7 意味深なふっふっふ
ヴィルテは、画面の中の男を眺めていた。
クロアチアからやってきたという記者は、蕎麦を啜っている。
ずずずっ。
実に幸せそうだった。
画面が止まった。
「……で、結局、蕎麦の話になっちゃったんですね」
ヴィルテは隣に座るヨハンナに言った。
「ふっふっふ。そうだねぇ」
「外務大臣のインタビューですよね?」
「そうだよ」
「途中から、ずっと蕎麦を食べてましたけど」
「おいしそうだったねぇ」
「……」
ヴィルテは画面に視線を戻した。
隣では、ウィルヴェルが難しい顔をしていた。
カラディシアで記者として活動する彼は、ヴィルテより少し年上で、ヨハンナの弟子でもある。
「さて、ここからが本題です」
「……本題?」
ヴィルテは首を傾げた。
「このインタビューを受けた記者ですが、現在、行方がわからなくなっています」
「えっ」
「さて、どこにいるでしょう」
「どこにいるんですか?」
「わたしにもわかんないんだよねぇ……」
ウィルヴェルは腕を組んだ。
「編集長からも連絡が来てるんすよ。もう一週間も音信不通で」
「一週間?」
「っす。しかも、帰国予定日を過ぎてるんすよ」
「それは心配ですね……」
ヴィルテは、もう一度画面を見た。
再生を少し戻す。
ずずずっ。
記者は蕎麦を啜っていた。
何度見ても幸せそうだった。
「……誘拐とかでしょうか」
「その可能性も考えてるっす」
「事故とか」
「それも」
「……」
二人は黙り込んだ。
「ふっふっふ」
隣でヨハンナが笑った。
ウィルヴェルが顔を上げた。
「……ししょー? 何か知ってるっすか?」
「いやぁ?」
「その笑い方、怪しいっすよ」
「ふっふっふ」
「ししょー」
「わたしはゲーミングヨハンナだよ」
「同じじゃないっすかー」
「まあねぇ」
ヨハンナは飲み物を一口飲んだ。
「それで、どうするんだい?」
「とりあえず、先週編集長から依頼が来たんで、探してるんすけどー、全然なんすよね」
「なるほどねぇ」
「……」
「いいんじゃないかな」
ウィルヴェルは、ますます難しい顔になった。
いいんじゃないかな。
何がいいのだろう。
ヴィルテにもわからなかった。
そのとき、着信音が鳴った。
「あ。編集長からっす」
ウィルヴェルは端末を取り出した。
「はい、ウィルヴェルです」
『どうだ、見つかったか?』
「まだです」
『困ったな……。あいつ、次の記事の締め切りがあるんだが』
「こちらでも引き続き調べています」
『頼むよ。本当に』
「はい。失礼します」
通話が切れた。
ウィルヴェルは端末を下ろし、ため息をついた。
「……大丈夫なんでしょうか」
ヴィルテが尋ねた。
「さあねぇ」
ゲーミングヨハンナは、Rowena 5を横向きにしてワイリフをやっていた。
画面の中では、五人のチャンピオンが入り乱れて戦っている。
「外務大臣にインタビューしたあと、行方不明になったんですよね?」
「そうみたいだねぇ」
「……」
ヴィルテは隣を見た。
ヨハンナは端末を眺めていた。
指先が忙しなく動いている。
口元には、いつもの笑みが浮かんでいた。
「……何か知ってるんですか?」
「ふっふっふ」
「……」
ヴィルテはウィルヴェルを見た。
ウィルヴェルもヴィルテを見た。
二人は、もう一度ヨハンナを見た。
ヨハンナはゲームを続けていた。




