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異世界ローカル路線バス  作者: 横浜あおば
第二期中期経営計画

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91/202

回送(回想) 聖域の幽霊幼女

2024年8月28日にカクヨムで公開したものです。

 小学二年生の時にこの異世界に転生してきて、心と身体の成長は止まった。

 しかも千年前に死んで幽霊になってしまったから、この先も成長することはない。

 だから毎年、夏休みが終わる八月末が近づいてくると、気温とか関係無しに今年の夏もそろそろ終わりかぁと寂しい気持ちになる。


 数メートル先も見渡せない、濃い霧に包まれた聖域。

 白いワンピースを着たツインテールの少女は、ひとり物思いに耽っていた。


 これは千年前、私がまだ生きていた頃、人間だった頃のおはなし。



 私の名前は成仏《なるふつ》聖奈《せいな》。

 人呼んで、聖なる巫女セイナ。呪術的祈祷師である。


 私は大陸に恐怖をもたらす魔王を倒すために、神と同等の力を与えられた女子高生の佐藤《さとう》美神《みかみ》率いる勇者パーティに参加していた。


 魔王軍の拠点を探しながら、毎日毎日ゴブリンやオークと戦って、時には災厄と呼ばれるドラゴンを追い払ったり悪い魔術師を捕まえたりして。

 それはなかなかに大変ではあったけれど、自由人の美神と一緒だったからまあまあ楽しかった。


 でも、そんな楽しい日々は魔王討伐後に突如として終わりを迎えた。


 トー共和国への帰還途中、メー王国の王都に滞在していたある日の夜。

 私は美神に呼び出されて、王都の北門に向かった。


「みかみ〜、こんな夜中になんの用事? 私眠いわ」

「ごめんごめん。そっか、聖奈ちゃんまだ七歳だもんね。寝てる時間だったか」


 うっかりうっかりと舌を出して謝る美神に、私は閉じそうな目をこすりながら言う。


「そういうのいいから。用事は?」

「ん〜と。ここだとちょっとあれだから、場所を移動しよう。確か近くに森があったはずだ」


 そして、美神に連れられて辿り着いたのは、王都から少し離れたところにあるフォライディア大森林と呼ばれる深い森。

 その中にあるセレンヤードの滝の前で、美神は立ち止まった。


「ここなら水音で話し声も聞こえにくい。で、早速用件だけどね」


 美神は私の目を真っ直ぐに見つめ、続ける。


「ねぇ聖奈。あたしらって魔王も秒で倒しちゃうくらい最強じゃん? だからさ、あたしらだったらこの大陸を支配出来ると思わない?」

「支配って、どういうこと?」

「支配は支配だよ。聖奈ちゃん賢いから分かるでしょ?」

「もちろん、言葉の意味は分かるわ。でも、大陸を支配するって……」


 私は一抹の不安を抱きながら、美神の顔を見上げた。

 それに対して、神の力を持つ勇者は穏やかな笑みを浮かべて答える。


「簡単なことだよ。つまりは、この大陸に住まう人間を全員あたしらの奴隷にしようって話。魔王倒したんだから、それくらいの報酬が無いと割に合わないじゃん?」


 私はしばらく、言葉を失った。


「わ、割に合わないって。そういう問題じゃ……」


 美神は確かに、ワガママで傍若無人な性格をしている。

 しかし、いくらなんでもこの発言は行き過ぎだ。


 私が弱々しい反論を口にすると、美神はガンギマった瞳をこちらに向けた。


「えっ? 聖奈ちゃん、あたしのこと裏切るの?」

「べつに、みかみを裏切るつもりはないけど……。でも、大陸を支配しようっていうのは流石に良くないわ。だってそれじゃあ、やっていることが魔王と同じだもの!」


 美神に歯向かうのは怖いけれど、良くないものは良くないと私はきっぱり告げる。


 すると美神は、失望したといった様子で残念そうに頭を振ってから口を開いた。


「ふ〜ん、そっか。聖奈ちゃんもあたしの邪魔するんだ。……じゃあ、敵だね?」


 それが、私が人間だった頃の、最期の記憶だ。


 次に気付いた時には、私はもう幽霊になっていて。

 真っ白な霧に囚われて、二度と森から出られないようにされていた。


 神聖な場所だから聖域なのではない。

 聖奈の領域だから聖域なのだ。



「みかみ、あの時のこと、まだ怒っているかしら……?」


 千年前を懐かしみながら、ぽつりと呟いた聖奈。


 そこへ、ある人物が姿を現した。


「久しぶり、成仏聖奈。百年ぶりくらい?」


 誰も居ないと思って油断していたタイミングで突然声を掛けられて、聖奈はびくっと顔を上げた。

 そして、目の前に立つ人物を見て、さらに驚く。


「あっ、あなた……! もしかして、読《よみ》!?」

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