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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第3章

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 洞窟に、重量感のある打撃音が響く。

 ヴァレンティンが展開した防壁が、蛾の魔獣が突き出した口吻を弾いていた。


 だがその魔力の防壁を通じてさえ伝わる衝撃は、受け止めたヴァレンティンにも予想外のものだったらしい。

 アスが軽々とさばいていた口吻は、ヴァレンティンの顔を歪ませるほどの強靭さを持っている。


 そのとき、アスが蛾の魔獣の上空から現れ、上段からの一撃を見舞う。

 だがその攻撃も、蛾の魔獣の展開した防御魔法に守られる。

 ヴァレンティンの防壁とアスに挟まれた蛾の魔獣は、スルスルと側方から抜け出て再び宙へと舞い戻る。その空中には、さらなる鱗粉が散っている。


「すまない、ヴァレンティン。スキを突かれた」


 返事の代わりにヴァレンティンが、大きくうなずいてみせる。

 そして再び口元を手で覆おうとしたそのとき、ゆらりと体勢を崩し、膝をつく。


「大丈夫か?」

 

 たずねるアスを、ヴァレンティンは片手で制する。

 再び立ち上がるものの、先ほどの襲撃の際に、即座に魔力を展開したせいもあってか、さらなる鱗粉を吸い込んだのは明らかだった。


 アスが剣を構えて宙を見上げる。

 これまで洞窟の最奥部で戦っていたアスと魔獣は、今やぼくらのすぐ背後まで来ている。

 片腕しか使えないアスが、再び洞窟の奥まで魔獣を押し込むのは、宙に浮かぶ魔獣相手では困難だろう。


 そしてぼくたちにも毒が回りはじめている。

 襲撃が続き、より濃い鱗粉をまかれたら、マックスだってまともに身動きが取れるか危うい。

 ジリ貧だ。逃げ切れない。

 ……このまま、何の手も打たないとすれば。


「アス、撤退はやめだ」


「ジン、しゃべるな。毒が」


「このままだと負ける。……ここで勝負をつけよう。幸い、ぼくは喋れれば役割が果たせる」


 ぼくはゆっくり振り返る。

 その程度ならなんとか体は動いた。下半身の感覚はもうほとんどない。

 バランスを崩さず、走るのはもう困難だろう。


 蛾の魔獣は依然として、空中で素早く身を翻しながら、ぼくらの様子をうかがっている。

 距離をあけすぎないのは、鱗粉の効果を高めるためだろう。

 アスはぼくたちと蛾の魔獣の間に立ちふさがっている。


「アスはまだあの魔獣を抑え込めるね?」


「……ああ。もうさっきのようなヘマはしない」


「任せた。マックスは――喋らなくていい。今の状態で、全力で魔力を打ち込むのは何発までいける?」


 マックスがうなずき、右手を開く。五発。

 さらに、左手も開く。十発か。

 最後に周囲をゆっくり見渡し、首をかしげてみせる。


「十発はいけるけど、洞窟の崩落が怖い、だね。だけど、蛾の魔獣の守りは固い。マックスの本気を使う必要があると思うんだ。本気の十発で、魔力を絞らないとすれば、あの蛾の魔獣には当てられるだろう?」


 少しだけ考えた間の後で、マックスはうなずく。


「よし。じゃあ、最後にヴァレンティン。ヴァレンティンは、魔法を展開してください。ただ、狙う先は蛾の魔獣じゃない。毒を吸った今、拘束魔法のために近づくのは危険すぎるし、狙いをつけるのも困難だろう」


 ヴァレンティンが険しい顔をして首をかしげる。


「狙うのは、洞窟の奥です。出来るなら、全面に魔法を展開して欲しい。可能ですか?」


 ヴァレンティンが目を細め、うなずく。

 そうだろうと考えていたとおり、ヴァレンティンは理解が早い。


「ただ、心配といえば、一つだけ。マックスの魔力はおそらく、昔に比べてはるかに強い――蛾の魔獣の防御魔法すら貫く、弩級の魔力です。抑えきる自信はありますか?」


 マックスにちらりと目を向け、それからヴァレンティンはにやりと微笑むと親指を立てる。

 一方、まだピンときていないらしいマックスと、依然として宙で鱗粉を撒き散らす蛾の魔獣へ相対しているアスへ向けて、ぼくは作戦の総括をする。


「じゃあ、役割分担はこうだ。アスは蛾の魔獣を洞窟の奥まで押し込む。ヴァレンティンは洞窟の壁に、可能な限りの防壁を展開。マックスはアスが押し込んだ魔獣に、全力の魔法を撃ち込む」


 マックスが合点のいった顔をする。発想としてはシンプルだ。

 洞窟の崩落を恐れて全力の魔法が使えないのなら、洞窟そのものを守ってしまえばいい。


「了解した」


 アスの声が届き、次いでマックス、ヴァレンティンの二人も大きくうなずく。


「じゃあ、三人とも、頼むよ。……ぼくはすでに、体の感覚がほとんどない。だから、任せる」


 そう口にして、ぼくはゆっくりと腰を下ろす。

 自分の体を支える自信は、もはやなかった。身体感覚はほとんどなく、宙に自分の意識だけが浮いている感じがする。


「時間はなさそうだな。さっそくはじめるぞ、マックス、ヴァレンティン」


 アスはゆっくりと深く呼吸をしてから、口を覆っていた左腕を口元から離す。

 それから剣を右手にぶら下げると、普段のような力のこもらない姿勢で、蛾の魔獣へと歩みよっていく。


「マックス、ヴァレンティンの準備が終わり次第、撃てるタイミングで撃て。合図はいらない!」


 そう言い残すと、アスは即座に蛾の魔獣へと跳んだ。

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