナちゃん。
思わず瞬きをする。
そう呼ばれたのは初めてだったから。
「っ!めっ、迷惑でしたか?」
慌てて取り繕うユノに、こちらまで焦ってしまいそうになる。
なんでそんなことを気にするんだろう。
交渉の時も思ったけど、やっぱりこの子は放っておけない。
「そんな訳ないよ」
「ほんと……?」
「うん。むしろ、ちょっと嬉しかったかも」
そう答えると、ユノはぱっと顔を明るくした。
「そっ、そうなの?」
「うん。同級生だし、同じ生徒会役員なんだし。これからも仲良くしてくれると嬉しいかな」
「……うんっ!」
本当に、心の底から嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ていると、こちらまで少し嬉しくなってしまう。
学園祭まで残り一週間。忙しい日々はまだ続くけど。
こういう時間も、悪くないなと思った。




