準備
あの夜、彼から日程変更のメッセージを受け取った時、心臓が一瞬止まったかのような衝撃を受けたのを覚えてる。
私たちは、いつかこの瞬間が来ることを知りながら、考えないようにして過ごしてきた。少なくとも、私はそうしてた。でも、あのメッセージを見た時、私は自分の部屋にいた。叔母さんに話しかけ、二日間の魔法のような出来事を話し終えた直後だった。
今や私の彼氏となった人からのメッセージ通知を見て、すぐに開いて読んだ。そして、そこにあったのは驚きだった。
何分もそのメッセージを見つめ続けた。必死に何か言うべき言葉を探した。
作り物めいてない言葉。彼の心を少しでも助けたり、安心させたりできる何か。でも、何も思い浮かばなかった。
だから、返事をしなかった。返したくなかったからじゃない。できなかったからだ。言葉が役に立たない、そういう忌々しい瞬間の一つだった。最悪の瞬間だ……
そうして、入院の日はあっという間にやってきた。
手術の前日、私は病院へ彼に会いに行った。彼が入院してからというもの、放課後はほとんど毎日通ってた。
彼の病室に向かってると、部屋の入り口の前に三人の人影が見えた。皆、四十代くらいに見えた。
一人は医者だった。白衣ですぐにわかった。かなり背が高くてがっしりしてた。残りの二人は知らない人だった。
彼らに近づいた。
「こんにちは」
挨拶をして、彼らが立ってる閉じたドアを通りたいことを伝えた。
三人の中で一番背の低かった女性は、肩までの美しい髪と、明るい瞳、少しふっくらした唇をしてた。ピーチピンクのシャツにロングパンツ、腕にはコートを抱えてた。男性は女性より背が高かったが医者よりは低く、短い髪に眼鏡をかけ、その奥には暗い瞳があった。青いシャツをズボンにインし、ベルトで留めてた。彼も腕にコートを抱えてた。
「こんにちは。あなたがマエダさんですね」
女性が私の挨拶に返事をした。
知らない人が私の名前を知ってることに戸惑いながらも、うなずいて肯定した。
男性も話し始めた。
「初めまして。私たち、ユウトの両親です」
ついに会えた。
ナカガワ家の兄妹を知ってから、初めて彼らの両親に会った。今まで一度も会ったことがなかった。ユウトくんが、転勤の問題について話してたからだ。
いや、いい加減に顔を出すべきだっただろう。何ヶ月も姿を見せなかった。息子の手術が迫ってるのに、まだ街に来てないのは変だと思ってた。
「ああ、初めまして」
軽くお辞儀をして挨拶した。
「こちらは私の兄です」
ユウトくんの母親だとわかった女性が、一緒にいた医者を指さして言った。
「初めまして」
私も挨拶を返した。
医者は両親に向かって言った。
「では、書類を整理してきます。事務所でお待ちしています」
そう言って立ち去り、私はユウトくんの両親と二人きりになった。
母親が話し始めた。
「ユウトからあなたのことをよく聞いています。彼のそばにいてくれて、ありがとうございます」
「あ、そんな。私の方こそ感謝しています。彼はいつも私を助けてくれるんです」
照れくさそうに言った。
すると、父親も話し始めた。
「いや、礼を言わせてください。仕事や転勤の都合で、ユウトと一緒にいる時間が十分に取れず、チカに負担をかけてしまっていました。彼女は妹ですが、家族以外に頼れる人がいるのといないのとでは違います。彼があなたの話をする時は、いつもとても生き生きとしていて、私たちがそばにいなくても、彼がここで本当にうまくやってるいることがわかりました」
「ええ。ありがとう」
二人が同時に私に向かってお辞儀をした。でも、そんな状況で何と言えばいいのかわからなかった。ただ、自分の気持ちを伝えた。
「お礼なんて言わないでください。私がしたかったからしただけです。大切な人のためにするのは、普通のことだと思います」
「そう言っていただけて、本当に嬉しいです」
母親が優しく穏やかな笑顔を浮かべて言った。
「そろそろ行かねばなりません。明日の最終確認がありますので」
今度は父親が言った。
「はい。お邪魔しました」
こうして彼らは、医者が向かったのと同じ方向に歩いていった。先ほどの医者の言葉通り、彼の事務所に向かってるのだろう。
彼らが去っていくのを見ながら、どんな気持ちなんだろうと考えた。愛する息子の命が、生と死の間で揺れてる。彼らにできる唯一のことは祈ることだ。あらゆる神様に、すべてがうまくいくように祈るしかない。
私はドアの前に向き直り、ノックした。
「トントン」
ドアの向こうから、入院患者の声がはっきりと聞こえた。入ってくるよう促す声と、もう一つ、聞き覚えのあるか細い女性の声が。
ドアを開けると、ユウトくんがベッドに横たわってた。その隣の椅子には、ハラダさんが座ってた。手術が行われる場所の関係で、数日前に彼は完全に頭を剃ってた。
「やあ、みんな」
「やあ」
「こんにちは」
二人が答えた。
突然、ハラダさんが椅子から立ち上がった。
「じゃあ、私は行くわ」
「もう行くの?」
「ええ、用事があるから」
「待って、一つだけ。うちのクラスに転校するって言ってたけど」
「ええ、でも転校手続きにこんなに時間がかかるなんて思わなかったわ。でも心配しないで。もうすぐ全部終わるはずよ。来週から通えると思う」
「そう」
その間、私はドアの入り口に立ってた。彼女が部屋を出ようとして、私の横を通り過ぎる時、ユウトくんに聞こえないようにささやいた。
「終わったら、ロビーに来て」
そう言って、彼女は出て行き、ドアを閉めた。
今度は何だろう?
