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初恋の君 (フランツとナラノの過去)

フランツ視点です。


やっと、ここまできました〜! 長かった……


ナラノが愛したフランツ。彼がどんな思いで過ごしていたのかを、書いていきます。


読んでくださってる方、ありがとうございます。頑張って書きます^ ^

 

 ――ナラノとの出会いは、私の初恋だった。



 私は、ベネット公爵家に、ナラノの兄ホワイトと家庭教師として時々訪れていた。

 私の教え子のホワイトは、ベネット公爵家継嗣というだけあり、聡明で利発な子どもで、私としても教えがいのある子どもだった。






 貴族は本来であれば5歳までは家族以外の他の貴族にお披露目がされることはない。

 だが、ベネット公爵家の人間でない私はナラノが生まれたすぐ後から会うことを許されていた。

 それは、私がロバーツ公爵家の跡取りであるという理由でも、私の身分や権力で、特別にナラノに会わせてもらえたというわけではない。






 ――それは、ただ単に、私が偶然ナラノの母上である、キャサリン=ベネットの命を助けたからに他ならない。







 ある日、私がホワイトに家庭教師として勉強を教えているときに来訪者が現れた。それは、ホワイトとナラノの母、キャサリン様だった。


「――ホワイト、しっかり勉強していますか?」


「あ、母上!来てくれたんですね!」


 ナラノ出産間近だったナラノの母キャサリンは、息子のホワイトの様子を見に、家庭教師の私とホワイトのいる部屋にやってきたのだ。


「えぇ。今日は体調もいいですし、わたくしもホワイトの家庭教師のフランツ様に会っておきたいと思いましたのよ。」


 笑っていらっしゃるが、キャサリン様は私を見定めるような視線で見つめてきていた。



(私は、ベネット公爵に家庭教師を頼まれて家庭教師を引き受けたが、体調を崩されている夫人のキャサリン様とは会ったことがなかった。

だがこれは、……キャサリン様から私は査定をされに来たのだろうか。)






――まぁ、優秀な私が失敗するなどありえないがな。






 私は知らせもなく突然やってきた、キャサリン様を対貴族用の美しい社交的な笑みで迎え入れた。


 もう臨月で大きなお腹のキャサリン様は、腰に手を当ててゆっくり歩いてホワイトの横の席に座り、母親が来て喜ぶホワイトの頭を撫でていた。


「母上! 今日は、ずっとそばにいてくれますか?」


「えぇ、そのつもりですわ」


 キャサリン様も甘えるホワイトが可愛いのか頬を緩ませながら微笑んでいた。


「わぁ〜! 嬉しいなぁ!」


 どうやら、5歳のフランツは、まだまだ母親が恋しい時期なようだ。


 最近では、私の家庭教師の時間でも、妊娠した母親のキャサリンの様子や、生まれてくる自分の弟か妹の話をよく目をキラキラと輝かせながらしていた。


 だが、キャサリン様の最近の体調はよろしくないようで、彼女は部屋で安静にしていることが多く、息子のホワイトもあまり会えないのだと寂しげに語っていた。



(ホワイトとて、しっかりしているといってもまだ5歳。まだまだ子どもで母親に甘えたい盛りの時期なのだろうな。)








 ホワイトが母親キャサリンに向ける瞳は、ただただ母親に甘える子どもの表情でしかない。

 私の前では、ベネット公爵家の次期公爵として気を張った顔で勉強しているホワイトだが、やはりこうして母親に甘えられるのは良いことだと思う。



(まぁ、キャサリン様は息子ホワイトの家庭教師の私がどんな人間なのかも、体調が良い今、確かめたいのだろうがな……)



「フランツ先生、ホワイトの家庭教師を引き受けてくださってからしばらく経つというのに、わたくしの体調が優れないばかりに挨拶が遅れてしまって、申し訳ありませんわ。」


「いいえ、ベネット公爵より、キャサリン様のことは伺っておりましたし、ホワイトからもキャサリン様のことをよく話してくれていましたので、事情は理解しております。」


「まぁ、ホワイトが? 家庭教師のフランツ先生にホワイトは何を言ったのでしょう? お恥ずかしいわ」


 キャサリン様は恥ずかしそうにほんのりを頬を染められた。


「は、母上! 私は、何もおかしなことは話しておりませんよ!

