8 初めてのワイン
「……苦い」
ヴィルテは、そっとワイングラスを口から離した。
「だろうね」
ウィルヴェルは笑った。
はじめてのワインは、苦かった。
キンキンに冷えたピエモンテの白ワイン。
グラスに注がれた時は、あんなに美味しそうだったのに。
口に含んだ瞬間、爽やかな香りが広がった。
そこまではよかった。
そのあとに、苦味がやってきた。
「……」
ヴィルテは、グラスを見た。
どうしよう。
まだ大量に残っている。
ウィルヴェルは美味しそうに飲んでいるし、せっかく注いでもらったのだから、残すのも申し訳ない。
けれど。
苦い。
「……」
ヴィルテは、なんとなく窓ガラスを見た。
先ほどから気になっている男性が映っていた。
男性は、こちらを見ていた。
いや。
正確には、ヴィルテの手元にあるワイングラスを見ていた。
「……?」
ヴィルテはグラスを持ち上げた。
そういえば、この人もワインが好きなのだろうか。
さっきからずいぶん変わった食べ方をしているけれど、ワインなら普通に飲むのかもしれない。
ヴィルテは男性の方を向いた。
「……飲みますか?」
「!」
男性が、大きく目を見開いた。
まるで、突然名前を呼ばれたかのような顔だった。
「い、いえ、結構です」
男性は、ぶんぶんと首を横に振った。
「あ、そうですか」
ヴィルテはグラスを下ろした。
すると、男性は急にフォークを手に取った。
くるくる。
はぐっ!
くるくる。
はぐっ!
「……」
ヴィルテは目を丸くした。
ものすごい勢いだった。
フォークにパスタを巻きつけては口に運び、ほとんど間を置かずに次を巻いている。
もっとも、もはやそれはパスタと呼んでいいのか、少し疑わしかった。
大量の粉チーズ。
大量のタバスコ。
その二つが絡み合い、ところどころにピッツォッケリが埋まっている。
最初に運ばれてきた時は、美味しそうなボロネーゼだったはずなのに。
今では、何か別の料理になっていた。
「はふっ、はふっ……」
男性は、辛そうに息を吐いた。
目が潤んでいる。
顔も真っ赤だった。
それでも、食べる手を止めない。
くるくる。
はぐっ!
「……」
ヴィルテは、少し心配になった。
大丈夫かな。
今にも爆発しちゃいそうだけど……。
男性は、また一口食べた。
はふはふ。
そして、水を飲んだ。
ごくごく。
それから、またフォークを持った。
くるくる。
はぐっ!
「……」
ヴィルテは、そっとウィルヴェルを見た。
ウィルヴェルは、何やら楽しそうにワインを飲んでいた。
助けなくていいのだろうか。
いや、でも。
本人は好きで食べているのだろうし。
ヴィルテは、もう一度自分のグラスを見た。
淡い黄金色のワインが、まだたっぷり残っている。
「……」
男性は辛いパスタを食べている。
自分は苦いワインを飲んでいる。
なんだか、少し似ている気がした。
ヴィルテはグラスを持ち上げた。
そして、二口目を啜った。
「……にが」
やっぱり苦かった。




