5 勇気ある問いかけ
『ふっふっふ、二キル目。マルファイトくんがおっきなミニオンになってるねぇ』
ゲーミングヨハンナは、なかなか絶望的な戦いを強いられているようだ。
それはともかく。
「へー、おいしい」
ヴィルテはハンバーガーを頬張った。
「ふっふっふ、そうだろう」
「パティもおっきい」
「それにジューシー」
「チーズも良いですね、これ。とろける」
ヴィルテは、はみ出したチーズをバンズの中へ押し込んだ。
熱で柔らかくなったチーズは、肉厚のパティに絡みついていた。
噛むたびに肉汁が溢れる。
香ばしい焼き目。
程よい塩気。
ソースの甘み。
レタスの歯触りも良かった。
「ふっふっふ、技術の進歩は恐ろしくもあり、素晴らしくもあるねぇ」
「技術?」
ずずず、と、ヴィルテはコーラを啜った。
冷たい炭酸が喉を通る。
「プラントミートさ」
「プラントミート?」
「そう。この肉もチーズも、全部プラントだよ」
「つまり?」
「植物なんだ。ヴィーガンも食べられるし、どんな宗教の人も食べられるのさ。科学技術を否定する宗教でない限りはね」
「へー、そんなのあるんですね」
ヴィルテはハンバーガーを見た。
肉だった。
どう見ても肉だった。
少なくとも、ヴィルテにはそう見えた。
少し潰れたバンズの間から、肉汁が滲み出している。
チーズも、とろとろだった。
「抵抗はなさそうだねぇ」
「別に。美味しいし、植物なら体に良さそうじゃないですか」
「ふっふっふ、若いっていいねぇ」
悟りヨハンナは、ナイフとフォークでハンバーガーを切り分けていた。
どうやら、マイナイフとマイフォークらしい。
細身のナイフ。
銀色のフォーク。
持ち手には、控えめな装飾が施されていた。
ヴィルテはそれを眺めた。
ハンバーガーを食べるために、わざわざ持ってきたのだろうか。
悟りヨハンナは、切り分けたパティを口に運んだ。
もぐもぐ。
ごくん。
「ミディアムだねぇ」
「……」
ヴィルテは自分のハンバーガーを見た。
植物なのに、焼き加減まであるらしい。
「すごいですね、これ。本当に肉みたい」
「ふっふっふ」
悟りヨハンナは満足そうに笑った。
窓の外では、雪が降っていた。
先ほどまでの猛吹雪は収まり、通りを歩く人々の姿も増えている。
店内は暖かかった。
揚げたてのポテトの香り。
コーヒーの匂い。
食器の触れ合う音。
学生たちの話し声。
『ふっふっふ、そんなところに立っていたら危ないよ。おやおや、また帰っちゃったねぇ』
ラジオヨハンナは相変わらずだった。
ヴィルテはポテトを一本つまんだ。
ケチャップをつける。
食べる。
美味しい。
もう一本。
それから、ふと、向かいに座る悟りヨハンナを見た。
「……」
座ってる。
浮いてない。
悟りヨハンナは、ナイフでハンバーガーを切り分けていた。
フォークで刺す。
口に運ぶ。
もぐもぐ。
ごくん。
コーラを飲む。
普通だった。
実に普通だった。
ヴィルテは考えた。
この人は、普通に座れる。
椅子に座れる。
歩くこともできる。
食事もできる。
それなのに。
四階では浮いていた。
通りでも浮いていた。
猛吹雪の中でも浮いていた。
しかも、回転していた。
ヴィルテは、悟りヨハンナを見た。
悟りヨハンナは、サラダにフォークを伸ばしていた。
「……悟りヨハンナさん」
「ふっふっふ、なんだい」
「なんで、浮くんですか?」
聞いてしまった。
ついに。
悟りヨハンナは、フォークを持ったままヴィルテを見た。
琥珀色の瞳。
穏やかな表情。
口元には、いつもの微笑みが浮かんでいる。
「ふっふっふ」
「……」
なにか、もう後には引けなくなった気がした。
しかし、聞いてしまったものは仕方がない。
「四階でも、通りでも。だって、わけわかんないじゃないですか」
ヴィルテは続けた。
「悟りってなんなんですか。浮くことなんですか? 回ることなんですか?」
悟りヨハンナは黙っていた。
「浮いて回っていれば、それは悟りなんですか?」
ヴィルテは、悟りヨハンナを見据えた。




