↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想のカラディシア  作者: 空港ヨハンナ
Oic Corner

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/84

9 せちがらいねぇ

「なまむぎなまごめなまたまご」


 子供は、椅子の上で足をぷらぷらさせながら言った。


「先輩、どーしゃす?」


 店員が調理担当に尋ねた。


「そうだな。とりあえず、これ食いな」


 調理担当は、Lサイズの蕎麦を子供の前に置いた。


 子供の動きが止まった。


 蕎麦を見下ろし、それから調理担当を見上げる。


「いいのかい?」


「うん」


「ふっふっふ」


 子供は嬉しそうに笑った。


 ヴィルテは、その様子を黙って見ていた。


 この子、ちゃんと会話できるんだ。


 ずる、ずる。


 もぐもぐ。


 子供は蕎麦を食べ始めた。


 店内が静かになった。


 天井のスピーカーからは、相変わらずラジオヨハンナの声が流れている。


 ヴィルテは椅子に腰を下ろした。


 疲れた。


 何がどう疲れたのか、うまく説明できない。


 とにかく疲れた。


「美味いか?」


「おいしいねぇ」


「そっか」


 調理担当は椅子の背もたれに身を預けた。


 店内は静かだった。


 昼の混雑はすっかり過ぎ去り、厨房もようやく落ち着いている。


「にしても、この子どこの子なんだろうな」


「見覚えないんすよね」


 店員が言った。


 ヴィルテは子供を見た。


「ここ来るの初めて?」


「そうだねぇ」


 ずるずる。


 ごくん。


「ごちそうさまでした」


「おう、ゴミ箱そっちな」


「なまむぎなまごめなまたまご」


「ちゃんと自分で捨てろ?」


「せちがらいねぇ」


「……」


 ヴィルテは子供を見つめた。


 子供は蕎麦の容器を持ち、椅子から降りた。


 とことことゴミ箱へ歩いていく。


 ちゃんと捨てた。


 捨てられるんだ。


 ヴィルテは、なんとも言えない気持ちになった。


 子供は再び椅子に戻ってきた。


 よいしょ、と座る。


 足をぷらぷらさせる。


「じゃあかえるねぇ」


 三人が子供を見た。


 え?


「どこに」


 ヴィルテが尋ねた。


「いえだねぇ」


「……は?」


「ふっふっふ、おやおや」


 そのときだった。


 子供のポケットが震えた。


『ふっふっふ、ふっふっふ、ふっふっふ、ふっふっふ』


「……」


 ヴィルテは固まった。


 子供はポケットから端末を取り出した。


 ぴっ。


「もしもし」


 調理担当と店員が顔を見合わせた。


 ヴィルテは、げんなりした顔で子供を見つめていた。


「なに、その着信音……」


「うん、わかったよぉ、かえるねぇ」


 子供は電話を切った。


「じゃあいくねぇ」


 椅子から降りる。


「いや、ついてく」


 調理担当が立ち上がった。「店見といて」


「ういっす」店員が答える。


「ヴィルテさん、一緒に来てもらえる?」


「え、良いですけど、なんで」


「発見者きみだし、女性がいた方が親御さんも安心するだろ」


「なるほど」


 ヴィルテは頷いた。


 たしかに、その通りだった。


 子供は二人を見上げていた。


「ふっふっふ」


「……」


 ヴィルテは、自分のマフラーを巻き直した。


 窓の外では、相変わらず猛吹雪が吹き荒れている。


 帰る。


 この天気の中を。


 ヴィルテは窓を見つめた。


 雪が横向きに流れていた。


 調理担当が上着を手に取る。


「よし、行くか」


「そうだねぇ」


 子供は元気よく答えた。


 ヴィルテは、その小さな背中を見下ろした。


 そういえば。


 この子、今、自分の端末で電話してなかった?


「……」


 ヴィルテは何かを言いかけた。


 やめた。


 もう、何も考えたくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。