6 DHAは大事だからねぇ
外務大臣は昼休みを楽しみたい
正午。
「ふっふっふ」
「お昼だねぇ」
「お腹空いたねぇ」
「それほどでもないけどねぇ」
「お昼休憩になるとねぇ」
「なんかねぇ」
「お腹空いた気分にねぇ」
「なっちゃうよねぇ」
「ふっふっふ」
建設現場のあちこちで、ヨハンナたちが作業を中断し始めた。
工具を片付け、手袋を外し、作業着の袖をまくる。
床に腰を下ろす者もいれば、窓際のベンチへ向かう者もいた。
ヴィルテは無言でRowena5を構えた。
ぱしゃ。
数人のヨハンナが、弁当箱を広げていた。
「お弁当なんだい」
「タコさんウィンナーさ」
「プラントかい」
「もちろん」
「手作りかい」
「娘がねぇ」
「ふっふっふ、待ちなよ」
「なんだい」
「娘いないじゃないか」
「ふっふっふ、ジョークさ」
「ふっふっふ」
「ふっふっふ、そっちはなんだい」
「海苔弁さ」
「手作りかい」
「甥っ子がねぇ」
「待ちなよ」
「ふっふっふ」
「甥っ子はトロントじゃないか」
「ふっふっふ、ジョークさ」
「ふっふっふ」
「ふっふっふ」
ヨハンナたちは弁当を食べ始めた。
ヴィルテは無言でシャッターを切った。
ぱしゃ。
少し離れた場所では、別のヨハンナたちがOic Cornerへ向かっていた。
建設作業員のために設けられた店舗らしく、カウンターの向こうにも作業着姿のヨハンナがいた。
「かけ蕎麦くれるかい」
「あいよ」
「カップシリアルをXLLで頼むよ」
「あいよ。シリアルはそっちだねぇ」
「こっちはかけ蕎麦、かき揚げ、天ぷら、天丼も行こうかねぇ」
「たくさん食べなよ」
「こっちは牛丼、天丼、カツ丼、寿司も行こうかねぇ。サーモンハラス、サバ、イワシ、アジ、それからブリも頼むよ」
「ふっふっふ、DHAは大事だからねぇ」
「マグロもあるかい」
「赤身と中トロがあるよぉ」
「じゃあ中トロももらおうかねぇ」
「いいねぇ」
「こっちおにぎり。鮭ハラミとイクラと、お、カニもあるんだねぇ」
「缶詰だけどねぇ」
「いいねぇ。じゃあ、カニとツナマヨももらうよ。二つずつね」
「サバ味噌もあるよぉ」
「おにぎりかい」
「そうさ。缶詰のサバ味噌をほぐして入れてるのさ」
「ふっふっふ、いいねぇ。じゃあそれも二つ」
「焼き鳥缶もあるよ」
「タレかい」
「タレだねぇ」
「それも二つ」
「コンビーフもあるよぉ」
「ふっふっふ、忙しいねぇ」
店員ヨハンナが笑った。
「ふっふっふ、そうだねぇ」
隣の店員ヨハンナも笑った。
「常時五人はいた方が安心かな?」
「自動化を増やせるといいけどねぇ」
「それか、おにぎりや寿司は作り置き用のケースを置くかい?」
「お待ち、温かいうちに食べてねぇ。客寄せには良いかもしれないけどねぇ、作りたてが一番だからねぇ。せいぜい十五分から三十分くらいで廃棄になっちゃうよ」
「ふっふっふ、そしたら従業員が食べれば良いじゃないか」
「いいねぇ」
ぱしゃ。
ヴィルテは写真を撮った。
店内ではヨハンナたちが料理を受け取り、席についていた。
蕎麦をすするヨハンナ。
寿司を食べるヨハンナ。
丼を抱えるヨハンナ。
カップシリアルに牛乳を注ぐヨハンナ。
その向こうでは、店員ヨハンナたちが次の注文を作っている。
ぱしゃ。
別の通路では、数人のヨハンナが喫煙所へ向かっていた。
「ふっふっふ、一服しようかねぇ」
「そうだねぇ」
「今日は進んだねぇ」
「進んだねぇ」
「午後はどうするんだい」
「壁を作るよぉ」
「わたしは配線だねぇ」
「ふっふっふ、頑張りなよ」
「きみもねぇ」
ガラスで仕切られた喫煙所に入ると、ヨハンナたちはそれぞれ煙草を取り出した。
一本に火をつける。
白い煙が、ゆっくりと天井へ上がっていった。
ぱしゃ。
さらに奥の待合スペースでは、ヨハンナたちがベンチに横になっていた。
一人。
二人。
三人。
四人。
全員が同じような姿勢で眠っている。
あるヨハンナは腕を組み、あるヨハンナは上着を顔にかけ、あるヨハンナは靴を脱いでいた。
まだ昼休みが始まって間もないというのに、すでに寝息が聞こえている。
ぱしゃ。
ヴィルテは写真を確認した。
弁当を食べるヨハンナたち。
Oic Cornerに並ぶヨハンナたち。
喫煙するヨハンナたち。
ベンチで眠るヨハンナたち。
そして、建設途中の巨大な空港。
ヴィルテはしばらく画面を眺めていた。
それからOic Cornerへ向かった。
「いらっしゃい、なににするんだい?」
「かけ蕎麦、XLLでお願いします」
「あいよ」
「あ、それと、お寿司も」
「ふっふっふ、何にするんだい?」
「サーモンハラスと、サバと、イワシと、アジをお願いします」
「あいよ。ブリもあるよぉ」
「じゃあ、それも」
「ふっふっふ、DHAは大事だからねぇ」
「なるほど」
ヴィルテはRowena5をポケットにしまった。




