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幻想のカラディシア  作者: 空港ヨハンナ
Oic Buvette

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7 そして2個目へ

 ヴィルテは、ハンバーガーを頬張りながら考えた。


 さっきの人。


 悟りヨハンナさんを、悟りヨハンナさんとして認識していた。


 ゲーミングヨハンナさんも、ラジオヨハンナさんも、みんな顔がそっくりなのに、どうやって見分けているのだろう。


 個体ごとに、姿勢や立ち振る舞い、笑い方や喋り方に違いがあるのだろうか。


 それもそうだろう。


 同じ顔でも、性格は違う。


 ゲーミングヨハンナさんは、ゲームをしている。


 ラジオヨハンナさんは、ゲームをしながら喋っている。


 悟りヨハンナさんは、浮いている。


 ……。


 あまり参考にならなかった。


「……あぁ」


 しかし、答えはもう少しわかりやすいところにあった。


 服装だ。


 悟りヨハンナさんは、ゆったりとした、ゆとりのあるローブを着ていた。


 ローブの下は、デニムとTシャツ。


 いずれも無地。


 柄や装飾ではなく、色の組み合わせで個性を出すタイプの服装だった。


 一方、ゲーミングヨハンナさんは、スウェットのパーカーにショートパンツ。


 そして、エナドリ。


 画面の中のラジオヨハンナさんは、シャツにスラックス。


 そして、コーヒー。


 なるほど。


 ヴィルテはコーラを飲んだ。


 しかし、服装を交換されたら、違いなどわからなくなりそうなくらい、ヨハンナたちは似ていた。


「ミサには行ってるかい?」


「ええ、毎週ではありませんけど」


「いいねぇ」


 悟りヨハンナは、ナイフとフォークを置いた。


「わたしが大聖堂を勤務先に選んだのはねぇ、落ち着けるからなのさ」


「はあ」


「あそこにはファストフードもチョコレートもないからねぇ」


「……」


「相談室で座って、相談者が来るのを待つのさ。ゲームしながらね。来たら相談を聞く」


 悟りヨハンナは、コーラを一口飲んだ。


「ふっふっふ、静かでいいところだよ」


 ヴィルテは悟りヨハンナを見た。


 ファストフードもチョコレートもない。


 だから落ち着ける。


 そういうものなのだろうか。


 少なくとも、目の前の悟りヨハンナは、二個目のハンバーガーを食べる気でいる。


「カラディシアは裕福な国ではないけどねぇ、みんな、最低限の衣食住が保証されている」


「はい」


「昨晩、Oic Placeに泊まったねぇ」


「泊まりました」


「良いところだろう?」


「ええ、まあ」


「無料のシャワー、無料の露天風呂、格安の洗濯機。電気毛布やクッションは貸し出し、古着も貸し出し。気に入ったものは持ち帰っても良い」


 ヴィルテは頷いた。


 昨夜のことを思い出す。


 広い室内。


 床に敷かれたマットレス。


 寝転がる人々。


 ゲームをしている人。


 本を読んでいる人。


 寝ている人。


 そして、浮いている人。


「賞味期限切れの食糧は食べ放題で、毎晩売れ残った料理が運ばれてくる。それも格安だ。充電もし放題、ワイファイもある」


「便利ですよね」


「ふっふっふ、ゲーミングヨハンナはもう半年も住み着いてる。奴はもう半年、滞在期間を延長するつもりみたいだよ」


「一年ですか」


「とんでもない話だよねぇ」


 悟りヨハンナは笑った。


「しかし、カラディシアにはオンラインのギグワークもある。モニターとかねぇ。だから、それができちゃうわけさ」


「なるほど」


「それが幸せかどうかは本人次第だねぇ。中には、それしか仕事がない人もいるかもしれない」


 ヴィルテはポテトをつまんだ。


 脳裏に浮かんだのは、ダリウスさんとマンタスさんだった。


 酒と煙草の匂い。


 あの二人も、Oic Placeにいた。


 仕事はしているらしい。


 しかし、どんな生活をしているのか、詳しくは知らない。


 ヴィルテはポテトを食べた。


「最低限の衣食住が保証されているのさ。この国ではね」


 悟りヨハンナは、窓の外を見た。


 雪が降っていた。


 通りを歩く人々の足元には、白い雪が積もっている。


 ムーヴァーは、変わらず動いていた。


「それでも、人々は毎日大聖堂に訪れ、懺悔や相談をする」


「……」


「なぜかわかるかい?」


「なんでですか?」


「わたしの大ファンだからさ」


「……」


「みんな、わたしに会いたくて来るんだよねぇ」


「……」


「ふっふっふ、冗談さ」


「そうですか」


「半分ねぇ」


「なるほど」


 ヴィルテはコーラを飲んだ。


 ずずず。


「半分くらいは、なにを勘違いしたのか、食事に誘ってきたりするんだよねぇ」


「はあ」


「さっきの人、こっちをチラチラ見てるだろう?」


 悟りヨハンナが、指を差した。


 ヴィルテもそちらを見た。


 先ほどの男性がいた。


 男性は、こちらを見ていた。


 目が合った。


「……」


 男性は慌てて視線を逸らした。


 そして、ハンバーガーにかぶりついた。


 がぶっ。


 もぐもぐ。


 ごまかせているつもりらしい。


「……」


「彼はもう三回もわたしを食事に誘ってる」


「……男って」


「呆れるねぇ」


「ええ」


 ヴィルテは、もう一度男性を見た。


 男性は、ハンバーガーを食べていた。


 こちらは見ていない。


 見ていないふりをしているのかもしれない。


 ヴィルテは悟りヨハンナに向き直った。


 悟りヨハンナは、にこにこと笑っていた。


「おかわりは?」


「奢り?」


「もちろんさ」


「行きましょう」


 ヴィルテは立ち上がった。


 悟りヨハンナも立ち上がる。


 浮かなかった。


 普通に立ち上がった。


 ヴィルテは、それを確認した。


 それから、二人は注文カウンターへ向かった。

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