神ときまぐれ (ジェラルド)
神、ジェラルド視点です。
ナラノにやり直しの機会を与えた、自称神様だと思われてる、いたずら好きの本物の神様の視点です。
「ふわぁあ〜。暇だよねぇ〜。僕、暇は嫌なんだよねぇ〜。
あーぁ。何か、面白いこと起こってくれないかな〜」
神ジェラルドは、だらしなくソファに寝そべりながら、ため息を吐いた。
ジェラルドのそばには、手の届く範囲の場所に、お菓子や飲み物が置かれたテーブルがあり、彼がめんどくさがり屋なのが一目瞭然だった。
「あっ、そうだ! もう一度、あの子の世界を覗けるか試してみよ〜! 今だったら、なんかイケそうだよね! うっわ、僕ったら、なかなか冴えてるよねぇ〜!」
よっ、と言いながら、神ジェラルドは人ではない動きで、ふんわりとソファから起き上がった。
まるで、無重力空間を移動するような、重力に逆らった軽々とした動きだった。
そして、身体全身から、とんでもない七色の光を光放ちながら、ジェラルドは何か大きな力を行使しているようだ。
彼の漆黒の髪は、風も吹いていないのに荒々しく舞い上がり、闇色の瞳も怪しい輝きを光らせながら輝いていた。
部屋の中は、先ほどまでの緩んだ空気はどこにもない。
キーンッ、と張り詰めそうなくらいの圧迫感を感じる力が室内に立ち込めていた。
――バチバチッ!!!!!! ドゥォオオオオオオオォンッ!!!!!
黒い稲妻のような光が走った瞬間、ジェラルドは吹き飛ばされ、壁に身体をぶつけた。
「……ヴッ!! いっった……」
このヘラヘラした男には珍しく、額に汗を浮かべて苦しげな顔をしたジェラルドは、ぶつけた身体を抱きしめるように丸まって呻き声を漏らした。
「……っ!! いたすぎ……くそっ! …………やっぱり、だめなのか……?」
失意に魅入られたような、絶望を浮かべたジェラルドは、思わずと言った様子で、掠れた声で呟いた。
その格好のまま、ジェラルドは動かず、何も考えられない、と言った様子で放心状態でいた。
―――
どれほど時間が経ったのか、しばらくすると、
ジェラルドは「……来たのか」と言って、何かの気配を感じ取ったようで、ふんわりと立ち上がった。
そして、いつもの定位置で良い心地の良いように整えられたソファへと戻って、寝転がった。
まるで、何事もなかったかのように。
「あーぁ。今回はイケるかな、って思ったんだけどなぁ〜。ざーんねん。」
お菓子をポリポリと食べながら、ジェラルドは文句を言った。
「まっ、それでも僕は諦めないんだけどねぇ〜」
不気味な笑みを浮かべたジェラルドは、何か良からぬことを考えているようで、異様な空気が漂っていた。
――そして、そのとき、ジェラルドのいる部屋に声が響いた。
「――ジェラルド様、入室の許可を。」
淡々とした男の声だった。
「あぁ、入れ」
先ほどまでの呆然としたジェラルドはそこにはなく、いつものようにだらけた姿のジェラルドは、何者なのかわかっているようで、簡潔にその男の入室を許可した。
ジェラルドがそう言って許可を出したことにより、空間が歪む。
今までなかった場所に、亀裂のようなものが生まれ、その中から仮面を付けた男が現れた。
仮面は、仮面舞踏会でも使われそうな、目と鼻が覆われたタイプの物だった。
男は、仮面で顔の半分が隠れているのに、どことなくカッコいい雰囲気を醸し出していた。
「ただいま、戻りました」
「挨拶は、良い。――それで、首尾はどうだ?」
男は跪いてジェラルドに挨拶をしようとしたが、ジェラルドが止めた。
そして、ジェラルドは、入ってきた男を見ることもなかった。
男のことなど気にしていないのか、そっけない態度で、お菓子を食べ続けている。
「ふふ。面白いことになっておりますね」
「――つまり?」
「前回の世界とは、違う道を辿っております。ナラノ=ベネットは、フランツ=ロバーツがマリア=リバースを愛していると勘違いしたようです。彼女は、現在フランツ=ロバーツへの初恋を忘れることを決めて行動しようとしています。」
「……そうか。結局、そうなるのか……」
つまらなさそうな声で男に返事をしたジェラルドは、男の顔こそ見ないものの、その声は残念だ、という気持ちがこもっていた。
「ジェラルド様、いかがしますか? ゲームオーバーにされますか?」
「いや、良い。見張りを続けろ。私のゲームの期限はまだあるはずだ。
最後までお前が見届けろ」
「おや? ですが、もう結果は出たのではありませんか?
