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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第3章

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 瞬時に蛾の魔獣へ到達したアスが、剣を振るう。

 アスの速度は、ほとんど落ちていない。麻痺の影響は、今のところ表面化はしていない。


 アスのその剣を口吻で応じて受ける蛾の魔獣。

 刃を滑らせ、羽へ狙いを切り替えたアスの剣は、それでも魔法の防壁に防がれる。


 その一瞬、空中で体をひねって体勢を立て直したアスが、蛾の魔獣を顔面を蹴り飛ばす。

 その勢いに押されるように、蛾の魔獣が洞窟の奥へと後退する。


「ヴァレンティン!」


 アスの声に応じて、ヴァレンティンの魔力が高まる――マクグレイヴ家伝統の魔法を展開する。

 洞窟の奥へ向けて伸ばされた右手から、魔力で作られた正六角形が放たれる。


 最初、ぼくはいくつかの大きな正六角形で壁を覆うイメージだった。

 だが、ヴァレンティンの手から撃ち出されたのは、彼の身長にも満たない大きさだった。


 しかし、正六角形は即座に――まるでマシンガンのように、間をおかず放たれ続ける。

 しかもその魔法は、蛾の魔獣を追うように放たれ続ける。

 蛾の魔獣はひらひらと正六角形の魔法をかわし、――その魔法は壁の奥側から、ヴァレンティンに遠隔のコントロールを受けて、空間を敷き詰めるように防壁を形作る。


 強度と応用性を兼ね備えた魔法を精緻に操るヴァレンティンは、かなりの使い手だ。

 そして巧妙でもある。

 蛾の魔獣本体を目掛けて魔法を撃ち出すことで、魔獣にぼくらの本当の狙いを悟らせていない。


 ヴァレンティンの手から放たれ続ける魔法が、あっという間に壁をウロコのように覆いはじめる。

 ぼくの想定していなかった地面にまで防壁が広がると、ヴァレンティンは魔法を放ちつつ、ぼくへと視線を送る。


「防壁の展開は済んだ。そうですね?」


 ぼくが確認をすると、隣に立つヴァレンティンは手で顔を覆ったまま、深くうなずいた。


「マックスの準備は?」


 マックスが即座に親指を立てて応じる。


「よし。アス、押し込め!」


 ぼくのその声を合図に、ヴァレンティンの魔法が途切れ、その間隙を埋めるようにしてアスが蛾の魔獣へと迫る。

 ひらひらと待っていた蛾の魔獣が素早くアスを迎え撃つ。


 剣と口吻とのぶつかり合う音が響く。

 突き出される口吻を弾き、その勢いを利用して天井まで到達したアスは、天井の壁を蹴って蛾の魔獣に、体ごと体重を預けるような斬撃を放つ。


 斬撃そのものは防壁から防がれる。だが、アスの勢いは止められない。

 不可侵の魔法防壁そのものに押されるようにして、蛾の魔獣は宙を滑り、洞窟の奥の壁へと叩きつけられる。

 その衝撃もまた、魔獣の展開した防壁に防がれ、ダメージに怯んだ様子には見えない。


 だが、ぼくらの作戦を遂行するには、十分すぎる位置に蛾の魔獣は達していた。

 ――撃て。


 ぼくの言葉を待たず、事前にアスからも言われていた通り、マックスが即座に魔法を放つ。

 伸ばした右手から放たれた魔力は、ぼくの知る限りの最大出力だ。

 白い閃光が洞窟の中にきらめく。

 その射線上からアスが逃れるのが見え、ぼくはほっと息をつく。


 その光の直径は、蛾の魔獣の二倍ほどの太さがあった。

 素早く体勢を立て直した蛾の魔獣が、瞬時に宙へとひるがえり、最初の魔力の放射を逃れる。

 だが、続けて放たれたマックスの二、三発目の魔法の光の中へ消える。


 さらに、四発目――五発目と、わずかずつ狙いをずらした魔法をマックスが放つ。

 光に満たされた洞窟が、その巨大なエネルギーに揺れ、轟音が反響する。

 地面を覆っていた土埃が宙に舞う。

 魔獣は、確実にマックスの魔法に飲み込まれたはずだった。


 ……やがて、洞窟の中に静けさが戻る。洞窟の壁を覆い尽くしたヴァレンティンの魔法に、剥がれた様子はない。

 洞窟の一部が崩れてくる気配もない。

 洞窟内に、動くものの様子は見当たらない。


「アス、大丈夫だね?」


 そう声をかけつつ、ぼくはマックスの魔力の残滓が濃い洞窟内の魔力を探る。