きっと前回みたいに、私といとこの関係をまた批判するつもりだ。でも、今回は彼女の言葉なんて気にならなかった。私たちの関係は確固たるものになってた。彼女が私たちの関係の進展を知ってるかどうかはわからなかったけど。
でも、その要求の重要性は一旦脇に置いて、私がそこにいる本当の理由——彼を支えること——に集中した。私は彼女が座ってた椅子に座った。
「気分はどう?」
尋ねた。ちょっと馬鹿げた質問だってことはよくわかってたけど。
「大丈夫だって言ったら嘘になるな。今、本当に怖くなってきた」
彼は苦笑いしながら言った。
「逆の方が心配だったよ。でも、もう強がるのはやめなよ。震えてるのがわかるから」
そう、彼は必死に本当の気持ちを仮面の裏に隠そうとしてた。でも、私に指摘されて、むしろ不機嫌そうな表情になった。
「怖いなんてもんじゃない。気が狂いそうだ。明日、もう二度と目を開けられないんじゃないかって、すごく怖い。最後の記憶が手術室の看護師たちだったらどうしよう。怖い。怖い。怖い」
涙が彼の頬を伝い始めた。私は両手で彼の頬を包み、自分の方に引き寄せてキスをした。唇を離した後、額を彼の額にくっつけて、ささやいた。
「大丈夫。手術の後、目を覚ました時に最初に見るのは私よ。看護師たちは、あなたの古い人生で最後に見るもの。私は、新しい人生で最初に見るもの。普通の人生を送れる、新しい人生。わかった?」
「ああ。もしお前が来る前に意識が戻ったら、お前が来るまで目を閉じたままでいるよ」
「そこまでしてくれるなんて、よっぽど私のこと好きなんだね」
冗談めかして言った。でも、彼の次の言葉に、私は完全に不意を突かれた。
「愛してる」
「?」
しばらく衝撃で固まってしまった。
「愛してるって言ったら驚いたか?」
彼はいつもの冗談めいた口調で尋ねた。私はもっと真剣な表情で、答えを探してた。
「違うの。ただ、予想してなかっただけで。こういうことには詳しくないって知ってるでしょ。でも、何か感じてるの。毎日あなたに会いたいっていう抑えきれない衝動とか、一瞬でもあなたに会えれば幸せになれるとか、あなたの声を聞くだけで変な気分になるとか。そういうのって、愛のサインって言えるのかな?」
「ああ。だって、俺もお前にまったく同じことを感じてるから」
最後のキスで、その瞬間を確かめ合った。その瞬間の最後のキス。彼の人生の暗い章を閉じ、より明るい章を開くためのキス。
「明日、放課後に来るね。一度家に寄って、叔母さんと一緒に来る。叔母さんもあなたのそばにいたいって言ってた」
「わかった。でも、その頃にはもう手術室に入ってるかもしれないけどな」
でも、私の「冒険」はまだ終わってなかった。ハラダさんが待ってたからだ。ロビーに向かうと、彼女は入り口の近くにいた。
「来たよ。何の話?」
私たちは外に出て、自動販売機で飲み物を買い、少し離れたベンチに座った。冬の冷たい風を避けるために、それぞれジャケットを着て、ゆっくりと飲み物をすすり始めた。最初に口を開いたのは彼女だった。
「一度だけ言うから、もう二度と言わせないで」
「?」
前置きもなく投げ出された言葉。意味がわからなかった。
「先日言ったことを謝るわ。そして、私の言うことを聞かなかったことに感謝する。ユウトはいつも元気で明るい子だった。でも、この病気が見つかってから、だんだんと『消えていく』ようになった。でも、あなたに出会ってから、昔の彼を取り戻したみたいなんだ。話し方や振る舞い方でわかる。彼は幸せそうよ」
「彼が昔どんな人だったかは知らないし、知りたい気持ちもあるけど、もし私が彼を幸せにできたのなら、それでいい。みんな私に感謝してくれるけど、私の目には、感謝されるようなことはしてないように思える。最初は彼のことが我慢できなかった。見るだけでイライラしてた。でも今は、まったく逆の効果になってる」
「ああ、そういえば。付き合い始めたって聞いたわ」
私は手に持った缶に視線を落とした。
「私の方こそ彼に感謝してる。今の私があるのは彼のおかげ。他の人にとっては当たり前のことも、彼のおかげで体験できた。彼が我慢して支えてくれたから。だから、感謝しないで。私はただ、自分がしたいと思ったことをしただけ」