 母上と父上が仲がよろしいことや、新しく私の兄弟になるのはどんな子なんだろうとか、そんな話しかしておりません。

 母上が恥ずかしがるような話はしておりませんよ。」


「まぁっ、ホワイトったら……」


「ね、そうですよね? フランツ先生?」


 ホワイトが、同意してほしそうなキラキラとした目で私を見つめてきていた。


 まぁ、確かに、ホワイトはキャサリン様が気にされるようなことは特に話していなかった。

 それに、ホワイトは、出産を控えて体調を崩し気味な母親に心配をかけないように頑張っていた。

 それは、ホワイトが5歳ながらも、ベネット公爵家の継嗣ということを受け止めているようでもあり、私としては好意的に受け止めていた。



(そんなに心配そうな顔をせずとも、其方が充分頑張っていることはわかっているので、安心すれば良いものを……)



「ホワイト、そのような目を向けてきても私は思ったことしか話さないぞ?」


「え! フランツ先生ぇ〜!」


 私が正直に告げると、フランツは、そんなぁ〜と言いたげな瞳で私を見つめてきた。



(なぜ拗ねる? ホワイトが頑張っているのは理解しているぞ?

私は、思った通り話すと言ったのに、なぜそのような瞳をするのだ。)



「んまぁっ、ホワイトったら……」


 キャサリン様は、ホワイトが私へ向ける瞳を意外そうに見つめて緊張した空間を緩められ、ふふふ、と笑みを見せられた。


「ご安心下さい、キャサリン様。フランツは、ベネット公爵や、キャサリン様、そして生まれてくる子どものことを心配してはいましたが、ベネット公爵家の次期公爵として、真面目に学問に取り組んでいます。」


「そうそう、そうだよ! 母上、フランツ先生もこう言ってくれてるでしょー?」


 安心したように、フランツが頷いている。


 その様子が必死なので、自然とホワイトとを見つめているキャサリン様の視線も柔らかいものへとなった。


「えぇ、ホワイト。わかりましたよ。……ふふふ。ホワイト、フランツ先生とは上手くやれているようですわね。」


「はい、フランツ先生は厳しいですけど勉強はわかりやすいですし、家庭教師がフランツ先生で良かったと思ってます!」


「……そうですか。それなら、安心です。夫が連れてきた人だから、問題はないと思っていたのですが、やはり私自身でもフランツ先生がどんな方なのか一度ご挨拶しておきたかったんですの。

 ただ、ホワイトの時よりも、下の子を妊娠してからわたくしは体調を崩してしまって、挨拶も出来ずにいました。

――――フランツ先生、ホワイトをよろしくお願いしますね?」


 キャサリン様から私に向けて出ていた警戒が解かれているのを感じた。キャサリン様から感じるのは、信頼、だろうか。



(これは、私はキャサリン様に受け入れられた、ということか。)



「はい、私こそ精一杯ホワイトの家庭教師を務めさせていただきます。」


 私は、こうして、ベネット公爵家の家庭教師として受け入れられたのだった。


 私たち3人の間には、穏やかな雰囲気が漂っていた。


 そのあと、キャサリン様は、私とホワイトの何気ない勉強風景を眺めておられた。






―――






 だが……


「うっ……!!」


 キャサリン様が突然お腹を押さえて苦しみだした。


「母上っ!」


「キャサリン様、どうされたのですか?」


 私とホワイトは、勉強をやめてすぐにキャサリン様の元へと駆け寄っていった。


 椅子に座っていたはずのキャサリン様は、床にお腹を押さえて蹲っていた。その顔には、先ほどまでとは打って変わって脂汗が浮かんでいた。



(まずい……キャサリン様は出産間近だと聞いていたが、もう生まれるのか……?!)



