7 休憩終わっちゃったねぇ
一時間の昼休憩を終えると、ヨハンナたちは作業へ戻り始めた。
「ふぁ〜……眠いねぇ」
「あと三時間だねぇ」
「一日五時間」
「いい国だねぇ」
「財政は大丈夫かねぇ」
「観光客が増えてるらしいよ」
「じゃあ、もう少ししたら潤うかねぇ」
弁当箱を片付けたヨハンナたちが、工具箱を持って歩いていく。
「潤いといえばねぇ」
「わかるよ、乾燥だろう?」
「そうなんだよねぇ、この時期は逆剥けがねぇ」
「保湿クリームは使ってるかい?」
「面倒だから使ってないねぇ」
「使うとかなり違うよ」
「なるほどねぇ」
ヴィルテは少し離れたところから、その様子を眺めていた。
休憩前と同じように、ヨハンナたちはそれぞれの持ち場へ向かっていく。
設計図を広げるヨハンナ。鉄骨を運ぶヨハンナ。壁材を加工するヨハンナ。
作業着の袖をまくり、手袋をはめる。
「仕事終わりどうするかい」
「温泉にでも行こうかな」
「いいねぇ」
「一杯やりたいねぇ」
「ビールかい」
「決まってるねぇ」
「蕎麦酒も良いよぉ」
「なんだいそれ」
「最近出たんだよ」
「良いねぇ」
「仕事の後の楽しみが増えたねぇ」
電動工具の音が響き始めた。
床に並べられていた資材が持ち上げられ、台車が通路を行き来する。
「そういえば、ダリウスがねぇ」
「あの酔っぱらいかい」
「ゲーミングヨハンナのところの」
「そうそう、割りの良い仕事を探してたみたいでねぇ」
「ここかい?」
「割りは良いかなぁ」
「時給は?」
「手取り千二百レフ」
「もらってる方だねぇ」
「どうしようかねぇ」
「一日くらいお試しで良いんじゃないかい」
「良いねぇ」
「それなりならその後も来てもらえば良いねぇ」
「そういうことさ」
ヨハンナたちは話しながら、作業を再開した。
ある者は木材を測り、ある者は金属板に印をつけ、ある者は脚立に上って天井を調べている。
ヴィルテはRowena5を構えた。
ぱしゃ。
木材を切るヨハンナ。
ぱしゃ。
設計図を確認するヨハンナ。
ぱしゃ。
工具箱の中身を探しているヨハンナ。
どこを撮ってもヨハンナだった。
「そうだ」
近くで作業していたヨハンナが顔を上げた。
ヴィルテを見ている。
「きみもやってみるかい?」
「え」
「職場体験だねぇ」
別のヨハンナも振り向いた。
「いいねぇ」
「せっかくだからねぇ」
「え、え」
「ノコギリはこうやって持つんだよ」
作業台の向こうから、ヨハンナがノコギリを持ってやってきた。
「まずはねぇ」
「待ってください」
「ふっふっふ、大丈夫だよ」
「こっちに木材があるねぇ」
「短いのからやってみるかい?」
「初めてならそれがいいねぇ」
「手袋はあるかい?」
「あるよぉ」
「サイズは?」
「ちょっと待ってください」
ヴィルテが一歩下がる。
背後から声がした。
「保護メガネもいるねぇ」
振り返る。
ヨハンナがいた。
「安全第一だからねぇ」
右を見る。
「ここに印をつけるんだよ」
左を見る。
「木材は押さえておくからねぇ」
正面を見る。
「ふっふっふ、やってみなよ」
気がつけば、ヨハンナに囲まれていた。
みんな笑っている。
全員、同じ顔だった。
「……」
ヴィルテはノコギリを見た。
ヨハンナたちを見た。
もう一度、ノコギリを見た。
軽い恐怖を覚えた。