 ヴァレンティンの防壁に異常があれば、すぐに退避しなければならない。


「ああ、無事だ」


 だが、アスのその声が返ってきたとき、ぼくは予想していなかった魔力を感知する。

 これは……マクグレイヴ家――アルドリックの魔力。

 嫌な予感がする。


 ぼくの傍らに立ち、様子を窺っていたマックスとヴァレンティンの二人に素早く視線を送る。

 そしてアスに声をかける。


「アス。魔獣の防壁の魔力が残ってる。警戒は解かないで」


「……位置を確認する」


 舞い上がっていた土埃を通した、薄くかげった視界の中でアスの影が動く。

 土埃は徐々に収まり、立ち止まったアスの視線の先にあるのは、体を縮めるように丸めた――蛾の魔獣の姿。


 二対の白い羽を曲げてピタリと自分の体に沿わせ、さながら蛹のような姿勢を取っている。

 その丸めた体を丸く覆っているのは、幾重にも重ねられた、仄かに光る細かな透明の正六角形。


 まるで魔力で形作った繭だった。その姿勢のまま、蛾の魔獣はピクリとも動かない。

 アスが素早く剣を振り上げ、身動きしない魔獣へと斬りかかる。透明な繭の丸みに弾かれ、剣は地面にぶつかって硬質な音をあげる。


「アス、魔獣の様子は?」


「硬い。そして、ダメージはなさそうだ。そして、単に守りに徹しているわけじゃあない……機を伺ってるな。ヤツの眼が、こっちを見ている」


 即座に反撃するほどの機動力はない。

 だが、魔獣を置いて逃げるほどの余裕を与えてくれるかはわからない。


 マックスの出力に賭けるか?

 あるいは、ヴァレンティンの魔法でさらに上から封印する?


「魔獣ごときが、笑わせる」


 意外なその言葉に、ぼくはヴァレンティンへと目を向ける。

 手で口元を抑えたその顔に浮かんでいた表情は、言葉通りの笑顔だったが、その目と言葉の響きにあるのは、確かに憤りだった。


「借り物にすぎないアルドリック様の魔力を使いこなしてでもいるつもりか。……昔のままじゃないと言ったな、マクシミリアン。残りの魔力の全力を、あの魔獣に向けて放てるな?」


「あ、ああ。少し時間をもらえれば、だが……ヴァル兄、一体何をする気だ?」


「あの不届者――魔獣との魔力比べだよ、マクシミリアン。お前の全力でヤツを潰せ。わたしはそのための受け皿を作る。紛い物じゃない、純正のマクグレイヴ家の魔法でな」


 その言葉と共に、ヴァレンティンがすでに展開していた魔法防壁が蛾の魔獣へ向けて動き出す。

 その動きでぼくは、ヴァレンティンがやろうとしていることに気づく。


「つまり、圧縮だね、ヴァレンティン」


 ヴァレンティンがうなずく。

 やろうとしていることは明らかだ。防御体勢を取った蛾の魔獣の周囲をさらに防壁で覆い、そこにマックスの魔力を打ち込む。

 逃げ場のない魔力の圧力は、そのまま威力へ変換されるはずだ。


「魔獣のあの様子――あんな方法を取らなければ、防ぎきれないということだ。なら、より威力を高めればいい。実行に支障はないな、ジン?」


「ああ。でも、ヴァレンティンの魔法は、より収束されたマックスの魔力を受けることになる……」


 マックスも同様の懸念をしていたらしく、不安げな視線をヴァレンティンに送る。

 だが、ヴァレンティンは不敵に笑う。


「かつてアルドリック様に出来たことが、わたしに出来ないはずがない。何より、マクシミリアン、わたしはお前の兄貴分だぞ?」


 一瞬、呆けたような表情の後、マックスが嬉しそうな顔をする。

 顔にあてた手を離すと、両手を蛾の魔獣に向け、不敵に笑う。


「そうと決まれば、出し惜しみはなしだ。なりふり構わず行くぜ」


 そのままマックスは目を閉じる。

 暴れだしそうなぐらい激しい魔力が、マックスの集中と共に研ぎ澄まされていくのを感じながら、ぼくは三人に言う。


「マックスは準備が整い次第、撃ってくれ。ヴァレンティンは可能な限りの防壁の展開を。アスは蛾の魔獣の状態の変化の注視を頼む!」


「了解した」


 アスの冷静な声の後、ヴァレンティンが防壁の移動と再展開を行い、マックスが集中する十数秒が過ぎる。

 ぼくらの最後の攻撃を放つまでの、その十数秒。

 張り詰めた空気の中で、蛾の魔獣を覆う魔力の繭は、不気味な光の明滅を続けていた。

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