フランツとの合流
後半は、神ジェラルド、メアリアの視点が入ってます。
「アロイス、……ナラノに何をしているのだ?」
フランツからは、凍えそうなくらい冷たい声が発せられていた。
(こ、怖いよ、フランツ。どうしてそんなに怒ってるの?)
「………………どの口がそれを聞いてるんだ?」
挑戦的な目でフランツを睨みつけるアロイス。
フランツだけじゃなくて、アロイスも見たことがないくらい怖いオーラが出ているし、明らかに怒っている声だった。
「なんだと?」
フランツは、私を抱きしめたままアロイスに聞き返した。
アロイスの返事を聞いて、素早くフランツは私を守る体制を取りながら、アロイスに向き直っていた。そのフランツの声は、機嫌があまり良くない声で、空気がピリピリとしていた。
「そのままの意味だ、フランツ先生?
俺はな、ナラノがフランツ先生のことを好きならしょうがない、って思ってたんだ。でもな、今のあんたじゃダメだ。ナラノを傷つけてばかりいるお前には、もうナラノの隣に立つ資格はない。
…………俺も、もうナラノをあんたに譲ったりしない。」
アロイスは、フランツに負けないくらい冷めた様子でフランツを見つめていた。それは、昔からのフランツとアロイスの関係ではありえないくらい冷めた雰囲気だった。
フランツとアロイスは仲が良かったはずだ。だからこそ、昔からの2人を見てきた私には、これが信じられない。
「ナラノを傷つけている、だと?…………この、私が?」
「そうだ。俺が知らない、とでも思ったのか? ナラノが記憶を失って性格が変わった事件だって、助け出したのはあんただが、守れなかったのもあんたのせいだろう?」
「っ!!」
フランツから、ヒュッと、した息を飲むような音が聞こえてきた。よほどフランツは驚いたのだろう。
(でも、……事件? フランツが私を助けた? なにそれ。 ……そんな記憶は私にはないんだけど、なんの話だろう?)
「なめないでくれよ、フランツ先生。俺のマーティン公爵家だって、将来のマーティン公爵夫人になるかもしれないナラノの身辺調査はしてるんだ。
あんた、ナラノがその事件の記憶を失ったことに甘えてるんじゃないか? あの事件は、あんたがナラノを守れれば起こらなかった事件だ。
その時のことを知った時、俺がどれだけあんたを恨んだかっ……!」
「…………」
「でもな、あの事件の後も、あんたはナラノを救うために動いてくれてた。ナラノとの関係は前とは違ってなんだかおかしくなってるみたいだったけど、ナラノの兄さんと協力して、ナラノを助けてくれてるみたいだった。
まぁ、俺としてはそれもあんたの自業自得だと思うし、ナラノへの罪滅ぼしなのかな、と思ったりもして、許せないんだけどな。
それでもナラノはあんたが好きみたいだったから、俺は我慢してた。我慢して、ナラノがあんたを好きなのを見守ってきてたんだ。
…………でも、でももう我慢はできない! あんたにナラノを任せられない。これからは俺がナラノを守るんだ」
「…………」
アロイスの言葉で、フランツは青白くなるほど顔色が悪くなっている。
(なんだろう? アロイスが言ってることは意味がわからないけど。フランツの反応は、まるでアロイスの言葉が本当のことみたいだ)
「ナラノ、――――こっちに来いよ。 そいつから離れるんだ。」
アロイスがフランツに抱きしめられている私に向けて声をかけてきた。
「え?」
顔色を悪くしたフランツは、アロイスの言葉を聞くと、私を抱きしめる腕の力を強めた。
まるで、アロイスに私を奪われないようにしてるみたいだ。
(ん? これって、フランツは私を離したくない、ってこと?
…………まさかね。フランツはマリアが好きだもん……)
「ナラノは渡さない」
「は?」
「ナラノ、アロイスの所には行くな。…………行かないでくれ。」
「今更、なにを言ってんだよっ!
あんた、自分がどんだけナラノを傷つけたと思ってるんだ? あんたはマリアを選んだんだろう?! それなら、もうナラノに構わないでくれ……! あんたが中途半端な気持ちでナラノに関わると、ナラノはまた傷つくことになるんだよ! 俺たちに関わらないでくれ!」
「…………それでも、だ。 私はナラノを離さない……!!」
フランツは私を抱きしめたままだ。
私を取り返そうと近づいてくるアロイスを警戒して睨みつけている。
(というか、待ってほしい。アロイスも、フランツも、私の気持ちを無視しすぎじゃない?!!
2人揃って、私を物みたいに扱ってるけど…………選ぶのは、私だよね?!!)
――――私が誰を好きなのか?、とか、誰と一緒にいたいのか?、とか、それは私自身が決めることじゃないだろうか?
