5 迷子
「ねえ」
「なんだい?」
「……」
ヴィルテは子供を見つめた。
ラジオヨハンナの口調だった。
「あなた、一人?」
「そうだねぇ」
「お父さんかお母さんは?」
「わかんないねぇ」
「……」
「ふっふっふ」
「……」
ヴィルテは天井を見上げた。
『でねぇ、その迷子の子がねぇ、いたずらで注文ばかりするんだよねぇ。子供にスマホは持たせちゃだめだよねぇ』
「……」
ヴィルテはスピーカーを見つめた。
なんという偶然だろう。
ラジオヨハンナは、以前Oic Cornerで遭遇した迷子の話をしているらしい。
そして、今まさに同じようなことが起きていた。
ヴィルテは子供に視線を戻した。
「なんでヨハンナの真似してるの?」
「がっこーではみんなまねしてるねぇ」
「……」
学校で。
みんな。
ヴィルテは今朝読んだレビューを思い出した。
『最近、うちの子が何かにつけて「ふっふっふ」と笑うようになりました。どうにかしてください』
なるほど。
被害は思った以上に広がっているらしい。
「ねえ、あなた、どこに住んでるの?」
「わかんない」
「この建物?」
「わかんないねぇ」
「何階?」
「わかんない」
「……」
「ふっふっふ、こまったねぇ」
「今それやめて」
子供は首を傾げた。
ヴィルテは考えた。
まず間違いなく、この建物の住民だろう。
外は猛吹雪。
こんな小さな子供が、一人で外から歩いてくるとは考えにくい。
しかし、この建物は巨大だった。
セル。
カラディシアでは、こうした建物をセルと呼ぶらしい。
一階には店舗や施設が入り、二階から四階は集合住宅になっている。
一つのセルには、最大で千人以上が住めると聞いた。
千人。
その中から、この子の保護者を探す。
「……」
なかなか大変そうだった。
「こまったねぇ」
「……」
ヴィルテは子供を連れて、カウンターへ向かった。




