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救出

大まかな流れは変わっていませんが、今までの作品を見直して書き足しています。

 


 ――ナラノが拐われたとき、ベネット公爵家にて。




「――それで、カシミール? ナリィはどこに連れ去られたのだ?

 『カラス』であるお前が把握できないわけはないよね?」


「えぇ、もちろんです、ホワイト様。

 ナラノ様は現在リバース男爵家の隠し倉庫に囚われており、ベネット公爵家の私兵をすでに向かわせナラノ様の安全を最優先に動いています。

 また、ナラノ様の婚約者のフランツ様と幼馴染のアロイス様にそれとなく情報を流して、それぞれの公爵家にも救出に向かうように手配をしております。」


「うん、それでいい。とにかく、何を使ってでもナリィを無事に吸収させるんだ」


「はっ!」





 ベネット公爵家は、『カラス』と呼ばれる闇の組織を従えている。


 その仕事は多岐にわたるが、一つだけ言えるのは、

『ベネット公爵家に暴けない情報はない』、ということだ。


 潜入捜査や、スパイ活動、どんな場所からでも情報を掴んでくるため、ペリクレス王国内一の『情報屋』としての顔を、ベネット公爵家は持っているのだ。




 三代公爵はそれぞれ、

 財力のロバーツ公爵家、武力のマーティン、情報のベネット公爵家と、呼ばれている。




「それにしても、この犯人も()()リバース男爵家が関わっているんだねぇ。

 リバース男爵家でナリィと接触があるとしたら、マリア=リバースだけど、彼女、どうせロクでもない私怨でも絡めてきたのだろうね」


「はい、私どもで調査した結果はマリア=リバースの私怨で間違いありませんでした。

 なんでも、ナラノ様の婚約者のフランツ様を愛しておられたようで、フランツ様の婚約者となられたナラノ様をお門違いにも恨んでいたようなのです。」


「ははは、ほんとに、愚かだね。

 そもそも、あのストーカー野郎のフランツが、ナリィ以外に目を向けるわけなんかないのにね。『愛されるかも』、だなんて、馬鹿な勘違いをしてナリィを恨むなんて…………許せないな。」


 カシミールからの報告を聞いて、ホワイトは薄らと不気味な微笑みを浮かべていた。


 その笑顔を、ナラノが見たのならば、『マリア、逃げて!』と敵のマリアに言ってしまいそうなくらい、恐ろしいことを考えていそうな恐ろしい笑顔だった。



「情報戦で、我がベネット公爵家に勝とうだなんて、マリアという娘には舐められたものだね。」


「まったくです。」


「ナリィを蝕んでいたものだって、他国の王族が絡んでいたから、犯人特定までに余計に手間取った。だけどね、その件だって、リバース男爵家が絡んでいたってもう把握済みだ。

 私の大切な、大切なナリィを傷つけたのだから、マリア=リバースには()()()()()()にあって反省してもらわないと、いけないよね」


「そうですね。


 ――ああ、そういえば、……フランツ様が『最近開発したという魔法研究の実験体がほしいが、あたりにも人道に反するために、犯罪者や罪人でもよほどの人でないと困る』、とおっしゃられていましたね」


「へぇ……、それはいいね。あのフランツがそんなことを言う、ってことは()()()()()なんだろう。

 ……うん、いいね!

 こんなことをしたマリア=リバースには、罰として、その実験体になれるように、ベネット公爵家として推薦を出しておいてあげよう。」


「はい、それが妥当ですね」


 そう言って、カシミールはホワイトに一礼をすると室内から音もなく立ち去っていた。

 そこには、普段のニコニコと優しげなカシミール先生の面影はなく、どことなく関わりづらい、恐ろしい闇の組織の一員の顔をしていたのだった。






 ――結局、マリア本人が知らないところで、マリアの罰は決まったのだった。


 ナラノを傷つけられて怒りに燃える兄ホワイトと、密かにナラノに想いを寄せているカシミールによって、マリアにはフランツの魔法研究のとんでもない実験体になれるようにベネット公爵家から推薦が与えられることに決定してしまっていた。




「ほんと、リバース男爵家は親子揃って馬鹿ばっかりだ」


 カシミールが立ち去った後の部屋でホワイトは呟いた。


「ベネット公爵家に歯向かえばどうなるかなんて、わかっていたはずだろうに。たとえ、一時的にベネット公爵家を欺けていたとしても、永遠に騙したり、隠し続けるなんて、できるわけないじゃないか。」





