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幻想のカラディシア  作者: 空港ヨハンナ
インターン

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9 しごできヨハンナ

 一度気づいてしまうと、止まらなかった。


 ヴィルテは、空港内で作業している大量のヨハンナたちが、ラジオヨハンナのラジオトークを聴きながら働いていることに気づいてしまった。


『それでねぇ、ダイアデムなんだけどねぇ、あれは良いね。それまではセラフを使ってたんだけどねぇ、選択肢が増えるっていうのはなかなかいい。それに火力はどうするかっていう問題だねぇ。これは、魂の収穫と最期の慈悲を合わせると良いよ。それか征服者だねぇ。ソナちゃんのQはヘイストが短く射程が長いからねぇ』


 通路の向こうから、ラジオヨハンナの声が聞こえてくる。


「今度のビルドはどうするんだい?」


「ダイアデムは必須だねぇ」


「ふっふっふ」


 作業ヨハンナたちは、何事もなかったように仕事を続けていた。


 木材を切る音。


 台車の車輪が床を転がる音。


 その合間に、ラジオヨハンナの声が響く。


 ヴィルテは、隣を歩く哲学ヨハンナを見た。


 哲学ヨハンナはパジャマ姿で、のんびりと歩いている。


「……」


 ヴィルテは何も言わなかった。


 もう、言うこともなかった。


 しばらく歩くと、今度は別の音が聞こえてきた。


「ぐー、ぐー」


「ぐごおおお、がごおおおお」


「ふっふっふ……そうだねぇ……」


「ブランバーは美味しいねぇ……」


 ヴィルテは足を止めた。


 広々とした待合スペースだった。


 大きなガラス窓の向こうには、雪に覆われた滑走路が広がっている。


 その窓際に並べられたベンチの上で、ヨハンナたちが眠っていた。


 一人、二人、三人。


 それどころではなかった。


 何列にも並んだベンチのあちこちに、ヨハンナが横たわっている。


 上着を丸めて枕にしているヨハンナ。


 靴を脱いでいるヨハンナ。


 膝を抱えて丸くなっているヨハンナ。


 仰向けになり、口を開けているヨハンナ。


 みんな幸せそうだった。


「あれはなんの群れですか」


「ふっふっふ、あれは昼寝ヨハンナだよ。今日はお休みだからねぇ、惰眠を貪ってるのさ」


「なるほど」


「カラディシアはねぇ、週三日もお休みがあるからねぇ」


「良いですよね」


「そうなんだよねぇ。代わりに自主性が求められるんだよねぇ。休みの日も寝ているだけ。幸せだよねぇ。でも、見てご覧よ」


 哲学ヨハンナが指を差した。


 ヴィルテはそちらを見た。


 パンツスーツにシルクのシャツを着たヨハンナたちがいた。


 いくつかのグループに分かれ、立ったり座ったりしながら話し込んでいる。


 昼寝ヨハンナたちとは、ずいぶん雰囲気が違った。


「CDRが向上したんだよねぇ」


「画像を変えたのかい」


「そうだねぇ、正解だったねぇ」


 端末の画面を覗き込みながら、何やら話している。


 別のグループでは、


「アジェンダ」


「コミットしなよ」


「ボトルネックだねぇ」


「リスクはこっちで吸収するよ」


「コンセンサスって響きが良いよねぇ」


「ほうほう」


「エビデンスがねぇ」


「そういえば考えたんだけどねぇ、ほらこれ。エビダンスくんの新しいステッカーだよ」


 一人のヨハンナがRowena5を掲げた。


 画面には、エビのような生き物が踊っていた。


「ほうほう」


「なかなかいいねぇ」


「Oic GramのDMやビデオチャットにステッカー機能をつけたのは正解だったねぇ」


「ステッカー市場の全体収益は?」


「前月は三百万レフだねぇ」


「なかなかだねぇ」


「ステッカー一つで百レフだったかな?」


「三万件だねぇ」


「ふっふっふ、結構売れてるじゃないか」


「エビダンスくんも売れるといいねぇ」


「そうだねぇ」


 ヨハンナたちは、踊るエビを眺めていた。


 ヴィルテは哲学ヨハンナを見た。


「あれは?」


「しごできヨハンナたちだねぇ。ヨハンナ全体の中にある数少ない勤労意欲を担当しているのさ」


「……なるほど」


 ヴィルテはもう一度、昼寝ヨハンナたちを見た。


「ぐごおおお、がごおおおお」


 幸せそうだった。


 そのすぐ近くで、しごできヨハンナたちは真剣に話し合っている。


 さらに奥には、別のグループがいた。


 こちらは、ほとんど喋っていなかった。


 タワースタンドのあちこちに設置されたRowena9。


 複数の画面には、数字やグラフが並んでいる。


 ヨハンナたちは、その画面をじっと見つめていた。


 先ほどまでの、のんびりした表情ではなかった。


 ここぞというタイミングを待ちながら獲物を見据える、狩人のような目だった。


「……そろそろかな」


 一人のヨハンナが呟いた。


「買い占めよう」


「待ちなよ。多分もう少しで底値が……」


 画面の中で、数字が変わった。


「……来たね」


「ふっふっふ」


「買いだね」


 次の瞬間。


 しごできヨハンナたちが、一斉にキーボードを叩き始めた。


 かたかたかたかた。


 何人かは端末を耳に当て、どこかに電話をかけ始める。


「ふっふっふ、今だねぇ」


「そっちも頼むよ」


「買いだよぉ」


「そうそう、全部だねぇ」


 かたかたかたかた。


 ヴィルテはその様子を眺めていた。


 背後から、寝息が聞こえてくる。


「ぐー、ぐー」


「ブランバーは美味しいねぇ……」


 離れたところでは、用語が飛び交う。


「コンセンサス」


「アサイン」


「コサイン」


「サイン」


「タンジェント」


「ふっ」


「ふっふっふ」


「ふっふっふ」


 目の前では、ヨハンナたちが猛烈な勢いでキーボードを叩いていた。


 ヴィルテはRowena5を取り出した。


 ぱしゃ。


 昼寝ヨハンナ。


 ぱしゃ。


 しごできヨハンナ。


 ぱしゃ。


 踊るエビのステッカー。


 ぱしゃ。


 一斉に買い注文を出すヨハンナたち。


 ヴィルテは撮影した写真を確認した。


 同じ人物が写っていた。


 全員、ヨハンナだった。

 数ヶ月後。

 デフォルメされたエビが、画面の中で踊っている。

「まさかエビダンスくんがねぇ」

「ここまで売れるとはねぇ」

「懐かしいねぇ」

「トイレで思いついたんだっけ?」

「商品開発会議の前だったねぇ」

「結局、会議で出来たキャラはなんだったかな」

「コンセンサスくんだねぇ」

「そうそう、コンセンサスくん」

「あれは消えちゃったねぇ」

「ふっふっふ」

「ところで、一番売れてるのは?」

「エビデンスを求めるエビダンスくんだねぇ」

「ふっふっふ」

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