ハカーティア号77便 ハカーティアBT(フク王国首都)〜王城前(メー王国首都)
2024年8月14日にカクヨムで公開したものです。
メー王国から遠く離れた、フク王国の首都ハカーティア。
日本であれば飛行機や新幹線を使うような距離だが、そんなものは存在しない異世界においてはこの高速バスが最も速く快適な移動手段となっている。
乗合馬車の乗り場の一角に整備されたバスターミナル(当然ハカーティア号以外の発着は無い)で、オクトーバーは乗客のチケットを確認しながら荷室に荷物を積み込んでいた。
「次のお客さま、どうぞ〜」
列に並んでいる人に声を掛けると、続いてやって来たのは大きなスーツケースを引いた女性だった。
「チケット拝見しますね〜」
日時や便名をチェックし、間違いのないことを確認する。
「はい、ではお荷物お預かりしますね。……って、ばり重た! これまた随分と大荷物やけんね〜」
積み込むために持ち上げてみたら、予想以上に重たくて危うく転ぶところだった。
なんとか荷室に押し込んで、女性の方に向き直る。
すると女性はオクトーバーがスーツケースの中身が気になっていると思ったようで、訊いてもいないのに教えてくれた。
「わたし、世界旅行をしてきたんです。ずっとずっと、遥か彼方の大陸まで。あれの中身は、そこで買ったお土産です。決して怪しい物は入っていません。神に誓って」
「ほほぅ、それはそれは。楽しかったと?」
「ええ、楽しかったです。とても」
「では、7Aの席になりますね。ご乗車になってお待ちください」
女性がバスに乗り込むのを見送って、オクトーバーは「う〜ん」と唸った。
あの透き通った聞き取りやすい声。どこかで聞いたことがあるような……?
しばらく考えていると、そこでふと気が付いた。
「もしかして、バスのアナウンスの声かいな?」
普段あまり意識しないので、はっきりとそうだと断定することは難しいが、なんとなく似ているように思える。
「あのー、御者さーん。まだですかー?」
と、思考に耽っていたら、次のお客さんに早くしろと急かされてしまった。
「は〜い、すみませ〜ん。チケット拝見しま〜す」
いけないいけない。今はそんなのどうでもよかけんね。
オクトーバーは余計なことを考えるのをやめ、すぐに業務に戻った。
ちなみに。
オクトーバーのその予想は見事正解。
女性の名前は語部読。
はこび達と同じ日本人で、この世界では言霊のヨミと呼ばれている、伝説の勇者の一人だった。