 すでに、リバース男爵家がペリクレス王国と敵対する他国からきたスパイとつながっていた証拠は、こちらでおさえていた。


 そして、その、他国からきたスパイというのが、マリア=リバースの母親であり、女と酒に目がない、リバース男爵が骨抜きにされてしまっていたことも調査済みだ。






 ――元凶のリバース男爵家と、他国のスパイだったリバース男爵夫人にはそれぞれ、相応の罰を与えている。







 リバース男爵には、ベネット公爵家の領地内で一番過酷な鉱山での重犯罪人用の業務に死ぬまで働かせることになった。


 そして、夫人も同様に、その鉱山のそばの娼館で死ぬまで働いて償ってもらうことになった。




 2人とも、自分達の悪事がバレるとは思っていなかったようで、ベネット公爵家の私兵に連行されていくときは、


「わ、私が悪いんじゃないっ! ナラノ=ベネットが悪いのだ!

 っ、おい、私を助けろっ!! そうだ、マリアに惚れているフランツを呼べ! マリアの父の私にこんなことをして、ロバーツ公爵家が黙っていないぞっ!」


「この私にこんなことをして、この国が無事で済むと思っているのは?! 戦争になっても知らないからね!?」


 と、意味不明なことを叫んでいた。






 そもそも、フランツはナラノを愛しており、マリアのことは好いていないので、『ロバーツ公爵家が怒る』、だなんて馬鹿げた話は起こらないのだ。


 それに、マリアの母が言っていた、他国がスパイだったマリアの母を捕まえられて戦争になる、という話もありえない。


 なぜなら、すでにマリアの母は他国から捨てられているからだ。






『ペリクレス王国のリバース男爵夫人と我が国は無関係である』とは、他国の王からの言葉だ。






 つまり、『スパイに失敗したお前はもういらない。お前はペリクレス王国のリバース男爵に嫁いだ人間なんだし、失敗したのならば自分で責任を取れ』、ということらしい。




 冷たいようだが、彼女は切り捨てられたようだ。




「そ、そんな、うそでしょっ! 私が、捨てられた……?!! ありえないっ!!」と、リバース男爵夫人は最後に事実を知らされて叫んでいたが、どうしようもない。




 他国としても、スパイによってペリクレス王国の内部から崩壊させて、国力を削げるのならば良い、と思っていたのだろう。


 だが、まさか本気でペリクレス王国と敵対して戦争をする国力は他国にはない。




 ペリクレス王国内の三代公爵の内、フランツとマリアの婚姻が無理矢理に結ばれれば、ロバーツ公爵家とベネット公爵家は今までより不仲になるだろう。

 また、ナラノを慕っているアロイスのマーティン公爵家とて、フランツのロバーツ公爵家とは溝ができてしまうだろう。



 それを他国は望んでいたのだろう。



 そうすれば、戦争などせずとも、他国はペリクレス王国を弱らせることができるから。


 だから、三代公爵を不仲にさせるという計画だったようだ。








 だが、順調だったその計画に問題が起きた。


 なぜか、奥手だったはずのナラノ=ベネットが、ある時からフランツ=ロバーツに好意を伝えようと積極的に予定外に動き、フランツの魔法研究係になっていたのだ。


 でも、そこはマリアの活躍で両想いのナラノとフランツをすれ違わせられたと思った。


 なのに、その後もフランツは魔法研究係から図書係になったナラノに、何かと気にかけ続けた。


 他国としては、三代公爵の仲に亀裂を入れられなくてヤキモキしていた。






 ――そして、トドメは、ナラノの『聖女』誕生だった。






 地道に弱らせていたはずのナラノを蝕んでいたものは、あっさりと消え去ってしまったのだ。


 そのあと、アロイスにアプローチされていたナラノを見たフランツは、嫉妬の怒りでナラノへの愛を告白してしまった。


 そして、ナラノとフランツは両想いになってしまい、当初のペリクレス王国の内部から三大公爵の不仲にさせて崩壊に導くという計画は、台無しになってしまったのだ。


 しかも、リバース男爵家やリバース男爵夫人として潜ませていた他国のスパイのことまで、ベネット公爵家によって調査されてしまっていた。


「なんということだっ! これでは、ペリクレス王国の内部崩壊は見込めないではないか!