「――――だからっ! 俺はナラノが好きなんだ! ナラノを傷つけたフランツ先生には、ナラノは任せられないっ!!」
「たしかに、アロイスの言う通り私はナリィを傷つけたのだろう。
だが、私はナリィのことを誰よりも愛している。ナリィのことは生まれてからずっと見守ってきたのだ。これからもナリィを愛しているし、誰にもナリィは渡さない。」
「え、いや、だからっ! フランツ先生は、マリアが好きなんだろ?! それなら、もうナラノから手を引いてくれよ! ナラノは俺がっ!
マーティン公爵家が責任を持って幸せにするからさっ!」
「ふっ…………バカなことを言うな。私がナリィ以外を愛するわけがないだろう? マリアなど、好いているわけがない。
私が愛しているのはナリィ、ただ1人だけだ!
………………アロイス、お前こそ、そろそろナリィから手を引け。」
「え、嘘だろ……じゃあ、なんでマリアに近付いてたんだよ!?」
「ナリィを救うためだが? 当たり前だろう? そんな当たり前のこともわからないのか?」
(いやいや、わかんないよ! 言ってくれなきゃ、わかんない!
私はてっきり、フランツはマリアのことが好きなんだと、ばっかり思ってたよ! えぇっ! ってことは、フランツがマリアを好きだと思ってたのは、私の勘違い?!! ……ガーンっ!)
予想外のタイミングで、フランツがマリアを好きじゃなかった、という衝撃の告白を聞いて、私は驚いた。
「っ!! どういうことだよ、それっ! 詳しく説明してくれ。
そんで。それならそうと、もっと早く言ってくれたら良かったんじゃないのか? うん、そうだよ。
あーっ、やっぱ、だめだめ! だめだぞ。 こんな口下手な奴に、ナラノは渡せない!」
(そうだよ、フランツ! フランツは口数が少なくてもカッコいいし、天才だけど! ちゃんと話してくれないとわかんないこともあるんだからね?!!)
「はぁ……なにを騒いでいるのだ、アロイス? どう思おうと勝手だが、私はナリィを渡さないぞ?
それでも私からナリィを奪うと言うならば、それなりの覚悟があるのだろうな?」
私は冷気を漂わせまくっている、尋常じゃない雰囲気のフランツに抱きしめられている、今この時も、フランツとアロイスはいかに私を愛していて、どちらが私に相応しいのかについて、勝手な舌戦を繰り広げている。
(なんだこれ……馬鹿らしい……というか、私のことなのに、なんでフランツとアロイスが決めようとしてるんだろう? 勝手に決めないでほしいんだけどな)
「もちろん、覚悟はしてるさ! 俺はナラノを愛してるんだ! 魔症からも救ってくれたナラノを俺は愛してる! フランツ先生には任せられねぇんだよ!」
「ほぉ? 同じ公爵家とはいえ、まだまだ未熟なアロイスが言うではないか。…………よかろう。相手になってやろうではないか。」
フランツは、強者が弱者を痛ぶるような、そんな余裕さえ見せながら、敵愾心を向けているアロイスを見据えた。
同じ公爵家同士とはいえ、魔法研究に秀でたフランツが攻撃をしてきたら、さすがにアロイスが危険だ。
(ま、まずい! このままじゃ、アロイスが危ないっ!!)
怪しい笑みすら浮かべそうなフランツの表情を見た時、私の本能がフランツを止めろ! と叫んでいるように感じた。
アロイスは強い。
マーティン公爵家は武に優れた家系なのは知ってるし、アロイスだって、並大抵の相手なら負けたりなんてしないし、心配する必要はない。
でも、私が大好きなフランツは規格外なのだ。フランツは、規格外な程、知能と身体能力の両方が高いのだ。
…………うん。いわゆる、『チート』ってやつだ。
それに、今のアロイスは万全の体調ではない。
さっき私が魔症を払ったけど、それでもやっぱり、私達は魔獣に襲われて体力は消耗してるはずだ。
今はフランツと闘うよりも、身体を休めてほしい!、っていうのが私の本音だ。
「じゃ、行くからな!」
「あぁ、かかってきなさい」
「あああああああっ!!!! ちょっ、ちょっと、待ってぇえええー!!」
殺気立ちながら見つめ合う2人を邪魔する様に、私は大声を上げた。
「「?」」
フランツとアロイスは、突然の私の奇行が理解できないようで、首を傾げながら、キョトンとした顔で私を見つめている。
「だめっ! ダメダメ!! 喧嘩はダメだよ!
フランツとアロイスの気持ちは嬉しいけど……私が好きな人は私が決めるんだから! 私が誰と一緒に居ることにするのか、ってことも、私が決める! だから、2人だけで喧嘩なんてしないで!」
(うわー……イタイ。我ながら、イタすぎる発言だと思う。恥ずかしいな、コノヤロウ!
