インターバル ゴーレム使いの魔女とお茶会
2024年5月29日にカクヨムで公開したものです。
2024年4月から、働き方改革関連法によってバス運転手にも勤務間インターバル制度が導入された。
この制度の内容はインターバルというその名の通り、終業時刻から始業時刻の間に最低9時間の休息時間を確保するというものだ。
今はその休息時間。
私は仕事帰りにカフェに立ち寄り、ゴーレム使いの魔女こと小松しほりさんとお茶をしていた。
「沢山さんは、この世界にはもう慣れた?」
「まあ、はい。なんだかんだで、もう一年以上経ちましたからね」
「そっか、一年……」
470年以上もこの世界で生きてきた小松さんにとっては、異世界生活二年目の頃の記憶や感覚など、もう残ってはいないのだろう。
遠い目をして、ぽつりと呟く。
感情が抜け落ちた、虚ろな表情。
そんな小松さんの顔を見ていて、ふと気になることが思い浮かんだ。
「あの、小松さん。小松さんは日本に帰りたいって、思ったことありますか?」
私は以前、『日本に帰る方法がある』と幽霊の女の子に告げられた。
その時の私は、帰りたいと明確に思えなかった。
いざ帰れると知ってしまったら、帰りたいという気持ちに揺らぎが生じてしまったのだ。
まだ一年しか暮らしていない私ですらこうなのである。
それなら小松さんは、一体どうなのだろう?
半分相談を含んだ問いに対して、小松さんは静かに考え込む。
そしてしばらくの沈黙の後、コーヒーを啜ってから答えを口にした。
「覚えてない。私が帰りたいって思っていたのか。日本がどんな場所だったのか。何も」
「そ、そうですか……」
「でも、一つだけ言えることがあるとするなら。あなたは早く日本に帰るべき」
真っ直ぐにこちらを見つめながら、はっきりと言い切った小松さん。
ゴーレム使いの魔女の虚ろな瞳に、わずかに光が戻っている。
「どうして、ですか?」
なぜ小松さんは、私が早く日本に帰った方が良いと思ったのだろうか。
理由を聞きたかったが、小松さんが答えてくれることは無かった。
「とにかく、帰るべき」
仮に帰る手段が目の前にあったとして、私は日本に帰る選択をするのか。
今の私には、まだ分からない。
けれど、小松さんの『あなたは早く日本に帰るべき』という言葉は、深く胸に残った。




