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幻想のカラディシア  作者: 空港ヨハンナ
インターン

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8 栄光を

 午後の作業が再開されて、しばらく経った頃だった。


 建設途中のカラディシア国際空港第4ターミナルには、金槌を打つ音や、電動工具の駆動音が響いていた。


 作業着姿のヨハンナたちは、それぞれの持ち場で働いている。


 ヴィルテも、ようやく職場体験から解放されたところだった。


 手袋を外し、Rowena5を取り出す。


 ぱしゃ。


 木材を運ぶヨハンナ。


 ぱしゃ。


 壁に設計図を投影するヨハンナ。


 ぱしゃ。


 脚立の上で天井を調べているヨハンナ。


 ヴィルテが次の撮影場所を探していると、どこからか声が聞こえてきた。


『ラジオヨハンナから報告だよ』


 その瞬間だった。


 空港中のヨハンナたちが、ぴたりと動きを止めた。


 金槌を持ったヨハンナ。


 木材を抱えたヨハンナ。


 脚立の上にいるヨハンナ。


 全員が、一斉に同じ方向を見た。


「……?」


 現場リーダーのタスキをかけたヨハンナが、ゆったりと片手を上げた。


 作業が止まった。


 工具の音が消え、広大なターミナルに静寂が訪れる。


 ヨハンナたちの視線の先には、Rowena5を手にした作業ヨハンナがいた。


 端末からラジオが流れている。


『新しいワイリフ環境でソナちゃんを試した結果だけどねぇ、これはなかなか良いねぇ』


「……」


「……」


「……」


 ヨハンナたちは耳を傾けた。


 かん、かん、かん。


 まだ金槌を打っているヨハンナがいた。


 隣のヨハンナが、その肩を叩いた。


 金槌が止まった。


『待望のヘリアの残響が来たし、旋律も来た。ハーモニックエコーは回復とシールドを反響させる』


 ヨハンナたちが互いの顔を見合わせた。


 うんうん、と頷く者もいる。


『サポートアイテムは回復とシールド効率を前環境の倍以上に上げてるねぇ』


 誰も口を挟まなかった。


 ヴィルテは、工具を持ったまま立ち尽くすヨハンナたちを見渡した。


 数分前まで、あれほど騒がしかった建設現場だった。


『残響、旋律、エコー。これらはソナちゃんを彷彿とさせるねぇ』


 ヨハンナたちが頷いた。


『一方、旋律という響きはセラフィーンにはちょっと似合わない』


「セラフィーンに死を!」


 突然、声が上がった。


 全員がそちらを見た。


「それはちょっと過激だねぇ」


 一人のヨハンナが言った。


「でも」


 別のヨハンナが続けた。


「言うならこうさ」


 ヨハンナが拳を突き上げた。


「ソナちゃんに栄光を!」


「ソナちゃんに栄光を!」


「セラフィーンをぶっ潰せ!」


「ポップよりもクラシックだねぇ!」


「伝統は大事だよ!」


「セラフィーンをぶっ潰せ!」


 あちこちで拳が上がった。


 木材を抱えたヨハンナも、工具箱を持ったヨハンナも、脚立の上のヨハンナも。


 ヴィルテは黙っていた。


『ふっふっふ、ついに来たのさ。ソナちゃんの時代がねぇ』


「おおおおおおお!」


 空港中に歓声が響き渡った。


 ヨハンナたちが拳を振り上げる。


 誰かが口笛を吹いた。


 誰かが拍手を始めた。


 拍手はたちまち広がり、広大なターミナルの天井に反響した。


 ヴィルテはRowena5を構えた。


 ぱしゃ。


 画面には、拳を突き上げる大量のヨハンナが写っていた。


 ラジオは続いていた。


『来シーズンはソナちゃんの栄光スキンだねぇ!』


「おおおおおおおおおおお!」


 先ほどより大きな歓声が上がった。


 現場リーダーのヨハンナも、両手を上げていた。


 ヴィルテはもう一枚、写真を撮った。


 ぱしゃ。


 カラディシア国際空港第4ターミナル。


 建設途中。


 午後の作業時間。


 ヴィルテは、観光モニター用の写真を確認した。


 大量のヨハンナが、何かを成し遂げたような顔で喜んでいた。


「さて、じゃあ次はこっちに行こうか」


「はい、本当にお願いします」


 ヴィルテは、哲学ヨハンナのあとに続き、狂乱の集会をあとにした。

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