で、でもさー。今、フランツとアロイスに話しておかないとダメだと思ったんだよね。 だって、アロイスはやる気満々だけど、今の状況だと明らかにフランツが勝ちそうだよね? それで、この2人の勝手な話だと、勝った方が私と一緒になる、みたいな話の流れで…………うわー!! やっぱり、このままだと、私の気持ち関係なく決められちゃうじゃないかーっ!!)
……って、ことで。
私は、イタイ奴の行動だってわかってるけど、フランツとアロイスの間に入って喧嘩を止めたわけだよ。
「「…………ナリィ(ナラノ)がそういうなら…………」」
フランツとアロイスは、私を戸惑ったように見ながらも、渋々といった様子で争いをやめてくれたのだった。
(うん。でも、私のメンタルは思いっきり持っていかれたからねー!! バカやろ〜〜っ!!)
フランツとアロイスの喧嘩を止められた私だけど、心の中は周知の嵐で吹き荒れまくっていたのだった。
―――――
そんなナラノのことを見つめている者がいた。
「ぷっ! ハハハハハッ! おっもしろ〜いっ! ハハハハハッ!」
1人だけの空間で、神ジェラルドはお腹を抱えて爆笑していたのだ。
空中に浮かびながら、お腹を抱えて大声をだして笑うので、ジェラルドは反動で回転しながら笑うことになっていた。クルクルと回っていて、目が回りそうな光景である。
だが、そんなことはジェラルドにとってはどうでもいいようで、「あっははははっ! ヒーッ、めっちゃ面白いっ! ハハハハハッ!」と笑い転げていたのだった。
「ちょーっと暇だったから、魔獣を使ってナラノにちょっかいをかけたんだけど……まっさか、『聖女』の力が覚醒しちゃうなんてねっ……!
あー、予想外だったー!!」
ジェラルドは珍しく機嫌が良さそうに笑っていた。
「『聖女』だよ、『聖女』! 普通、『聖女』なんてレアなものが覚醒してくるなんて、想像がつかないよね〜! あ〜、ナラノ=ベネット、最高だよ〜!! 君は僕のお気に入りだね〜!」
ジェラルドは、淡いピンク色のシャボン玉を見つめて満足気に微笑んだ。
「退屈だったから、魔獣をナラノの元に向かわせただけだったんだけど〜。
ナラノ、君ってほんっと、楽しい存在だよね〜! まさか、ナラノを蝕んでいたものを、ナラノ自身が『聖女』の力を覚醒させて、なくして無効にしちゃうなんて、ありえないよね〜!
さぞかし、あの馬鹿娘のマリア=リバースも予想外だろうな〜!
それにしても、今回のことで、アロイス=マーティンも魔症で死んじゃうかな、って思ったんだけど、ナラノがアロイス=マーティンを助け出しちゃうなんてねっ……!
ぷぷっ! ほんっと、ナラノ! 君は面白い存在だよ!!」
――だから、ナラノ。これからも、僕を楽しませておくれよね?
怪しい微笑みを浮かべたジェラルドは、楽し気に目を細めながら、淡いピンク色のシャボン玉を見つめていた。
そのシャボン玉に映るのは、ナラノとフランツとアロイス。
ジェラルドは、その中でもナラノのことをよくわからない視線を向けながら見つめ続けていたのだった。
―――
「ナラノ、無事かしら?」
メアリアはナラノの捜索隊を出して、心配していた。
「メアリア様、こちらは確認しましたが、ナラノ様とアロイス様は見当たりませんでした。」
クレイグからの報告は、良くないものだった。
(やっぱり、ナラノはまだみつからないのね)
「そう……クレイグ、ならばもっと広い範囲の捜索をしましょう。なんとしても、ナラノと、アロイスを探し出すのですっ!」
「はっ!」
メアリアは、クレイグに捜索隊を率いてさらに広い範囲をするように指示した。
先頭の馬でクレイグが捜索隊の指揮をしているのが見える。
(こんなはずじゃなかった。ただの楽しいゲームをするだけのつもりでしたのに、どうしてこんなことになりますの?!!)
思わず、ため息がもれる。
「それにしても、お父様が呼んでいたとはいえ、フランツ先生まで捜索に参加されるなんて、思いませんでしたわ。しかも、『ナラノとアロイスがが行方不明だ』と伝えただけで、何も聞かずに飛び出して行ってしまわれるなんて……」
捜索隊の編成に伴って、メアリアは父であるペリクレス王国の国王に許可をもらいに行ったのだ。
そこに、国王に呼び出されていたフランツ先生もいて、ナラノの行方不明を知るや否や、捜索隊よりも先に、すぐさま駆け出して行ってしまったのだった。
まさかそのフランツが、ナラノを好きすぎるあまり、『ナリィはこっちにいそうだ!』とかいうなんとも言えない感覚を発揮して、短時間で、本当にナラノの居場所を突き止めていたなんて、メアリアも含めて誰にも予想外なのであった。
そして、ちゃっかりと、愛しているナラノにたかる余計な虫を追い払っているなんて、誰にも予想外な展開なのだった。




