ベヒモスエクスプレス65便 王城前(メー王国首都)〜クアミコーチ(シンス連邦)
2024年5月1日にカクヨムで公開したものです。
春の大型連休。
行楽地へと向かう高速バスの乗り場は、朝から観光客で溢れかえっていた。
はやては停留所にバスを停めると、乗車扉とトランクを開けてからバスを降りる。
列の整理を手伝ってくれていた新人のマルメラーダと協力して、チケットの確認と大きい荷物の預かりを行っていく。
「このバッグ、結構大きいんですけど。大丈夫ですか?」
最初にやって来た若い女性が手にしているのは、大容量のボストンバッグ。
マルメラーダはサイズを目測して、こくりと頷く。
「はい、問題ありませんよぉ。お預かりさせて頂きますぅ」
「良かった。お願いします」
よいしょっと、重たそうにしながらバッグを手渡す女性。どうやら中身もパンパンに詰まっているようだ。
しかしマルメラーダはそれを平気な顔で受け取ると、軽々と運んでトランクに積み込んだ。
あの子、意外と力持ちやな。
「これ、券です」
「はい、終点までですね〜。山登りですか?」
女性が見せてきたチケットは終点までのものだった。
このバスの行き先は山間部にある景勝地で、登山基地にもなっている場所だ。
だから山登りが目的なのではないか。荷物の量や服装も見た上で、はやてはそう推測したのだが。
女性は手をひらひらと振りながら、「違いますよ」と笑う。
「私、これからキャンプに行くんです」
ああ、キャンパーさんやったか。
つまりあのバッグの中身は、テントやらカトラリーやらのキャンプ用品ってことやな。
「お客さん一人でされるんですか?」
「はい」
「ほほう、『ぼっち・ざ・きゃんぷ』やな。いいですね〜。ほな、7番のA席にお座りください」
「ありがとうございます」
女性がバスに乗り込むのを見送っていると、はやての隣にマルメラーダが近寄ってきた。
冷めた目をこちらに向けて、ぽつりと呟く。
「『ぼっち・ざ・きゃんぷ』って何ですか、はやて先輩? それを言うならソロキャンじゃないですかぁ?」
あっ、確かにせやな。
マルメラーダの言う通りである。
「う〜ん。まあ、別にどっちでもええやん。意味は一緒やろ。はい、次の方どうぞ〜」
「あっ、先輩逃げましたね?」
新人に間違いを指摘されて恥ずかしくなったはやては、誤魔化すように次のお客さんを呼んだのだった。




