教習車(大型路線バス) はこびとトランセ
2024年4月3日にカクヨムで公開したものです。
路線バスは大型二種免許を持っているからといって、すぐに営業運行を任せられるものではない。入社した新人運転手は、まずは様々な社内研修を受けることになる。
最初の一週間は座学。バスの構造から運賃箱の使い方、接客についてまで、バスの運転手になるにあたって必須の知識を学ぶ。
そしてその座学を終えると、いよいよ実際の路線バス車両を使っての教習が始まる。
その一連の流れはこの異世界でも同様で、今回入社してきた新人三人も座学で知識をみっちりと叩き込まれた。
ただ、この世界にはそもそも車というものが存在していないので、当然免許など誰も持っていない。だからむしろ、ここから全長10メートル、全幅2.5メートルの大型車両の運転技術を身につけてもらうまでが大変だ。
今回、沢山はこびがトレーナーとして任されたのは、ちょっぴり気の強そうな19歳の女性、トランセ。
王立魔法学院を卒業後、一年ほど冒険者をやっていたらしい。
「はこび師匠、よろしく頼んます!」
「うん。よろしくね、トランセさん」
挨拶を交わしてから、私は運転席の左斜め後ろの席に座った。
トランセは運転席に座ると、座席の位置を調整してシートベルトを装着。
それから車内がきちんと見渡せるようにルームミラーの角度を直すと、メインスイッチをオンにしてエンジンキーを回した。
「それじゃあ早速、発進させてみようか。発進時のルーティン、覚えてるよね?」
「ああ。当然だ」
やや緊張した面持ちで頷いたトランセは、クラッチを踏んでシフトを2速に入れると、サイドを下ろして指示器を出す。
首振りして左右の死角を目視で確認、次いでルームミラーで車内の確認をし、バスを発進させる。
揺れもほとんど無く、滑らかな発進だ。
「うん、ショックも無くてスムーズだね。とりあえず、このまま営業所の敷地の端っこまで行ってみよう」
「うっす」
徐行で進むバスが、やがて敷地の端へと到達する。
トランセはブレーキを優しく踏んでバスを停止させた。
その後、ギアを1速に入れてサイドブレーキをかけると、プシューと車両からエアーの抜ける音と共に大きな溜め息が聞こえてきた。
「どうだった? 初めての運転は?」
「いやぁ、心臓バクバクしたぜ。こんなにドキドキするもんなのな」
「そうだよ。でも、バスの運転手にはその緊張感が大事なんだよ」
バスの運転手は乗客の命を預かる仕事だ。
だからこそ、常に適度な緊張感を持って運転することがとても大切なのである。
「よし、次はバックに挑戦してみようか」
「おっしゃ!」
トランセはかなり飲み込みが早く、何よりセンスがあった。
みるみるうちに運転技術は上達していき、一ヶ月もしないうちに公道も危なげなく走れるレベルになった。




