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幻想のカラディシア  作者: 空港ヨハンナ
Oic Corner

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12 もう少し、ここにいよう

『ふっふっふ、っていうことでねぇ、結局こっちの勘違いだったわけさ』


 ラジオヨハンナは、まだ喋っていた。


『相手がこどもだからって、状況を把握できてない、理解できてない、そんな風に考えちゃう傲慢さが、当時のわたしの中にはあったんだよねぇ』


 ヴィルテは、れんこんの天ぷらを口に運んだ。


 しゃく。


 しゃくしゃく。


 歯ごたえが心地よい。


『まあ、みんなが通る道さ。こどもだけじゃないね。鳩や猫も、自らの生き方に合う形で、世界を観察する目を洗練させている。他人や動物が自分や人間よりも賢くないなんていうふうな考え方をしなくなったきっかけだねぇ』


「……」


 ヴィルテは箸を止めた。


 なんだか、聞き覚えのある話だった。


 つい先ほどまで、ヴィルテたちは一人の子供を迷子だと思い込んでいた。


 どこに住んでいるのか。


 親はどこにいるのか。


 何を聞いても、まともな返事が返ってこない。


 だから、何もわかっていないのだと思った。


 ところが、実際にはそうではなかった。


 子供は、親が戻ってくるのを待っていただけだった。


 自分たちが勝手に騒いでいただけだった。


「……」


 ヴィルテは、もう一口れんこんを食べた。


 しゃくしゃく。


 美味しい。


『例えば、このフィオラさ。どこからどう見ても、素人のように見えるだろう? でもねぇ、おっと』


 何かの効果音が聞こえた。


『おやおや』


 また効果音。


 ヴィルテはRowena 7の画面を見た。


 ラジオヨハンナが、ゲームをしていた。


 いつの間に。


 いや、もしかすると、ずっとやっていたのかもしれない。


 画面には、五人対五人で戦うゲームが映っていた。


 LOL。


 ヴィルテも名前くらいは知っている。


 ラジオヨハンナが操作しているのは、ソナという青い髪の女の子だった。


 そのソナが、フィオラという剣を持った女性に攻撃されている。


『ほらねぇ、ソナちゃんの体力がなんと25%も削られちゃった。ごらんよ。素人だからこそ読めないところもある。セオリーを持ってないからね。こどもや動物の自由さに通ずるものがあると思わないかい?』


「……」


 ヴィルテは画面を見つめた。


 Oic Placeにいたゲーミングヨハンナといい、このラジオヨハンナといい。


 ヨハンナは、ゲームが好きらしい。


 画面の右端には、視聴者のコメントが流れていた。


『やっぱりゲームか』


『やはりLOL』


『いつも通り』


『ソナちゃん安定』


『フィオラは油断すると大ダメージ食らうから』


『待てよ、ソナちゃんを信じろ』


『ふっふっふ、でもねぇ』ラジオヨハンナが笑った。『やはりわたしのソナちゃんはねぇ、積み上げてきたものが違うからねぇ』


 画面の中で、ソナが動いた。


『ほら、ウルトだねぇ。踊ってなよ』


 クレッシェンド!


 鮮やかな光が放たれ、フィオラの動きが止まった。


 続けざまに攻撃が入る。


『ふっふっふ、キルもらったねぇ。やっぱりリッチベイン、ルーデン、ラバドンの組み合わせだよねぇ。年季が違うのさ、年季がねぇ。出直すといいよ。ふっふっふ』


 コメント欄が流れた。


『性格悪すぎて草』


『口悪すぎて草』


『性根が腐ってて草』


『やはりLOLは人を歪ませるのか…』


『もはやゲームやってること隠そうともしてなくて草』


『ふっふっふ、まあ、ゲームはみんなでやったほうが楽しいからねぇ』


 ヴィルテは画面を見つめた。


「……」


 さっきまで、他人を見くびってはいけないという話をしていなかっただろうか。


 いや、別にいいのだけれど。


 ヴィルテはRowena 7から目を離した。


 オクラの天ぷらを箸で持ち上げる。


 さく。


 もぐもぐ。


 美味しい。


 天丼は、まだ半分以上残っていた。


 XLサイズ。


 調理担当が奢ってくれたものだった。


 ヴィルテは、窓の外を見た。


 相変わらず、雪が降っている。


 風に煽られた雪が、窓ガラスの向こうを流れていく。


 けれど、少しだけ穏やかになっていた。


 さっきまでのように、何もかも真っ白に塗り潰すほどではない。


 向かいの建物も、ぼんやりと見えている。


 なんだか、妙に長い一日だった。


 Oic Placeで夜を過ごした。


 ゲームをしているヨハンナに会った。


 空中で回転しているヨハンナも見た。


 朝になって、家に帰ろうとした。


 猛吹雪に吹き飛ばされて、Oic Cornerに逃げ込んだ。


 蕎麦を食べた。


 ラジオを聞いた。


 昼になった。


 客が押し寄せてきた。


 子供がいた。


 迷子だと思った。


 迷子ではなかった。


 スマホが見つかった。


 スマホの持ち主も見つかった。


 天丼を奢ってもらった。


「……」


 ヴィルテは、もう一度窓の外を見た。


 まだ帰れそうにはなかった。


 もう少しここにいよう。


 天気が落ち着いたら、Oic Placeに行こう。


 それまでは、もう少しの間、ここでくつろごう。


 天井のスピーカーからは、相変わらずラジオヨハンナの声が流れている。


 店員はカウンターの奥でRowenaを操作していた。


 調理担当は、厨房で何かを片づけている。


 客はまばらだった。


 静かな午後だった。


 ヴィルテは、出汁の染み込んだ米を口に運んだ。


『ふっふっふ、もう一発ウルトだねぇ』


 クレッシェンド!


『ふっふっふ』


 窓の向こう、雪の中を、自転する悟りヨハンナが流れていった。


 右回転だった。

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