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異世界ローカル路線バス  作者: 横浜あおば
第一期中期経営計画

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異19系統 王城前〜ワドクリフ一街区〜ロースティア五街区〜王都北門

2023年4月19日にカクヨムで公開したものです。

『次は火の見櫓。いざという時のために、家庭用火災報知器を設置しましょう』


 私が車内放送の操作ボックスのボタンを押すと、次の停留所を案内する自動音声が流れる。


 火の見櫓停留所。確かに火の見櫓の目の前にあるバス停だが、ファミリー層が多く住む地区のためか比較的子供連れや家族での利用客が多い。


 停留所が近づいてくると、バスを待つお客さんの姿が確認できた。


 ブレーキを踏んで、ゆっくりと減速して停車。

 前扉を開けると、二人乗りベビーカーを押した母親が問いかけてきた。


「二人用乳母車って、乗せても平気ですか?」

「はい。もちろんですよ」


 答えつつ、右手でレバーを動かして後ろの扉を開ける。


 公共交通機関では、二人乗りに限らず原則としてベビーカーはたたまずに乗車して良いことになっている。今は乗客も数人しかいないし、特に何の問題もない。


「今、スロープ出しますね。少々お待ちください」


 私は運転席から出ると、急いで後ろのドアへ向かった。

 そして、一度バスを降りて車体下部からスロープを引っ張り出そうとしゃがみ込む。しかし。


「よいしょっと……。う〜ん、あれ?」


 普段ならすぐに出来るのに、どこかが何かに引っ掛かっているのだろうか? なかなか上手く引っ張り出せない。


 すると、痺れを切らしたのか乗客の少女が私に声をかけてきた。


「ねえ、御者のお姉さん」

「お急ぎのところ申し訳ありません。もう少々お待ちください」


 文句を言われるものだと思って、私は即座に謝罪の言葉を口にする。

 けれど、少女は真顔のまま首を横に振って、こう続けた。


「あの人の乳母車を乗っけたいんだよね? なら、あたしが魔法で浮かせれば済む話じゃん?」

「えっ?」


 直後、少女の発動した魔法によってベビーカーが宙に浮かぶ。

 そのまま空中を滑るように移動して、車内にそっと下ろされる。


「はい完了」

「あっ、ご協力ありがとうございます……!」


 座席に戻ろうと踵を返した少女の背中に、私は慌てて感謝を述べる。


 こういう時、大抵の場合は文句を言われたり迷惑がられたりすることが大半で。それが我々バス運転手にとってはプレッシャーやストレスになる。

 目的地への到着が遅れて苛立つ気持ちも分かるが、利用者の皆様にはこんな風に心にゆとりを持って接して頂けるとありがたい。


 少女の協力のおかげでスロープを出す必要は無くなった。

 私は一人掛けの席の一つを折りたたんでベビーカーを固定すると、急ぎ運転席に戻った。


 母親が運賃を支払ったところで、前と後ろのドアを閉めてバスを発進させる。


『このバスは異19系統、王都北門行きです。次はハルスキア通り。お降りの方はブザーでお知らせ下さい』


 その後、バスの乗り心地が良くなかったのか双子の赤ちゃんが泣きそうになったのだが、そのピンチも先ほどの少女が救ってくれた。ちょっとした魔法を使って見事にあやしてみせたのだ。


 きっとあの少女は、無愛想に見えて意外と赤ちゃんが好きなのだろう。

 あやす姿をミラー越しに眺めながら、そう思った。

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