異20系統 サグヴィット河道〜マルーテ峠〜バルダイト塩湖〜ニコラック村
2023年4月26日にカクヨムで公開したものです。
『ご乗車ありがとうございました。次は終点、ニコラック村。お忘れ物ございませんようご注意下さい』
このバスは山間部の集落に向かう路線なのだが、今日はやけにお客さんが多い。
見たところ冒険者がほとんどで、その村の住民といった感じでもない。一体終点に何があるというのだろうか?
「ありがとうございました。ニコラック村、終点です」
アナウンスしつつ、前と後ろの扉を同時に開ける。
ドアが開くと同時、席に座っていた乗客たちが一斉に立ち上がった。
「よっしゃ、やっと着いたぜ!」
「早く行かねぇと売り切れちまうからな!」
仲間同士会話をしながら、ぞろぞろと降りていく冒険者パーティー。
売り切れる。ということは、目的は何かしらの商品なのか?
興味が湧いてきたので、もう少し聞き耳を立ててみる。
「そうだ。ついでにあのハイポーションも買い足しておかないと」
「うんっ。あそこのお店のは他のと違って早く効くからね!」
今の会話から察するに、特定の商品では無さそうだ。
つまり、この人たちのお目当てはお店屋さん?
と、考えたところで正解の知りようはない。
私は最後の一人が降車するのを見送った後、運転席を出て車内の見回りを開始した。
その日の夕方。
『ピンポンパーン。大変お待たせ致しました。このバスは異20系統、マルーテ峠経由サグヴィット河道行きです。発車までしばらくお待ち下さい』
昼間の路線の折り返し便。
出発時刻を待っていると、ベレー帽を被った可愛らしい女の子が乗り込んできた。
「今日は素材採集に行くはずだったのに、お客さんが多くてこんな時間になっちゃったよ〜」
疲れた様子で独りごちながら、運賃箱に220ゴールドを投入する。
その独り言に、私はぴくんと反応する。
ひょっとして、昼間の謎が解けるのでは?
「あの、もしかして。何か有名なお店屋さんをやられてたりします?」
問いかけると、女の子は「ふぇっ?」と首を傾げてから、快く笑顔で答えてくれた。
「有名かどうかは分かりませんけど。私は錬金術師で、この村で店舗を経営しています。まだ駆け出しですけどね」
やっぱり。答えが知れてちょっとスッキリした。
「そうだったんですね。すみません、いきなり質問してしまって。昼間の便のお客さんがやけに多くて、皆さん同じ目的地だったようなので。何があるのかずっと気になっていまして……」
「ああ、なるほど。それ全部うちのお得意様ですね」
さらりと言ってのけるあたり本人に自覚は無いのだろうが、相当な人気店らしい。
「あっ、そうだ。もし良かったら、今度車内に広告を出してみませんか? 営業所で受け付けていますので」
バスの車内広告の枠にはまだ空きがある。
思い出したので、ついでに宣伝しておく。
「なるほど、張り紙か。ちょっと検討してみますね」
女の子は数秒ほど顎に指を当てて考えた後、そう言ってにっこりと笑うと一人掛けの席に腰を下ろした。
時計を見遣ると、既に発車時刻になっていた。
扉を閉め、バスを発進させる。
『発車致します。お掴まり下さい。本日も埼京交通バスをご利用いただき、誠にありがとうございます。この車は、異20系統サグヴィット河道行きです。次はウグフィム林道入口。お降りの方はブザーでお知らせ下さい』
後日、錬金術師の女の子は実際にお店の広告をバス車内に掲出した。
そのポスターの集客効果は予想以上に抜群だったようで。
一ヶ月ほどが過ぎた頃、疲れ切った彼女が営業所を訪れてきて言った。
「あの張り紙、もう剥がしてください。忙しすぎて私の体がもちません……」
どうやらキャパオーバーになってしまったらしい。
結局、彼女のお店のポスターが車内に掲示されたのはその一度だけだった。




