避難バス第59便 営業所の被害は
2024年2月21日にカクヨムで公開したものです。
悪夢のピストン輸送を終えて王都南門で合流したはやてとこころは、キョロキョロしながら人混みの中を歩き回っていた。
「はこびの奴、どこ行っちゃったんや?」
「もしかして迷子、なのです?」
「あははっ、あいつに限ってそれは無いやろ〜。でもホンマにおらんな……」
はこびの姿が見当たらず、心配そうな表情を浮かべる二人。
するとそこへ一人の少女が声を掛けてきた。
「もしかして、御者のお姉さん探してる?」
「えっ、そうやけど。何か知ってるん?」
はやてが首を傾げると、少女は無表情のまま言った。
「さっき王都に戻っていくところを見たよ。追いかけるから待ってて」
そして、それだけ言い残すと返事をする間もなく足早に立ち去ってしまった。
「あっ、ちょっ! 嬢ちゃん、今行ったら危ないで!」
「ミイラ取りがミイラになったら嫌なのです……」
その場に取り残されたはやてとこころは、はこびを探しに行った少女の背中をただ見つめることしか出来なかった。
王都の外縁部を歩き続けること約二十分、何とか無事に西門まで辿り着いた。
ここから営業所までは大通りを真っ直ぐ行くだけ。
しかしこの先は何も無い開けた場所なので、魔物に見つかるリスクも高い。
慎重に行動しなければ……。
意を決して王都の外に出る。
それからしばらく進んでいくと、遠くに営業所が見えてきた。
周辺に魔物の姿はない。営業所や車両に被害は出ていなさそうだ。
少し安心する。
異様な静寂に包まれた道を歩いて、ようやく営業所の前に到着。
私はそのままの足取りで水素スタンドや営業所の建物、車庫に停めてあるバス車両を見て回った。
「良かった。魔物は来てない……」
一通り確認を終えて、ホッと胸を撫で下ろす。
その時、突然背後から声を掛けられた。
「見つけた。仲間が心配してるよ?」
「うわぁっ、びっくりした……!」
驚いて振り返ると、そこに立っていたのは以前ベビーカーを乗せるのを手伝ってくれた魔法使いの少女だった。
無表情のまま、じっとこちらを見つめている。
「仲間って、私と同じ制服を着てる人ですか?」
「そう。二人」
つまり、はやてとこころ。
南門で合流する約束をしていたのに黙っていなくなってしまったから、ずっと探してくれていたんだろう。ちょっと申し訳ない気持ちになる。
「御者のお姉さんはどうしてここに? ここは危ないよ」
当然の疑問を投げかける少女に、私は並んで停まったバスを見ながら答える。
「危険なのは分かってるんですけど、バスが大丈夫か心配で……」
「じゃあ、私が守ってあげよっか?」
「えっ?」
「だってそれ、大事なものなんでしょ?」
まさかの提案に、私は首を横に振る。
ありがたいけれど、流石に彼女に守ってもらうのは違う気がする。
「いやいや、お客様にそこまでして頂くわけには」
「いいからいいから、遠慮しないで。私もバス無くなったら困るし」
「……。じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」
「うん」
そこまで言ってくれるなら、お願いしてしまおう。
ただ、どうせ守ってもらうならバス車両じゃなくて。
「あの、そしたらこっちの設備を守ってもらってもいいですか?」
私が指差したのは、太陽光発電設備と雨水から水素を作る水電解装置が一体となった水素スタンド。
少なくともバス三台は安全な場所にある。
であるならば、より失いたくないのは余剰車両ではなく動かすための燃料だ。
この設備が破壊されて水素が充填出来なくなれば、この世界ではもう二度と事業を継続することは不可能になってしまうのだから。
「分かった。守っとくね」
「お願いします。私はあっちの建物の中にいるので、もし何かあったら」
「了解」
こうして私は魔法が使える少女と二人きりで、魔物が過ぎ去るまで営業所内に留まることになった。




