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本邸に勤めているマクグレイヴ家の使用人たちに、アルドリックの体調が崩れた後の期間――およそ2カ月――その間にあったことについて聞きとりを行なってから、ぼくたちは再び応接間へと戻ってきた。
収穫は、ほとんどなかった。
そもそもマクグレイヴ家のセキュリティは、ぼくたちが本邸にたどり着くまでにいくつもの検問を通ってきたように、不審者の侵入を許さないものになっている。
そして日常業務ではアルドリックは本邸の自室に座っていた。
一方で、外出するときは大抵、ヴァレンティンが一緒だ。そして病身になって以降は、ほとんどヴァレンティンが傍らに付き添っている。
そのヴァレンティン本人にも、思い当たるフシはないという。
「アルドリック様が病で伏される前は、わたしも常におそばにいたわけではない。だが大抵は、お一人で書類仕事をされていた。何かあれば、使用人なりわたしを呼んだはずだ」
「しかし、何かがあったはずです。アルドリック様が体調を崩される直前……一、二週間に絞ってみてください。普段とは違う訪問客はいませんでしたか? あるいは名高い魔法の使い手や、魔法関連の商品を扱ってる相手に該当しそうな客などは?」
「普段、取引をしている相手ならアルドリック様が一人で対応されるが、はじめて訪問してくる相手ならすべてわたしも同席して……」
そのとき、ヴァレンティンが言葉を止め、表情を変える。
「いた。大した訪問じゃなく、気にも止めてなかったが、該当する相手が、確かにいた」
アルドリックへの訪問の申し込みがあったその相手は、妙な取り合わせの二人だったという。
ザハークという他国の商人と、ナザリオという顔の下半分をマスクで隠した男性のエルフ。
エルフの名前を聞いて視界の端でアスがピクリと反応するのが目に留まった。
「その二人の用件は、商談ですらなかった。いずれこの国でも商売をしたいがゆえに、アルドリック様にお目通りにしたいというだけのことだった。他国からの訪問者ということで、アルドリック様も無下にはなされなかったがな」
二人は世間話程度の話をし、短い時間で帰っていったそうだ。その間、マスクのエルフはほとんど言葉を発しなかった。
ただ、帰り際にザハークはアルドリックへ贈り物として、奇妙なものを置いていった。
「鉱物の結晶だ。クリスタルだ、と言っていたな。どこで聞きつけたのか、マクグレイヴ家伝統の魔法によく似たものが刻まれている、と言って置いていった。アルドリック様は客前もあってか興味を示されていたが、見ず知らずの相手からの贈り物だ、わたしはあまりいい心持ちはしなかった」
「……その鉱物はいま、どこに?」
「アルドリック様が保管されているはずだ。――使用人に聞いてみよう」
ヴァレンティンが連れてきたのは、アルドリックの寝室に看護のために付き従っていた、女性の使用人だった。
普段は秘書のような仕事をしているらしい彼女は、その結晶のことをよく覚えていた。
「アルドリック様は確かに珍しがっておられました。エルフからの贈り物、というのも興味を惹かれておられたようです。ただ、紋様を調べた後、それが自然の産物ではなく、誰かの手によるものだと結論づけられると、結晶は貯蔵庫に収納しておくよう、守衛に指示されていました」
「貯蔵庫か……」
ヴァレンティンが厄介そうな顔をする。
その理由が分かったのは、使用人が部屋を辞した後に発した、マックスの言葉だった。
「貯蔵庫――親父のガラクタ置き場だな。今でも相変わらずなのか?」
ヴァレンティンは首を横に振る。
「これでも、年に一度は整理を促してきたつもりだ。アルドリック様は不承不承だったが」
「ガラクタ置き場って?」
マックスにそうたずねると、先に答えたのはヴァレンティンだった。
「アルドリック様は大抵のものを大事にとって置かれる」
「よく言えば、だな。ほとんどはガラクタだ。そして勝手に捨てると怒る。物持ちも、記憶力もいいから、厄介だ」
「……その貯蔵庫は、近くにあるの?」
ヴァレンティンとマックスが目を見合わせる。
そして二人で肩をすくめ、マックスが答える。
「マクグレイヴ家の敷地の最奥にある洞窟――そこが、親父の貯蔵庫だ」
「馬車で行った方が速いな。手配をしてこよう」
「じゃあ俺は守衛たちに、収納を指示された場所を聞いてくるか。構わないだろ?」
ヴァレンティンがマックスへうなずき、二人が部屋を後にする。
部屋に残されたぼくは、アスへと目を向ける。
そっと小さくため息をついたアスに、ぼくはたずねる。
「ナザリオって?」
余計な言葉を省いたその質問の意味が、それでもアスにはわかったらしい。
力なくわずかにぼくへ微笑んでみせる。
「さすがに目ざといな、ジン」




