教習車(ミニバス) こころとマルメラーダ
2024年4月10日にカクヨムで公開したものです。
人見こころとマルメラーダ。二人きりのミニバスの車内には、異様な空気が漂っていた。
「どうしてマルメラーダがお前なんかから学ばなきゃならないんですかねぇ」
「確かに私は、教えるのが苦手なのです。だけど、車田所長からの指示なので、仕方がないのです……」
「そういう意味で言ってるんじゃねぇんですけど、まあいいです。さっさと見せてください。お前の運転とやらを」
左斜め後ろの座席で悪態をつく新人のマルメラーダを一瞥して、こころはいつも通りバスを発進させる。
コミュニティバスのルートになっている、王都内の隘路や曲がりくねった道をミニバスが行く。
加減速や右左折などのタイミングでも車内はほとんど揺れない。
急ブレーキも勿論ゼロ。
乗客に安心感を与えるような、快適で安定した走行。
こいつ、運転上手すぎませんか?
こころのその運転技術の高さを目にしたマルメラーダは、心の中で彼女に対する評価を一段階改める。
「なるほどぉ……」
先輩が異世界人であるこころを殺さずに利用すると決めた理由が、少しだけ分かった気がした。
終点のバス停に到着して、こころが振り返る。
「マルメラーダさん、どうだったのです?」
投げかけられたひどく曖昧な質問に、マルメラーダは腕を組んで鼻を鳴らす。
「どうもこうもありません。お前のその背中を見て学べってスタンスじゃ、こっちは何も分かりませんよ」
「すみません、なのです」
至極真っ当な批判に、こころは俯きながら謝る。
「ただ、その……」
だがその後、マルメラーダが急に言い淀んだ。
「?」
どうしたのだろうか。
こころが首を傾げていると、しばらくしてマルメラーダは再び口を開いた。
「……お前、運転のレベルだけは高いですね。そこは認めてやります」
まさか、マルメラーダが褒めてくれるとは。
意外に思ったこころは僅かに目を見開く。
「ありがと、なのです……」
しかし、素直になったのはほんの一瞬だけで。マルメラーダはすぐに普段のぶっきらぼうな態度に戻ってしまう。
「っ! 勘違いすんなです。そこだけは、ですよ。『人見こころ=どうしようもないコミュ障女だ』っていう認識は全く変えてませんから」
そう言ってそっぽを向くマルメラーダ。
そんなマルメラーダの姿を見ながら、こころは内心ホッとしていた。
見習いではあれど、マルメラーダも異世界人を狩る者の一人。配属されてくるまでは、クシーディ以上に冷徹で凶暴な人物なのではないかと不安だったが、杞憂だった。
仲良くするつもりはないけれど、はこびやはやてに余計なことをしない限りは静観でいい。
こころは無表情の裏に隠していた敵意を、そっと仕舞い込んだ。




