インターバル 聖域で肝試し
2024年7月31日にカクヨムで公開したものです。
仕事終わり。深夜の聖域。
私はなぜか、こころとマルメラーダと一緒に肝試しに来ていた。
どうしてこんなことになったのか。経緯はこうだ。
今日は朝から気温が高く、夏本番の陽気だった。
そこで所長が「夏といえば怖い話だよねぇ」と何気なく呟いた。
すると、一年ほど前に私が聖域で幽霊の女の子に会ったという話をはやてが覚えていて、面白半分に「なぁはこび、もう一回会いに行ったらどうや?」と言ってきたのだ。
その後、執拗に行けと強要してくるはやてに対して「お化けとか本当に無理なのっ!」と泣き喚いていたところ、心配してくれたこころと幽霊なんかいるわけないと呆れていたマルメラーダが付いてきてくれることになって。
そして今に至る。
「前に幽霊さんと会ったのは、聖域入口の近く、なのです?」
「うん、そうだよ。急に車内灯がチカチカして怖かったんだから」
「ふんっ。どうせ幽霊なんて見間違いに決まってますし、電気もただの接触不良か何かでしょう。全く、先輩方ってホントお子ちゃまですよねぇ〜」
三人で話しながら歩き続けていると、段々と霧が濃くなってきた。
これは、あの時と同じ雰囲気。
嫌な予感がする……。
それからしばらくして。
前方からゆらゆらと影が近づいてきた。
「あれ、何なのです?」
「何って。動物か魔物じゃねぇですか?」
いや、違う。あれは間違いなく……。
やがて、影の正体がはっきりと姿を現す。
「あら? あなた、また会ったわね?」
「ひぃっ!」
白いワンピースとツインテールは、一年前と全く同じ。
やっぱり、あの時の幽霊の女の子だ。
「本当に出たのです」
「確かに、こうなると信じざるを得ませんねぇ」
付き添いのこころとマルメラーダは、幽霊を目の前にしても案外冷静で。
二度目なのに驚いちゃった私がバカみたいじゃん。
涙目になりながら、内心で二人に文句を言っていると。
こちらを見上げていた幽霊の女の子が口を開いた。
「そういえばあなた、日本に帰る方法は見つけられたのかしら?」
「えっと、いや、まだ……」
「あら? 使わせてもらえるかは別として、みかみに会えば方法なんてすぐに見つかるのに」
「みかみ、さん?」
「佐藤美神よ。この大陸の支配者の。まさか知らないの?」
誰だ、それは。
三人で顔を見合わせる。
私とこころだけでなく、この世界の人間であるマルメラーダも知らないらしい。
こちらの反応を見て、幽霊の女の子はきょとんとした顔で続ける。
「おかしいわね? みかみは死んでないはずだし、生きてるなら絶対に有名人なはずなんだけど……。千年前はまるで自分が神にでもなったかのように、あっちこっちで好き放題していたのに、一体どうしちゃったのかしら?」
すると、こころがぽつりと呟いた。
「ザカリはギリシャ語で砂糖、なのです」
「は?」
急に何を言い出したのかと眉を顰めるマルメラーダに、こころは思いついた考えを述べる。
「ザカリ正教の教祖様のお姿は、信者にも執行人にも明かされていないのです。もしかして、その佐藤美神が教祖様ということはないのです?」
「お前、あんまり適当なこと言うんじゃねぇですよ。ザカリ正教は異世界人を禁忌だっつってるんです。その宗教のトップが異世界人な訳が」
「待って待って、二人は何の話をしてるの?」
こころとマルメラーダの会話が理解出来なくて、私は思わず口を挟んでしまった。
その瞬間、マルメラーダの瞳がぎろりとこちらを向いた。
「異世界人は黙ってろです」
気付いた時には、私はマルメラーダに拳銃を突きつけられていた。
「えっ……?」
どうして魔法文明の異世界に科学文明の武器があるのか。
そして、なぜ後輩がこんなものを持っているのか。
無数に疑問が浮かんで、頭をいっぱいに満たしていく。
死を目前にした時、どうやら人間は現実逃避をしてしまうようだ。
「これは不慮の事故です。お前は幽霊に呪われたんですよ」
「それじゃ、さよなら」と、マルメラーダがトリガーを引いたのと同時。
こころがマルメラーダに横から飛びついた。
「殺させない、のです……!」
「ちょっ! お前、妨害すんなです!」
体勢を崩されたことで弾道が逸れ、私は間一髪で命中を免れた。
それでもなお私を狙おうとするマルメラーダに、黙って見つめていた幽霊の少女が一言。
「ここは私のテリトリーよ。汚したら許さないんだからね」
直後、周囲がより一層濃い霧に包まれて、視界が完全に真っ白になった。
待つこと数秒。
霧が晴れると、そこは聖域入口のバス停だった。
どうやら幽霊の女の子によって強制的に聖域から追い出されたらしい。
「おおっ、いきなり帰ってきた。で、どうやった?」
ベンチに座って待ち構えていたはやてが、楽しそうにニコニコ顔で訊いてくる。
「う〜ん。怖かった、かな?」
「ある意味危なかったのです」
「ああなったのも全部幽霊のせいです。私は1ミリも悪くねぇです」
私、こころ、マルメラーダの順に、三者三様の変な答えを口にすると、はやては「なんやそれ?」とつまらなそうに言った。
きっと期待していたリアクションではなかったのだろう。
まあ、それはそうか。
今日の出来事について、私は誰に話すこともなく、そっと胸の奥に仕舞い込んだ。




