教習車(高速バス) はやてとオクトーバー
2024年4月17日にカクヨムで公開したものです。
時速80キロで交易路を疾走する高速バス。
そのハンドルを握っているのは新人運転手のオクトーバーだ。
運転席の左斜め後ろの席からオクトーバーの姿を見守っていた遠町はやては、感心した様子でうんうんと大きく頷いた。
「これはもうバッチリやな。明日から路線教習でもええくらいやわ」
「いやいや、それはまだ早かですって」
はやての冗談交じりの独り言が聞こえていたらしく、オクトーバーが苦笑しながら謙遜する。
それでも全然ふらつかないのだから、本当に路線教習に出しても問題ないレベルだ。
出発から二時間が経ったタイミングで、休憩のために交易路沿いにある食堂兼宿泊所(サービスエリア的な施設)に立ち寄った。
二人で車外に出て外の空気を吸う。
「ぷはぁ〜。ようやく一息つけたけん」
「長距離運転の時はこうやって肩の力抜かんと、身体も神経も持たんからな。休憩は大事やで」
「そげんですねぇ」
はやてはただ座っているだけだが、流石に何時間もとなるときつい。
ぐーっと身体を伸ばして、溜まったコリをほぐす。
それからはやては、雑談がてらオクトーバーに気になっていたことを質問した。
「そういえばオクトーバーって地方出身なん? なかなか特徴的な方言で喋るよな?」
訊かれてオクトーバーは、こくりと頷く。
「そげんです。西の方にあるフク王国の出身ですたい」
「ほ〜ん、可愛らしい方言やな」
こっちの世界で言うところの博多弁と似ているだろうか。
「はやてさんも方言ですけど、生まれはどこですと?」
「あ〜。ウチは大阪や」
「オオサカ? 聞いたこと無かです。どの辺にあると?」
「う〜ん。どう説明したらええやろか……」
異世界、なんて言えるわけあらへんし。どうしたもんかなぁ。
考えあぐねたはやてがしばらく黙り込んでいると、先にオクトーバーが口を開いた。
「もしかしてはやてさん、日本人だったりすると?」
「えっ!?」
はやては驚きのあまり、とんでもない大声を出してしまった。
慌てて口元を押さえる。
なぜオクトーバーは、日本人という単語を知っている?
驚愕の表情のまま固まるはやてに、オクトーバーが続ける。
「実は私、ダイレク……保護者が日本人っちゃけん。だから日本のこと多少は知っとるんよ」
「へぇ、そうやったんや。そんな人もおるんやな」
日本人に育てられた異世界人。
アニメでも数人しか見たことがない。(そもそもキャラクターの数え方は人なのか?)
「私みたいな人間は超レアケースですけん。内緒にしてもらえると?」
「そりゃもちろん当たり前や。けど、はこびとこころには伝えてもええかな? あいつらもウチと同じ日本人なんや」
「それは別に構わないですけん。むしろ伝えておいてほしいけん」
後日。はやてはオクトーバーが日本を知っているということを同僚のはこびとこころに伝えた。
当然はこびは声を上げて驚いた。
感情を表に出さないこころは、控えめな反応ではあるものの一応驚いてはいる様子。
こうしてオクトーバーの秘密は三人に共有された。