「もう一つ、謝らなきゃいけないことがあるの。ずっと罪悪感を感じてた」
「罪悪感?」
そう言ったけど、心の中では彼女が私たちの過去のことを言ってるとわかってた。
「ええ。昔、あなたにしたこと。あなたに背を向けたこと。あれ以来、ずっと後悔してる。間違ってるってわかってた。それでも、やってしまった。その重荷をずっと背負ってきた。いろんな方法であなたのことを忘れようとした。そして、自分のしたことも。初めてユウトの家であなたを見た時の驚きといったらなかったわ。穴があったら入りたかった。だから、あなたを彼から遠ざけたがったの。彼のためじゃない。自分のためよ。そんなことに耐えられる準備ができてなかった。謝っても何にもならないってわかってる。でも、少なくともごめんなさいって言いたかった」
「大丈夫。怒ってない。いや、もう怒ってない。なんて言うか、そんな行動を正当化するわけじゃないけど、理解はできる。人生において、家族以外に、他人に受け入れられることって大事なんだ。ある意味、それは成長につながる。人と一緒にいればいるほど、人の行動の違いを見分けられるようになる。そこで学んだことを使って、自分らしくいるか、集団に合わせるかは、自分次第だ。でも、集団に合わせるとき、それはただ受け入れられたいからだ。たとえ集団の行動が間違ってても。君が正しかったとは言わない。でも、もしかしたら、別の状況だったら、立場が逆転してたかもしれない」
「わかったわ。ありがとう」
「ねえ、一つお願いがあるんだけど。まだこの分野は初心者だから、間違うかもしれないけど」
「何?」
「よかったら……その……友達になってくれない? つまり、最初からやり直すってこと。もしよかったら……」
どもりながら言った。ユウトくん以外に、こんなに自分をさらけ出したことはなかった。誰かに友達になってほしいと頼むのは初めてだった。皮肉なことに、その相手は私の最初の友達だった。私の質問に、彼女は奇妙な反応をした。
「ぷっ、あははは!」
突然、彼女は大笑いし始めた。
「何? 変なこと言った?」
「いやいや、頼み方の出だしが大げさだったから、どれだけ複雑で馬鹿げたことかと思ったよ。どもってたし」
「言ったでしょ。こういうのは得意じゃないの……」
少し不機嫌そうに答えた。
「もちろん、喜んで。ただのエウイコでいいよ」
「わかった、エウイコさん。私も同じでいいよ」
「わかった、アヤメさん」
会話の後、私は家に向かった。彼女は叔父さん夫婦に送ってもらうことになってた。
思いがけず、新しい友達ができた。しかも、今回は私から一歩を踏み出した。
翌日、予定通り放課後にすぐ家に帰った。叔母さんと一緒に病院に行き、学校の荷物も置く時間があった。叔母さんはこの日のために休みを取って、チカさんとその家族のそばにいることにした。もうすっかり彼女とその弟に愛着が湧いてて、どうしても行きたいと言った。もちろん、叔母さんはヒロを病院には連れて行かなかった。特に時間が決まってなかったからだ。ヒロは友達の家に預けられ、その夜はそこに泊まることになった。
でも、家のドアに着いた時、変なことに気づいた。玄関のドアが少し開いてた。変だと思ったけど、あまり気にしなかった。叔母さんが閉め忘れたのかもしれない。彼女は時々すごくうっかりしてる。
「叔母さん、ただいま」
中に入ってドアを閉めながら叫んだ。
もう一つ、変なことに気づいた。家中の電気が全部消えてて、外からの太陽の光も入ってこなかった。つまり、窓も全部閉まってるはずだ。
「叔母さん、どこ?」
呼び続けても返事がなかった。急いで靴を脱いで、家中を探し始めた。すぐに見つかった……
「叔母さん!」
キッチンの床に倒れてるのを見つけて叫んだ。
反射的に彼女に駆け寄った。
「叔母さん、返事して!」
一瞬、気分が悪くなって倒れたのかと思った。でも、頭から血が少し出てる傷があるのに気づいた。それに、いくつかの物が床に落ちてた。家の中に誰かがいる。
キッチンのドアが閉まる音がした。振り返ると、人影が見えた。ゆっくりと明かりがつけられ、そこに現れたものを見て、私は一瞬で凍りついた。
「あ……あなた?!」
「ただいま、お嬢ちゃん。パパは帰ってきたぞ」




