11話 逃げ場なんて無かった
「軍師殿、そろそろお外に出られては?」
呆れた様子のルリエナが、毛布を頭まで被った私の背中へと問いかける。
「…まだお休みじゃん」
「身体に障りますよ」
そうは言われても…!怖いもん!
あの灰髪の男(恐らくは生徒)といつ出くわすか分からない。何よりも対峙して理解した。
「あいつ、多分私が全力出しても勝てない」
本能と経験から導き出した結論だ。
何度対面しても逃げるので精一杯な気がしてならない。
だから!出たくないの!
「…そうですか、ですがどの道明日には授業が始まるのでは?」
「うっ…」
痛いところを突かれた。本当は分かっていた。
今は私は学生。避難区にいた時みたいに自由には休めない。
「でもなぁ…」
「…兄様に報告したところ、褒美を出すとのことでした」
「えっマジ!?」
あの冷酷非道のあいつが労うってことを知ってたなんて!
「内容は知りませんが……少しは元気になられたみたいで?」
「…うん、まぁ……ルリエナは上手だね」
2人揃って狡猾な兄妹。全く、相手をする私の身になって欲しい。
仕方ない、ずっと引きこもっても何も変わらないし…状況が変わるまでは今まで通り動こうかな!
* * *
と、息巻いて外に出たは良いものの…
「…いるよね、ヨル?」
「私とルナ両方の目がおかしくなってない限りはねぇ」
寮を出て数分後、すぐに尾行されていることに気付いた。しかも、件の男に。
「休日だよね?今日」
「そのはず」
「…もしかして、私が出てくるまでずっと張り込んでたってこと?」
「…そうなるわね」
なんで!?とは声には出さずとも顔には出たことだろう。
「私追われるようなこと……したね」
「したわね」
「…どうしよう」
これじゃあ禄に息抜きも出来ない。なんなら今すぐ部屋に戻りたい。
「最悪、私が居るんだからどうとでもなるわ。それにあの男、近付かないのを見るにルナを警戒してる。仕掛けるならもっと早く来てるはずよ」
ヨルの言うことは最もだ。昨日のことを考えると尚更。
ならば今は、いつも通りに…いや、少し早歩き。
気のせいだろうか。男が追ってくる速度が上がった気がした。
* * *
距離を離すためにいろいろな所を巡り、やがて空き教室にてようやく一息吐く。
「…見失ったみたいね。やっと出られるわ」
ヨルが私のブレザーの隙間から這い出て、身体を猫のようにブルブルと震わせる。
「…それにしても、なんでずっと追いかけてきてたんだろ」
「もしかして、ルナの正体がバレちゃったとか?」
「えぇ…」
もしもそうなら…と考えるだけで気が滅入った。
「もしそうなら、とっくに教師に突き出されてるよ」
「えー、じゃあルナバイバイね」
「ひどっ!見捨てないでよ!」
「冗談よ」
そうだとしてもぉ…
全く、いたずら好きなんだから!こちょこちょの刑にして…
「あれ?ルナ?」
私とヨル、同時に飛び跳ねたと思う。ヨルに至っては「んにゃぁぁ」と咄嗟に猫の鳴き真似を始める始末だ。
「せ、セイル?どうしてこんなところに」
「ルナを探してたんだ。なんとなく、この辺りにいる気がして」
なにそれこわい。でも知り合いに会えたのは僥倖かもしれない。
「私に用って?」
「…それが、副会長が君に用があるらしくてね」
副会長…と言えば、シオンだったか。
正直断りたくてしょうがない。またあの空間に行かなければならないと考えると尚更。
でもでも、今の状況から鑑みるに一番安全圏でもあるのかも…?
「…分かった。今からでいい?」
「助かるよ」
それにしたって…セイル、なんで私の居場所が分かったんだろ……偶然、だよね?
あまり深く考えず、私はセイルの背中を追った。
* * *
…なんで…
ワナワナと、肩を震わせ心の内で泣き叫ぶ。
…なんで例の人が、この部屋にいるのぉぉぉぉぉ!!??
「休日に悪いね、ルナ。こちらは生徒会長のレインだ。彼が、君に用があるらしい」
「へっ」
生徒会長!?あんな不愛想なのに!?
というよりも…あぁでも納得できる部分もあるけど…!
あっ今私の顔見て少し笑ったなあいつ!
「…今年の編入生と聞いた。少し話がしたい」
「今ここでなら…」
ここにいるのはセイルとシオン、そしてレインと私の4人のみ。とはいえ一対一ではない。下手なことは言わないはず…
「…セイル、シオン。今日の業務は終わりだ。帰っていい」
「え」
「分かりました。お疲れ様です、会長」
去っていく二人。引き留めるわけにもいかず、私にはその背中を見送ることしか出来ない。
もうこうなったら…腹を括るしかない。
「あの…」
「書庫について何を知っている?」
「えっ」
私が何か言うよりも早く、圧を込めてその問が放たれた。




