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異世界ローカル路線バス  作者: 横浜あおば
第一期中期経営計画

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42/202

臨時 バスの日イベント2023

2023年9月20日にカクヨムで公開したものです。

 毎年9月20日はバスの日。だけど今年はそれだけじゃない。

 なんと2023年9月20日は日本のバス120周年なのである。


 明治36年(1903年)9月20日、二井商会が京都の堀川中立売〜七条駅及び堀川中立売〜祇園の2区間で乗合自動車の運行を始めた。これが日本のバス事業の始まりと言われていて、それから今年は120年の節目の年。


 と、そんなメモリアルなバスの日を記念して、埼京交通バス異世界営業所では『お客様感謝デー』というイベントを開催することになった。


 いつも利用してくださる地域の皆様に楽しんで頂けるよう、バス車両やパネルなどの展示はもちろん、制服・制帽を着用しての記念撮影やグッズ・備品の販売まで、あらゆる催しが目白押しだ。


 中でも最も注目されているのが、目玉企画のステージイベント。

 特別ゲストとして、あの超人気アイドルの天川《あまかわ》スピカが来てくれるのだ。



 当日、ステージ裏。


「緊張してる?」


 きらびやかなアイドル衣裳に身を包んだスピカに至近距離で話しかけられて、私は思わず顔を仰け反らせる。


「あっ、はい! 大丈夫です……!」


 近い近い。

 こんな間近でその星空のような綺麗な目で見つめられたら、私どうにかなっちゃいそうだよ。


「今日は呼んでくれてありがとっ! 一緒に頑張ろうね☆」

「いえ、こちらこそイベント出演のオファーを受けて頂いてありがとうございます。スピカさんの足を引っ張らないよう頑張りますので、よろしくお願いします!」


 深々とお辞儀をすると、彼女は朗らかに笑った。


「いいっていいって。それよりはこびちゃん、こういう時に大事なのは自分が楽しむこと、だよ☆ ほら、始まるよっ!」


 司会進行を務めるはやての呼び込みを受けて、二人で同時にステージへ上がる。

 スポットライトが浴びせられると、アップテンポな曲が流れ始めた。


 天川スピカが日本にいた頃に在籍していたアイドルグループ、聖橋《ひじりばし》84(エイトフォー)のヒット曲の一つである『ノンストップジャーニー』。


 私は今から、この曲をスピカとデュエットで歌って踊るのだ。

 普段はただの路線バスの運転手である私が、人前で有名アイドルと一緒に……。

 ドキドキしすぎて、今にも心臓が張り裂けてしまいそうだ。


 歌い出し。緊張から声が少し上擦る。

 踊りもどこかぎこちなく、精彩を欠く。


 上手くやらなきゃと思えば思うほど、逆に駄目になってしまう。


 ああ、どうしよう。大勢の人が見てるのに。

 これじゃあ私、スピカさんの邪魔してるだけじゃん。


 歌いながら、ネガティブな思考に陥る私。


 するとその時、スピカがふとこちらに視線を向けた。

 優しく微笑み、もっとこっちにおいでよと手を伸ばす。


 そのちょっとした気遣いのおかげで、少し気持ちが楽になった。

 段々と練習通りに歌えるように、踊れるようになってきた。


 お客さんの盛り上がりが高まっていく中、サビに突入。


「♪アクセル全開で走り出した」

「♪僕ら行き先も決めないで」

「♪降車ボタンは押さない」

「♪ブレーキなんか踏まない」

「「♪どこまでも行こうノンストップジャーニー」」


 やった、ちゃんと歌い切れた。踊り切れた。

 肩で息をしながら、スピカと笑顔で見つめ合う。


 彼女はキラキラと輝いていて、やっぱりスターは違うなぁと感心する。


 直後、集まっていたお客さん達からの拍手と大歓声。

 私とスピカによるステージイベントは見事成功に終わった。



「今日はありがとうございました!」


 ステージ終了後。

 バスの日イベントを大いに盛り上げてくれた立役者スピカの元に挨拶に向かうと、普段着姿の彼女は明るい笑みを浮かべた。


「はこびちゃん、さっきは素敵なパフォーマンスだったよっ☆ アイドルにスカウトしたいくらい」

「いやいや、私なんかアイドルには向いてませんよ」

「そう? 全然イケると思うけどなぁ。……でもそっか、はこびちゃんはずっとバスの運転手に憧れて、焦がれてるんだもんね。アイドルになるのは違うか」


 そう言って、「あははっ☆」と無邪気に笑う。

 それからスピカは真剣な顔になると、続けた。


「これからも夢を追い求めて頑張ってね。私も応援してるから」


 ぽんと肩に手を置いて、「それじゃまたね」と帰っていく。


 最後に見せたあの表情と、言い残した言葉はどういう意味だろう? 何か意味深に感じられたけど……。


 ともかく、あの天川スピカから応援されているのだ。

 私ももっともっと頑張らなきゃ。


 異世界で路線バスが、地域住民の生活の一部になるように。みんなから愛される存在になるように。

 ここから異世界でのローカル路線バスの歴史を紡いでいこう。

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