10 外務大臣は日本を語りたい
「っしゃせー」
「しゃせー」
「しゃせー」
「いらっしゃいませ~」
入口の近くにいた店員が声を上げると、店の奥からも次々と声が返ってきた。
ヴィルテは立ち止まった。
「わ、みんな言うんですね」
「やまびこだよ。日本人は礼儀正しいからねぇ」
「のど乾きそうですね」
「だから熟練者ほどのどを傷めない発声を身につけるのさ。しゃせーっていう人いるだろう?」
「あ、Oic Cornerにも」
「Oic Cornerははじめからしゃせーが挨拶とマニュアルで決められているけどねぇ、日本のコンビニではそこは教えない。自分で気づかせるのさ」
「へえ」
「いらっしゃいませ~としゃせ、が、白帯とそこから上を分ける壁だねぇ」
「なるほど」
ヴィルテは感心しながら店内を見回した。
明るい照明の下に、飲み物やお菓子、パン、弁当などが整然と並んでいる。
奥には雑誌の棚もあった。
「へー、Oic Cornerに似てますね」
「リトアニアならナルヴェーセンだねぇ」
「えぇ、あ、でもこっちのホットはフライドチキンが多いんですね」
ヴィルテはレジ横のショーケースを覗き込んだ。
揚げたてのフライドチキン。
ホットドッグ。
ハッシュポテト。
茶色い食べ物が多かった。
リトアニアのナルヴェーセンには、ホットドッグやハンバーガーなど、比較的脂の少ないホット類が多い。
こちらは、揚げ物が目立つ。
比較的ヘルシーそうなのは、焼き鳥やおでん、このあたりだろうか。
「日本人は働き者だからねぇ。コレステロールを上げて気分転換するのさ」
「大変なんですね」
「だから東京が出来上がったのさ」
「未来っぽいですよね。行ってみたい」
「ふっふっふ、そのうち行くといいさ。通勤ラッシュと過労死には気をつけるんだよ」
「なんですかそれ」
「通勤時間は電車の中がすし詰めになるのさ。人も入れないくらいね」
「乗れないじゃないですか」
「駅員さんが押し込んでくれるのさ。彼らもプロだからねぇ。そこは信頼して委ねるといいよ」
「なるほど」
ヴィルテは、ぎゅうぎゅう詰めの電車に駅員が人を押し込んでいる光景を想像した。
あまり乗りたくはなかった。
「そういうストレスや過労死と真っ向から戦って社会のために頑張る、日本人の和の心だねぇ」
「へえ……」
ヴィルテは、もう一度ホットスナックのショーケースを見た。
フライドチキンが、温かそうな照明に照らされている。
その隣には、四角い容器に入った煮物があった。




