7 外務大臣はボヤきたい
「ごちそうさまでした」
ヴィルテは空になった包み紙をトレーに置いた。
「ふっふっふ、満足かい?」
「まだ行けますね」
「ふっふっふ、将来有望だねぇ」
「なんですかそれ」
ヴィルテは小さく笑いながら、コーヒーを啜った。
窓の向こうには、雪の積もったゲディミナス通りが広がっている。石畳の隙間には白い雪が残り、街灯の下を厚着した人々が行き交っていた。
その時、二人組の警官が店の前を通り過ぎた。
一人が手に持っているRowena7の画面が、ちらりと見えた。
ラジオヨハンナのライブ配信だった。
そういえば、今日の夕方の占い結果を聞いていない。
そんなことを考えていると、通りの向こうに妙な人影が見えた。
金髪の女性だった。
建物の柱の陰に身を寄せ、こそこそと通りの様子を窺っている。
「……」
ヴィルテは目を凝らした。
見覚えのある金髪。
見覚えのある顔。
まあ、案の定ヨハンナだった。
ヴィルテは、ちらっと隣を見た。
哲学ヨハンナは、窓の外を眺めていた。
「ったるいねぇ」
小さな呟きが聞こえた。
「……」
ちょっと失礼じゃないだろうか。
なんだか、一緒にいるこっちのことを言われたような気がしてしまう。
まあ、それはひとまず置いておくとして。
「哲学ヨハンナさん」
「なんだい?」
「あの、あっち、ヨハンナさんが……」
「あぁ、いるねぇ」
哲学ヨハンナは、さして驚いた様子もなく答えた。
通りの向こうでは、こそこそヨハンナが柱から顔を出していた。
左右を見回す。
通行人が近づいてくると、また柱の陰に引っ込む。
それから何食わぬ顔で歩き出し、通りの向こうへ消えていった。
なにをこそこそしているんだろう。
「あのヨハンナさんはなにをしてるんですか?」
「なんだろうねぇ」
「ご存知でない」
「あれは巡回ヨハンナ中央文化区画中央広場担当さ」
「巡回ヨハンナ中央文化区画中央広場担当……」
ヴィルテは復唱した。
ずいぶん長い名前だった。
「この辺りをうろうろして、人間観察してるのさ」
「逆に観察されてそうですけど」
「悪目立ちしている外務大臣を見た国民の反応を観察してるのさ」
「……なんでそんなことを」
「暇だったんだろうねぇ」
「……なるほど」
ヴィルテはコーヒーを啜った。
窓の向こうでは、先ほどの警官たちが立ち止まり、Rowena7の画面を覗き込んでいた。
巡回ヨハンナの姿は、もう見えなかった。
哲学ヨハンナは頬杖をつき、のんびりと通りを眺めている。
ヴィルテも、しばらく外を眺めた。
どうやらこの国では、暇になると人間観察を始める外務大臣がいるらしい。
しかも、複数。




