異67系統 シャクリャギ町〜ヤミアシータ町〜イノーボザッキ灯台〜ピナリ港
2024年5月15日にカクヨムで公開したものです。
新人のトランセは今日、初めて一人で営業運行を任された。
無意識のうちに、ハンドルを握る手に力が入る。
「よっしゃ、行くぜ」
気合を入れ直すように呟いてから、前扉を開ける。
続けて、車外放送スピーカーで待っているお客さんに向けてアナウンスする。
「お待たせしました、ピナリ港行きです」
覚えたての丁寧な言葉遣い。ちゃんと出来ていただろうか?
はこび師匠がいないから、たとえ間違えていても誰も指摘はしてくれない。
早速、女性が一人が乗り込んできた。
耳が長い。エルフだ。
トランセは運賃箱の硬貨投入口を手で塞いで、エルフの女性に問いかける。
「六十五歳以上の方は運賃が割引になります。年齢が確認出来るヤツ、なんか持ってるっすか?」
「あっ、えっと。これ、とか……?」
女性がポーチから小さな札取り出す。
遺跡調査の免許証。
「ちょっと見せてください」
年齢の欄を確認すると、303と記載されている。
人間の年齢に直すと三十歳くらい。だが、この会社では長寿の他種族であっても年齢通りに取り扱うルールだと教わった。
トランセはボタンを操作して、運賃の設定を変更。
それから硬貨投入口から手を離して、どうぞと手のひらを差し向けた。
エルフの女性が110ゴールドを投入すると、『ピンポーン』と精算完了の電子音が鳴る。
「これでいいの?」
「大丈夫っすよ。んじゃどっか空いてるとこに座ってください」
すでに発車時刻を迎えていたので、女性が着席したのを確認しつつ、前扉を閉めてバスを発進させる。
『発車致します。お掴まり下さい。本日も埼京交通バスをご利用いただき、誠にありがとうございます。この車は、異67系統ピナリ港行きです。次はムオミッジ坂。お降りの方はブザーでお知らせ下さい』
トランセはその後、途中の停留所でお客さんを乗せたり降ろしたりしながら、なんとか無事に終点まで運行を終えた。
まだまだ接客面(特に言葉遣い)に関しては改善の余地があるトランセだったが、運転技術に関しては先輩たちと遜色のないレベルになっていて。新人としては上々のデビューだと言える仕上がりだった。