「母上、母上っ! どうしたのですか!」


「うう゛っ……う゛……!」


 ホワイトが懸命にキャサリン様人間呼びかけ続けているが、キャサリン様は痛みが凄くて話せないようで、お腹を押さえて苦しんでいるようだった。


 足元を見ると、キャサリン様の足元からは何か液体のような物も見られた。



(……まさか、破水しているのか?)



 まずいな。



 これは、一刻を急ぐ。まずは、キャサリン様のかかりつけの医師を呼ばなければならないな。


「キャサリン様、かかりつけの医師はどこにいますか?」


「…………う、ゔっ、ぁああ……」


 私は、苦しむキャサリン様にダメ元で尋ねてみたのだが、やはり今はまともに答えられないようで、答えは返ってこなかった。



(困ったな……私は、ペリクレス貴族学院で学んでいるとはいえ、医術までは門外漢でわからないのだ)



 破水して苦しむキャサリン様を見て、私はどうすべきなのだろうか、と考え込んだ。

 こんな時こそ、焦らず冷静に判断せねばならない。





「――フランツ先生! 私が、知ってるよ! 母上のかかりつけ医は、母上の隣の部屋にいるんだよ!」


 先ほどまでキャサリン様の様子を見てオロオロとしていたホワイトが、しっかりとした瞳でキャサリン様のかかりつけ医の場所を知っている、と告げてきた。


「本当、なのか?」


「うん!案内できるよ!」


「そうか……なら、案内はホワイトに任せても良いか?」


「うん! 母上を助けて!」


「あぁ、任せなさい」


 私は、素早く魔法道具で、ベネット公爵にキャサリン様の破水と、かかりつけ医の元に連れて行くことを知らせを送った。


 そして、私も、キャサリン様を横抱きで抱き上げると、出来るだけ振動がないように配慮しながら、ホワイトの案内で無事にかかりつけ医の元にキャサリン様を送り届けたのだった。






―――






 すでに、私からの知らせを聞いたベネット公爵が、かかりつけ医に魔法道具で伝言を飛ばしてくれていたようで、私たちが辿り着いた時には、案内された部屋は出産の準備が万全に整っていた。


「――キャサリン様をよろしく頼むっ!!」


「はいっ! お任せくださいっ! あなたが連れてきてくださらなかったら、キャサリン様は手遅れになる所でした。感謝します!」


 そう言ってキャサリン様のかかりつけ医は、迷うことなくキャサリン様の出産に取り掛かるために、部屋の中に入っていった。


 私とホワイトは、他の部屋で待機することになった。



(よかった……キャサリン様の顔色は悪かったし、間に合わないかと思った。ホワイトがかかりつけ医の場所を知っててくれて、そして、ベネット公爵がかかりつけ医に先に連絡を入れて準備を整えてくれたのは助かったな……)



 魔法道具の伝言を飛ばすには、せめて相手や場所のどちらかを知っていなければ送れない。

 だから、キャサリン様のかかりつけ医を知らず、部屋の場所を知らない私には、魔法道具を持っていたとしても、伝言を送ることは出来なかったのだ。


 だが、私はベネット公爵のことは知っていた。


 キャサリン様の夫で、ベネット公爵ならば、キャサリン様のかかりつけ医のことを知らないはずがない。

 彼のキャサリン様への愛は本物かだということは、貴族社会でも有名なことだ。



(今回は、ベネット公爵がかかりつけ医に伝言を送ってくれていて、助かったな。)






―――







 ――――バンッ!!!!



