4 定期報告
Oic Placeの屋上から戻ったヴィルテは、窓際の席に腰を下ろした。
Rowena5には、先ほど撮影した写真が並んでいる。
休憩スペース、充電設備、屋上菜園、庭園、露天風呂、Oic Buvette。
そして、空中で胡坐をかきながら自転する悟りヨハンナ。
ヴィルテは写真を何枚か見返したあと、哲学ヨハンナにビデオチャットをかけた。
しばらくして、画面がつながった。
『ふっふっふ、ヴィルテちゃん。どうしたんだい』
「こんにちは。今日撮った写真を送ったんですけど、見てもらえましたか?」
『なるほどねぇ、Oic Placeを撮ったのかい』
「はい、どうでしょうか」
『ふっふっふ、良いと思うよ』
「ありがとうございます。なんてゆーか、ヨハンナさんたちも良くしてくださっていて、いい人たちだし、だからここ撮ってみるのも良いかなって」
『ふっふっふ、褒めてもなにも出ないよ』
「大丈夫です。日当7000レフ出してもらってるんで」
『ふっふっふ』
画面の向こうで、ヨハンナが笑った。
どうやら、どこかのベンチに横になっているらしい。
背景には高い天井が見えた。照明が規則正しく並び、その向こうには巨大なガラス窓が広がっている。
「あの、今どこに?」
『空港さ』
「空港」
『カラディシア国際空港第4ターミナルだねぇ』
「第4もあるんですね」
『ここはまだ建設途中だからねぇ、誰もいないのさ。良いものだよ。広大な空間に一人っきり』
ヨハンナが端末を動かした。
画面には、がらんとしたターミナルが映った。
高い天井。磨かれた床。どこまでも続くようなガラス窓。
ベンチは整然と並んでいるが、座っている人は一人もいない。案内表示にはまだ何も映っておらず、店舗のシャッターも閉まっている。
広大な空間に、空調の低い音だけが響いていた。
『まるで世界に自分しかいないような錯覚に陥れる。終末世界だねぇ。この間の猛吹雪はここにいたのさ』
「なんでまた」
『猛吹雪の日はこういう静かなところでぬくぬくとこたつに入って、壁一面を占める巨大な窓から、広大な滑走路が雪に埋まっていくのを眺めるのさ。みかんを食べながらねぇ』
ヴィルテは画面の向こうのターミナルを眺めた。
誰もいない空港。
巨大な窓。
雪に埋まっていく滑走路。
こたつ。
みかん。
「……風流?」
『そう、風流さ』
「風流ってなんですか」
『それでねぇ、明日はこっちに来てみたらどうかと思ってねぇ』
「風流ってなんですか」
『ほら、空港はカラディシアの玄関口だろう? あとは国際バスターミナルかな』
ヨハンナは何事もなかったように話を続けた。
『ガイドブックの冒頭にも、その国の概要がまず紹介されるだろう? その後のページに、その国の玄関口、主要都市へのアクセス、そんな感じかな』
「はい」
『つまり、ガイドブックを作るには、空港は避けて通れないのさ』
「なるほど、それでその」『しばらくは空港にいるからねぇ、まあ、明日じゃなくても、気が向いたときに来なよ』「風流ってなんですか」
ヨハンナはベンチの上で寝返りを打った。
『ふっふっふ』
画面の向こうには、誰もいない第4ターミナルの天井が映っていた。