ナラノ=ベネットはフランツ=ロバーツとの恋は破綻したのではないでしょうか。それならば、ゲームオーバー、ということで良いのでは?」
男は、ジェラルドがゲームオーバーだと言わないことが、さも不思議でしょうがないようだ。
「黙れ。お前ごときが神の私に意見などしないでくれる?」
「おっと、これは、失礼いたしました。」
「ふんっ……お前の口先だけの謝罪など聞き飽きたんだよ。
それとも、その口先だけの謝罪が、僕にバレてないとでも思ってるのかな? それなら、お前は本当の愚か者、だよねぇ。」
怪しい光を乗せてジェラルドはやっと男を見つめた。
見つめられた男は身体をビクリと震わせて、ジェラルドに怯えているようだった。
「いえ、そんなことは……申し訳ありません」
とにかく、ジェラルドに許して欲しい、そういった思いで男がジェラルドに謝ってきているのはすぐに分かった。
いくらジェラルドがふざけるのが好きでも、さすがに本物の神のジェラルドを怒らせては、男とて怖かったのだろう。
今度の男の謝罪は本心からのものだと、ジェラルドはすぐに理解した。
ジェラルドに睨まれるだけで怯えるのなら、最初から僕に刃向かわなければ良いのに、と思いながら、ジェラルドはため息を吐いた。
そして、男から視線を外して、またお菓子を食べ出した。
「……もういいよ。とにかく、まだ、ナラノ=ベネットをゲームオーバーにはしない。お前は大人しく監視を続けろ」
「はっ!」
ジェラルドが嫌そうに手を振ると、男がいた場所が消えていく。空間の歪みがなくなり、一瞬のうちに男はもうそこにはいなかった。
最初からその場所にいなかったみたいに、その場には寝転がるジェラルドだけが残されていた。
「やはり、何も変わらないのかな……」
男が帰った後、ジェラルドはまたなんとも言えない悲しげな顔をした。
―――
そして、ジェラルドは天井に浮かんでいた様々な色のシャボン玉へと視線を向けた。天井には赤や黄色、水色、緑、紫、など無数のシャボン玉があり、その中の淡いピンク色のシャボン玉をジェラルドは手招いた。
その中を覗いてみると、まるで1つの世界のように山や川、道や家があり、その中には沢山の人が動いて生活しているようだった。
「気が向かなかったけど、あの男だけに任せておくのもなぁ……」
そう言って、ジェラルドはその淡いピンク色のシャボン玉の中を覗き続けた。
「まぁ、今はちょうど退屈してた所だしね。気晴らしにゲームがどこまで進んでるのか、僕が直々に確認してあげる、っていうのも乙だよね〜
僕ってば、やっぱ良い神〜! すごい神〜!!」
ジェラルドは、良いことを思いついたとばかりに鼻歌を歌っていた。
そして、淡いピンク色のシャボン玉を眺めているうちに、ジェラルドは機嫌が良くなってきたのだろう。
いつも通りおちゃらけた雰囲気に、ジェラルドは戻っていた。
「ん〜と、どこだどこだ? えっと、ナラノ=ベネット、ナラノ=ベネットは〜……っと。……あ、いたいた! んん……っ?」
お目当てのナラノを見つけて目を輝かせたジェラルドは、なぜか訝しげに目を細めた。その目には、『信じられない』、と言った様子だった。
そして、ジェラルドは、ナラノを興味深げに眺めていた。
「あれれ? あの男からの報告では、君の初恋は失敗したんじゃなかったっけ? なのに、なんでなんだい?」
ジェラルドの瞳は、淡いピンク色のシャボン玉から離れない。
「――なぜ、君はそんな風に笑っていられるんだ?」
全くもってわからない、といったジェラルドの呟きが部屋の中に響いた。
そして、ジェラルドは淡いピンク色のシャボン玉から目を離し、元の場所へと戻した。そして、またぼんやりとした様子で寝転がった。
「あぁ、ナラノ=ベネット。君がどんな結末を迎えるのか、僕は楽しみだよ……」
ジェラルドは、そう呟いて、ねむりについた。
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