「――キャサリンはっ?!」


 ものすごい勢いで、髪を乱れさせたベネット公爵が部屋に駆け込んできた。

 急いで乱れただろう服装は正装で、王城で仕事をしに行っていたのだろう、とすぐに予想がついた。



(これは、おそらく、私の伝言を聞いてなりふり構わずに王城を飛び出してきたのだな……)



 私は妻の出産だと聞いて慌てて取り乱しているベネット公爵に、私の座っていた椅子を勧めた。

 そして、ベネット公爵家のメイドに準備してもらっていたお茶を淹れた。


「ベネット公爵、今はかかりつけ医に任せましょう」


「あ、あぁ。すまない、フランツ。私は、妻のキャサリンのこととなると、どうにもな……」


「いえ、お気持ちはわかります」


「そうか。そう言ってくれると私としても助かるな。さすがは、ロバーツの息子だな。

 次期ロバーツ公爵家は安泰そうだな」


「いえ、私はまだまだです。」




 本当のことだ。


 ベネット公爵に褒めてもらえるのは嬉しいが、まだまだ父には敵わないというのはわかっている。


 まだ、未熟な私がロバーツ公爵家を継ぐなんてとんでもない。




「はははっ。それほど、優れていても謙遜出来るとは……ますます良いな。

 …………だが、本当に今回はフランツに感謝している。」


「いえ、私は当然のことをしたまでです。」


「いや、本当に今回は助かった。私に入った知らせでは、フランツが急いでキャサリンをかかりつけ医の所まで連れていってくれなければ、母子共に危険な状態だったと聞いた。ホワイトからも話を聞いている。ありがとう、フランツ。」


 ベネット公爵は、私に感謝を述べて頭を下げていた。



(珍しい……父リチャードと仲の良いとはいえ、ベネット公爵がまさかひよっこの私に頭を下げるとは……)



「はい」


 私は、なんと言って良いのか戸惑ってしまい、とにかくベネット公爵のお礼を受け入れた。


「元々、我がベネット公爵家とフランツのロバーツ公爵家は仲が良い。だが、それでも何かあった時は、――今回の恩を返すためにも私はフランツの力になろう。」


「……ありがとうございます。」


 ただの偶然とはいえ、とんでもないかりをベネット公爵家に作ることができたようだ。


 





―――






 そして、そのあと、ベネット公爵家では待望の女の子が誕生した。


 ――その女の子の名前は、ナラノ=ベネットと名付けられた。


 金色の髪で青の瞳の美しい女の子だった。






 通常なら、家族ではない私がお披露目前のナラノに会うなどありえないことなのだ。




 だが、私は、ナラノとキャサリン様を救ったとして、特例としてベネット公爵から許しを得た。

 なんでも、私にいたく感謝したキャサリン様が、夫のベネット公爵に無事に生まれたナラノを私にも見せたいと言ってくれたそうだ。


 ナラノを見るまでの私は、ただホワイトの母親で、父リチャードの友人でもあるベネット公爵の妻を守れたら、それで満足だったし、何も求めていなかった。









 ――だが、ナラノを一目見た時、一瞬で私は無自覚の恋に落ちた。








 我ながら、生まれたばかりの女の子に、15歳にもなる男が惹かれるのはどうなのか、と思うのだが、まさしく私はナラノに惹かれてしまったのだった。







『この娘は、私のものだ――!!』


 ――私の中で初めて感じる、男の欲望。







 そもそも、私は今までそういった欲望とは無縁だった。ロバーツ公爵家の継嗣ということで、羽虫のように群がってくる女どもも、特に相手にしていなかったし、なんとも思っていなかった。









 ――だが、ナラノは特別だ。


『彼女だけは手放したくない――』










 私の中で、どうしようもなく出てくる欲望。


 だが、私のナラノへの想いは歪にも感じた。こんな幼い赤子に恋をしたなど、誰が信じるというのか。


 私は、他の誰にも。そう、私の家族のロバーツ公爵家や、ナラノの家族のベネット公爵家にも、私の恋心は伝えないことにした。


 だが、ホワイトの家庭教師をしているということや、父リチャードがベネット公爵と仲が良いことを生かして、生まれたばかりのナラノの家庭教師というポジションに入り込んだのだった。




「まぁ、ホワイトの家庭教師でもあるフランツなら、キャサリンも気に入っているようだし、任せられるな」



 そして、ベネット公爵からの公認を得て、私は愛しくてたまらないナラノの家庭教師となったのだった。


 ナラノがペリクレス貴族学院に入学するまでの間、私とナラノは家庭教師と生徒という立場で関係を築いていくことになる。






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