異69系統 アヴァカネ関所東口〜オーウィ町〜東クワーナ川〜シャクリャギ町
2024年6月5日にカクヨムで公開したものです。
梅雨の季節がやって来た。
今日も朝から雨が降り続いている。
「車間距離を縮めすぎない、視界を確保する……」
営業所から始発の停留所へと向かいながら、新人のトランセは先輩のはこびからの教えを復唱していた。
ハンドルを握る手にも、無意識に力が入る。
雨の日は路面が滑りやすくなり、晴れの日と比べてブレーキが効きにくいらしい。
だからいつも以上に慎重な運転をしようと心掛ける。
「…………」
静寂に包まれた車内に、ワイパーの作動音だけが響く。
それがトランセに逆にプレッシャーを与えてくる。
「静かすぎるってのも、なんか嫌だよなぁ」
トランセとしては、回送の無人状態よりもお客さんを乗せていた方が落ち着いて運転できる気がする。
と、その時。
「うぉっ、危ねっ!」
路地から何かが飛び出してきて、トランセは慌ててブレーキを踏んだ。
しかし、思ったよりもブレーキが効かない。
「やべぇやべぇやべぇ……!」
ようやくバスが停止する。
どうにか飛び出してきた何かとの衝突は回避したようだ。
ホッとしつつ前を見ると、トコトコと狸型の魔物が走り去っていった。
「あ〜、焦った。あとちょっとでロードキラーになるところだったぜ」
先輩のはこびは過去に凶暴な魔物であるマーダーウルフをロードキルしてしまい、それ以来一部の冒険者から『ロードキラーのはこび』と呼ばれている。
冒険者側は敬称のつもりで言っているようだが、運転手の立場からしたら物損事故をいつまでも掘り返されたくはない。
先輩と同じ轍を踏まなくて良かったと、トランセは再びバスを発進させた。
同時刻、営業所。
「はくしょんっ!」
はこびが大きなくしゃみをすると、はやてがそれに反応した。
「なんやはこび。風邪なら移さんといてくれよ?」
「いや、大丈夫。ちょっとムズッとしただけ」
「ったく。体調管理には気をつけるんやで、ロードキラーのはこびさん?」
「っ! その二つ名は忘れたいんだから、呼ばないでって言ってるじゃん! もうやだよぉ……」
はこびが顔を覆ってうずくまると、はやては面白そうに笑っていた。
なにわろてんねん。




