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アルドリック・マクグレイヴは客間のベッドに横たわっていた。
単に力なく体を横たえていただけの先ほどとは異なり、今では眠っているらしい。
弱々しい、規則的な息が静かな部屋に満ちている。
部屋の角の椅子に、先ほどはいなかった看護のための使用人が座っていた。
部屋に入ったヴァレンティンがうなずきかけると、彼女はそっと席を立って部屋を出ていく。
部屋の中にいるのがぼくたちだけになったのを確認してから、ぼくはヴァレンティンへと目を向けた。
「アルドリック様に触れさせてもらいます。御手で十分ですから……構いませんね?」
いぶかしげな表情をしながらも、ヴァレンティンはうなずく。
ぼくはアルドリックに掛けられている、軽く柔らかいブランケットをベットの端からめくる。
そうして現れた手は、やせ細っていた。不健康な白さ。
そして、肉が落ちてたるんだ皮膚に、浮かび上がった腕の骨。
まだ働き盛りのはずの右手を取り、ぼくは魔力の感覚に集中をする。
アルドリックの魔力は、マックスよりむしろヴァレンティンに似ていた。
爆発的な力強さのない、しなやかな魔力。
今は体力の衰えのせいか、弱々しい。
先ほどの戦いでマックスは、『マクグレイヴ家伝統の魔法』とも言っていた。むしろ、マクグレイヴ家としては、この魔力が自然なのか。どうやらマックスは突然変異らしい。
そんなことを考えながら、アルドリックの体内の魔力を探るために、彼の左手へとぼくは手を伸ばす。
両手をつなぐ形になったぼくは、目を閉じる。
イメージは、『スキャニング』。
ぼくの右手から、アルドリックの体内に魔力を流し込み、左手でその魔力を受け取る。
アルドリックの体内に、あるべきではない異物があれば、魔力の流れの異常でわかるはずだ。
アルドリックの体に流し込む、その魔力へと感覚を集中させる。
アルドリックの体内を通る魔力の感覚は、枯れた木に水を送るのにも似ていた。
活力を失い、すでに機能を低下させたその肉体に、徐々に魔力を通し、その流れを感知する。
かすかにしか戻ってこない魔力が、やがて通り道を作り出して走査をはじめる。
だがその魔力が決して流れ込もうとしない何かが、心臓付近にある。
――見つけた。
そして、ぼくは目を開く。
アルドリックから手を離し、ブランケットを再びそのやせ細った体にかける。
「……それで、何かわかったのか?」
たずねてくるマックスへ、ぼくはうなずく。
そうして、アルドリックの胸元を指差す。
「ここだ。ここに何者か、あるいは、何らかの原因による魔力が体内に潜んでいる。つまり君の父親がこうなっている原因――それは、魔法によるものだ」
ヴァレンティンが目を見開く。
「信じられん。マクグレイヴ家の治癒魔法師は一流だ。それでも治せなかったんだぞ?」
「これは推測ですが、その治癒魔法は、効果を発揮したのかもしれません――一時的には。だけど、この魔力は、今も体内に残っている。アルドリック様の体を蝕む魔法をかけ続けているのです」
「そんなことが……」
ヴァレンティンは信じられないという口調でつぶやく。
そのヴァレンティン自身が、遠隔操作を可能する魔法を使っているのが不思議だ。
ぼく自身にはこれまで魔力を遠隔操作するという発想がなかった。その点では、むしろヴァレンティンはぼくよりも受け入れやすそうなものなのに。
だが、ヴァレンティンの遠隔操作は魔法を視認しながら、リアルタイムで行われていた。
いまアルドリックの体内にあるそれは、今でも機能し続けている――つまり、視認さえせず、あるいは何らの指示も受けずに機能し続けている。
ヴァレンティンが用いている操作技術よりも、はるかに高度な魔力操作なのだろう。
この世界の人間にも、その可能性を発想出来ないほどの。
「だとしたら、その魔力の源は、何だ? ……まさか、家人か?」
「でも、誰か新入りがいるってわけじゃあないんだろう? 戻ってきてから、知った顔しか見てないぜ?」
ヴァレンティンがマックスにうなずく。
「お前が離れて以降、本邸で新たに雇った者はいない」
「じゃあ……」
戸惑うマックスにぼくが、最もありそうな可能性を挙げる前に、口を開いたのはアスだった。
「だが、これで物事がシンプルになったな」
ヴァレンティンとマックス、二人の疑惑を宿した目がアスに向く。
視線に気づいたアスが肩をすくめる。
「すまない、言葉が足りなかったようだ。つまり、わたしたちがすべきことは、マクグレイヴ家の今後を話し合うことじゃない。その魔力の源を見つけて、叩くことだ。そう言いたかった」
アスの言葉を飲み込むにつれ、呆然としていたマックスの表情が、徐々にいつもの自信有りげな顔へと変わっていく。
「アスさんの言う通りだ。親父はまだ助かる――助けられる」
アスがうなずき、ぼくへと目を向ける。
「それで、ジン。当然、次の手は考えているんだろう?」
何気なくアスが口にするその一言は、結構重い。
ぼくだって、何でもわかるってわけじゃあないのにな。……だけど、アイデアがないわけじゃあない。でもそれは、比較的地味な作業からはじまる。
「まずは、聞き取りからはじめよう。アルドリック様が体調を崩しはじめたその時期に、何かがあったはずなんだ」




