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異世界ローカル路線バス  作者: 横浜あおば
第一期中期経営計画

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異09系統 王城前〜ワドクリフ一街区〜王都西門〜異世界車庫

2023年2月8日にカクヨムで公開したものです。

 車庫行きの最終バス。

 冬の月明かりに照らされながら、街灯のない道を慎重に安全運転で走行する。


『ご乗車ありがとうございました。次は終点、異世界車庫。お忘れ物ございませんようご注意下さい』


 静寂に包まれた車内に自動音声が流れる。


 営業所の周りには家も建物も無い。加えて真夜中だ。車内に乗客はゼロ。


 ではなぜこんな採算性皆無の便が存在するのか? その理由は単純だ。


 終点から営業所に戻るまでを回送にせずに営業運行にすればワンチャン客を拾えるかもしれないから。たとえ客がいなくても元々は回送だから損は発生しない。つまりノーリスク・ハイパーローリターン。


 停留所をスルーし、左ウインカーを出してそのまま車庫に入る。

 いつもの駐車場所にバスを停めてエンジンを切ると、諸々の確認作業を済ませてから営業所の建物に戻った。


「戻りました〜」


 帽子を取りつつ声を掛ける。

 すると、同僚の遠町とおまちはやてと人見ひとみこころの二人がこちらを向いた。


「お疲れ〜」

「お疲れなのです」


 いつもならこれ以上のやり取りは特に無いのだが、今日は違った。

 はやてがおもむろに立ち上がり、私の元に歩み寄ってきて何かを差し出したのだ。


「?」


 何これ? と首を傾けていると、はやてが言った。


「今日はバレンタインやろ? はこびにもチョコレート買うてきたで」

「えっ、本当に!? ありがとう、はやて!」


 私チョコ大好き! めちゃ嬉しい。


「ワドクリフ一街区のバス停んとこにデパート的なやつあるやろ? そこで売っとったんや」

「へぇ、そうなんだ。食べていい?」

「もちろんええで」


 包みを開けると、中にはどこかで見たような一口サイズの楕円形のチョコレートがいっぱい入っていた。


「はこびはどうせ本命チョコくれる相手なんかいないやろうから、せめて友チョコくらいあげなと思ってわざわざ用意してやったんやで? 感謝せえよ」

「もう、うるさいなぁ」


 一言多いはやてを無視して、一粒を口に放り込む。

 うん、甘くて美味しい。


「ねぇはこび、いい加減恋人とか作らんの?」


 こいつは急に何を訊くんだ。飲み込んでから答える。


「別にいらない」

「仕事が恋人とか言わんよな?」

「それは言わないけど……」

「けど何や?」


 もう一粒食べて、それから続きを口にしようとすると。先にはやてが言った。


「あっ、バスが恋人とか言うのだけは勘弁してや? それは気持ち悪いで」


 えぇ……。私、普通にそう言おうとしてたよ……。

 ショックすぎてどうしていいか分からない。


「ううん、何でもない」


 とりあえず誤魔化したが、内心はとても傷付いていた。しばらく立ち直れないかも。


 友チョコにガルボを選ぶような奴に、デリカシーなどある訳がなかったのだ。

 異世界で迎えた初めてのバレンタインデーは、ちょっぴり苦い思い出になってしまった。

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