3 2日目、視点を変えてみる
目が覚めると、ヴィルテ・コントリマイテはしばらく天井を眺めていた。
Oic Placeの天井だ。
周囲には、毛布にくるまって眠る人や、コーヒーを飲みながら端末を操作する人がいる。暖炉には火が入っていて、窓の外には雪が降っていた。
ヴィルテは身体を起こし、Rowena5を手に取った。
昨日、外務大臣から仕事をもらった。
観光モニター。
カラディシアを歩き回って、写真を撮ったり、気づいたことを記録したりする仕事だ。
昨日は中央文化区画を観て周った。今日はどうしようか。
ヴィルテは周囲を見渡した。
ここでいいか。
そう思って立ち上がった。
まずは一階から。
Oic Placeには、何度も来ている。泊まったこともあるし、食事もしたし、シャワーも浴びた。けれど、施設の隅々まで見て回ったことはなかった。
ヴィルテは端末のカメラを起動した。
ぱしゃ。
広々とした休憩スペース。床にはマットレスが敷かれ、あちこちに毛布やクッションが転がっている。
ぱしゃ。
壁際の充電設備。端末を操作する人々。窓際のテーブルには、飲みかけのコーヒーが並んでいた。
暖炉のそば。ゲーミングヨハンナ。
「ふっふっふ、ラジオヨハンナの奴、迷走してるねぇ。悟りヨハンナみたいに瞑想すれば良いんじゃないかねぇ」
「なにしてるんですか?」
「奴の対戦履歴を見てるのさ。どうやらソナちゃんの新しい型を考えてるみたいだねぇ。ちょうど新環境がアップされたタイミングだから、試行錯誤も楽しんでるんだろうねぇ」
「なるほど」
「一緒にやるかい?」
「今はちょっと忙しいので」
「そうかい。楽しみなよ。何事もね」
「ありがとうございます」
「ふっふっふ……、さてさて、こっちも備えないとねぇ」
二階へ上がる。
三階へ上がる。
四階へ上がる。
途中、何度か写真を撮り、気になった設備についてはローウェルに尋ねた。
四階では、悟りヨハンナが浮いていた。
床から一メートルほどの高さで胡坐をかき、ゆっくりと自転している。
発光していた。
今度は点滅だ。
ヴィルテは少し眺めたあと、写真を撮った。
ぱしゃ。
悟りヨハンナは回っていた。
屋上へ出る。
冷たい空気が頬を撫でた。空は薄い灰色で、建物の向こうには雪をかぶった街並みが広がっている。
屋上には露天風呂がある。
昨夜も入った、広々とした温泉だ。湯面から白い湯気が立ち上り、風に流されている。
その隣には屋上菜園があった。
寒さを防ぐ設備に囲まれた栽培区画には、さまざまな植物が育てられている。庭園には小道が設けられ、雪の積もった植え込みの間にベンチが置かれていた。
ヴィルテは順番に撮影していった。
ぱしゃ。
ぱしゃ。
そして、屋上の一角に見覚えのある看板を見つけた。
Oic Buvette。
『今はねぇ、ヘリアとダイアデムを試してるんだよねぇ』店内に入った途端、ラジオヨハンナの声が聞こえてくる。『ただねぇ、サポートアイテムはあまり積みたくないのさ。ワイリフはねぇ、実質1v9なとこがあるからねぇ。結局、自分で試合をコントロールする能力が必要なのさ』
「ここにもあったんですね」
店員が顔を上げた。
「猛吹雪の日は休むんです」
「そうなんですね、あ、スマイル0円」
「にごぉ」
店員の顔が歪んだ。
「なるほど」
ここでも同じなのか。
ヴィルテは店内を見渡した。
屋上という立地のためか、ほかの店舗とは少し雰囲気が違う。窓からは庭園と街並みが見え、席には温かい飲み物を手にした客が座っていた。
ぱしゃ。
ぱしゃ。
ぱしゃ。
店を出て、屋上の手すりに近づく。
ふと、下を見た。
建物の中央には中庭があった。
四方を建物に囲まれた広場には芝生が敷かれ、ところどころに木が植えられている。雪は通路の端に寄せられていて、緑色の地面が見えていた。
ヴィルテは端末を構えた。
ぱしゃ。
そのとき、四階の窓から何かが出てきた。
人だった。
悟りヨハンナだ。
胡坐をかいたまま、ゆっくりと降下している。
自転していた。
先ほどと同じ速度で回りながら、中庭へ向かって降りていく。
ヴィルテは手すりに寄りかかり、その様子を見守った。
悟りヨハンナは、芝生の広場から二メートルほどの高さで停止した。
そして、そのまま回り続けた。
一定の速度で。
ヴィルテは端末を構えた。
ぱしゃ。




