異73系統 市民広場〜王城前〜ノルニラ十字路〜王都南門
2024年7月3日にカクヨムで公開したものです。
市民広場停留所の操車場に停車しているバスの中。
発車時刻まではまだ時間があるので、オクトーバーは窓を開けて広場で行われているセト王女の街頭演説に耳を傾けていた。
「わたくしは、この国をより豊かにしたい、国民の皆さんをより幸せにしたいと、そう心から思っております。当選した暁には、第一王女としての経験や知識を全て用い、素敵な未来を必ずや実現させると誓います。どうか清き一票を、わたくし、セトに投じて頂けないでしょうか?」
セトが深々と一礼すると、集まっていた聴衆から一斉に拍手が沸き起こる。
パッと見たところ、ほとんどがザカリ正教の信者だ。
熱狂的な支持者しかいないのなら、批判や不満が出ないのは当然。
そのことに気付いているのかいないのか。気付かぬふりをしているのか。
壇上のセトは人々からの称賛の声を受け、微笑みながら手を上げて応えている。
するとそこへ、マイクを持った何者かが突然乱入してきた。
「おい姉貴、また随分と汚い手を使ってるなぁおい! 変な宗教と組んでおいて、何が国民のためにだ? 笑わせてくれるなよ!」
あれは、第一王子キヨス。
支持率が伸び悩んでおり焦っていると聞いていたが、このやり方はかなり過激すぎる。
広場が騒然となる中、セトは澄ました顔で喚く弟を見る。
「あら? キヨス君、どうなさいました? まさか極右思想の保守政策がだだ滑りして、やけになっているのですか? みっともないので、やめた方が良いですよ」
「っ! 調子に乗るなよ姉貴! 皆さ〜ん、こいつは嘘と不正だらけの偽善者で〜す。セトに投票したらこの国終わりますよ〜?」
「はぁ、全く……。わたくしを落とすより、まずは自分を上げる努力をなさるべきでは?」
キヨスは意味不明な主張、というよりもセトに対する誹謗中傷を繰り返す。
この状況では演説を続けられないと、セトは演説の中断を余儀なくされる。
もうめちゃくちゃだ。見ていられない。
オクトーバーが窓を閉めると、いつの間にか車内にフードを被った少女が立っていた。
秘密組織ムーンサルトのメンバー、フェブラリーである。
「どうかしたと?」
何か緊急の用事だろうかと首を傾げると、フェブラリーがこちらを向いて答える。
「いえ、別に何も。キヨス王子の偵察のついでに、ちょっと寄ってみただけだ」
「あぁ〜。そういえばダイレクター、スピカを国王にさせるって言っとったけんね。計画は順調と?」
「まあ、今のところは」
「それは良かったたい」
「じゃあ、私は任務に戻る。オクトーバーも、引き続き頼んだ」
「あいあいさ〜」
転移魔法で姿を消したフェブラリー。
それを見送って、オクトーバーはバスのエンジンをかける。
「さて、仕事に戻るけん」
発車時刻五分前。
停留所にはバスを待つ人の列が出来ていた。