 しかも、聖女だとっ?! そんな存在にあからさまに敵対してしまっては、こちらとてどんな反動がくるかわかったものではないではないかっ!」


 聖女の力は明らかにされていない部分も大きい。


 ただ、わかっているのは、聖女は魔獣や魔症を癒すだけでなくすべてを癒す存在だといわれているのだ。





 つまり、だ。




 人や土地だって、聖女にかかれば簡単に癒されるのだ。


 長年、不作だった砂漠の土地ですら、聖女の癒しの力さえあれば、『雨が降り、水が湧き出し、土地は栄養を取り戻して、緑豊かで生き物が溢れる土地になれる』、ということだ。


 それだけでも物凄い力なのに、まだこれでも聖女の力は分からないことが多すぎる。他に何ができるのか、考えるだけでも油断できない力だ。


 他国としても、ペリクレス王国は目の上のたんこぶで邪魔だと言って排除したいが、『聖女がいるペリクレス王国』に敵対するほど恐ろしいものはないのだ。


 元々、他国よりもペリクレス王国の方が土地も豊かだし、国力が高いのだ。

 そこで、三代公爵を不仲にさせて、ペリクレス王国の国力を落とし、抵抗力を低くしたところで、他国がペリクレス王国の肥沃な土地を奪い取ることも狙った計画だったのに。


「なぜ、『聖女』だなどと、伝説上の存在がまたしてもペリクレス王国の方に誕生するのだっ!」


 無念そうな顔で、敗北を悟った他国の王は、長年の計画の失敗を理解して悔しそうな顔をした。


「はぁ…………我が国は、『ペリクレス王国に敵対する意思はない』、と伝えねばならぬ。」


 ひどく疲れた様相でペリクレス王国の今回の騒動とは無関係だったという弁明を考えることにした。


 おそらく我が国の企みすら暴いていそうなベネット公爵家への対策も考えなければいけないし、他国の王は頭を押さえたのだった。






 ――――






 ドンッ!!






「ナリィ!!」


 フランツが駆け寄ったとき、ナラノは意識を失ってしまっていた。


 思わずフランツは、マリアを押し退けていたが、その反動でマリアは吹っ飛び、地面に顔をぶつけたようだ。



「っ、きゃっ! いっったぁあああいっ! …………え、なんで? どうしてここにフランツ先生がいるの? リバース男爵家の者達は?」


「ナリィ、大丈夫か?! すまない、私がもう少し早く君を助けに来ていればよかったのに。」


「フランツ先生? ちょっと、どうなってるのよっ!」


「ナリィ、とにかく、君を早く安全な場所に連れて行こう。もう、こんな場所にはいてほしくない。」


「……私を無視しないでよ、フランツ先生!」


 ナラノにばかり目を向けて、押し退けたマリアの呼びかけに答えないフランツに、マリアが顔を真っ赤にして怒っている。


「黙れ」


「……………は?」


「黙れと言っている。こんな簡単なこともわからないのか」


「は、はぁあああああああっ?!! 何言ってるの? 黙れ、ですって?! この私に?」


 気を失ったナラノを横抱きに抱えて立ち上がったフランツは、マリアに一瞥を向けると「そうだ。黙れと言っている」と繰り返した。


「ちょっ?! 何言ってるの?!! フランツ先生、婚約者の私の前で堂々と浮気しておきながら、なんなのよ、その言い方はっ!」


「?」


「ナラノと浮気するだけじゃなくて、私の目の前でイチャつくなんてっ……! 今まではなるべく許してきたけど、もうこの優しい私でも許せないわよっ?!」


「……」


 マリアは腰に手を当ててフランツを睨みつけた。


「ああ、そういうことか。この世界のお前はすでに狂っていたのか。」


「は?」


「ならば、狂人に説明しても無駄だな。」


「ちょ……なに、言って……」


 フランツに見限られたこともわからないが何か様子がおかしいと、マリアはオロオロと戸惑いだした。


「私が愛しているのはナラノだけだ。お前がどんな勘違いをしているのかは知りたくもないが、ナラノにこんなことをしたお前が今後幸せになれるとは思わないことだ!」


 フランツが目で合図を送ると、マリアは数人の男達に床に取り押さえられていた。


(わけがわからないわ!)


 頭が混乱するマリアだが、そのままフランツはナラノを抱えたまま、もうマリアの質問には答えなかった。


「どういうことっ? 待ってよ! 説明してよ……っ!!」


 室内では、意味がわからないまま拘束されたマリアの声だけが響いていた。


 きっと、マリアには理解できないだろう。


 マリアの知らない間に、リバース男爵家は取り潰しとなり、マリアの両親はすでに罰を受けていることを。


 そして、リバース男爵家で悪事を働いて仕えていた者たちも同様にすでに捕まっており、マリアを助けてくれる存在はいないということを。


 今回、マリアが単独でナラノを誘拐して殺害するために連れてきて、逃れていたリバース男爵家の残りの使用人たちですら、フランツが突入する時には捕まえられてしまっているのだ。


 もう、マリアの悪事に手をかしてくれる者はどこにもいないだろう。






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