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ヴァレンティンが練り上げていた自らの魔力から、集中を解くのを感じる。
マックスもまた、戦いの構えを解くと、ホッとした表情を見せる。
「ギルドでの実績も認めてくれるよな、ヴァル兄」
「ああ。ただ全力で魔力を放つことしかできなかったあの頃のお前とは違うようだ」
あくまで静かに、ヴァレンティンは口にする。
だがその表情は、先ほどまでに比べると、どこか柔らかい。
「勝負の結果は明らかだ。当主に戻ってくれても、ギルドに貢献しても構わない。お前はお前の道を行け。それがアルドリック様と話したことでもある。だが……」
そこでヴァレンティンが浮かない顔に戻る。
「すまないが、マクシミリアン。あと数日、マクグレイヴ家に滞在してくれないか。お前に家を継がせる気だったアルドリック様は、マクグレイヴ家が持っている資産の一部をお前の名義にしている。お前が急に家を飛び出したから、それらの名義を変える事務手続きが滞っているんだ」
マックスがちらりとぼくへ視線を向ける。
別に問題ない、という意味を込めてぼくは軽くうなずいてみせる。
「ああ、いいぜ。せっかく久しぶりに会ったんだし、ヴァル兄とも積もる話があるからな」
「助かる。もし、アルドリック様が……いなくなってしまわれた後だと、その書類手続きも煩雑になるからな」
マックスの言葉を受けて微笑んでいたヴァレンティンの表情が、再び曇る。
マックスもまた、苦しげな表情に変わる。
ヴァレンティンの言葉にはもう、おそらく裏の意味はないのだろう。
書類手続きに時間がかかるのも、きっとウソではない。
だけどそれ以上に、もう長くないアルドリックのそばに、できるだけマックスを留めて置きたいと、そんな意図の方が強いのかもしれない。
だが――。
そのとき、不意にヴァレンティンがぼくらへと目を向ける。
「もちろん、お前の仲間たちの部屋も用意させてもらう。……二人とも、それで問題はないか?」
ぼくの視線を受けてアスはすぐにうなずく。それからぼくは、ヴァレンティンの力ない表情を見上げる。
「滞在の件は了解です。むしろマックスにはぜひ、ヴァレンティンさんと深い親交を保っていてもらいたい。今後のこともありますからね」
ぼくがマックスに微笑みかけると、マックスは照れくさそうな顔をする。
ぼくとしてはただ二人の仲を気にかけているだけではなかった。
マクグレイヴ家という大商家にコネクションが出来るのは、ギルドへの収穫物の販売を生業としているものとしては、メリットが大きい。
とはいえ、仲間として言えば、マックスが実家とのつながりを再構築するということが、単純に喜ばしいことではあった。
「ただ、一つだけ、ぼくからもお願いがあります。その内容によっては、わざわざ急いで書類仕事を片づけることもなくなるかもしれない。家を継ぐのは誰とか、そんな話だって、ゆっくり出来るんじゃないかと」
せっかく収まりかけた話を蒸し返されたのが、ヴァレンティンには面白くなかったかもしれない。
ヴァレンティンの表情に、わずかな反感がみえる。
「お願い、とは?」
「アルドリック様に、もう一度会わせていただきたい。お疲れなのはわかっています。アルドリック様が眠っていたとしても、その様子を調べたい」
「……なぜ?」
ヴァレンティンは疑念が更に深まった顔をする。マックスもまた、不可解そうな表情だ。
だがぼくは、先ほど見たアルドリックの様子と、ヴァレンティンの言葉を思い起こしていた。
『原因不明なまま、早急に悪化した病』。
現代のように医学が発達していないこの世界では、治療魔法ではどうにもならない病気や怪我の類は、手の施しようがないらしい。
そしてマクグレイヴ家の抱えている治療魔法師は一流だろう。
その治療魔法師が治せない以上、どうしようもなく死を待つだけの状態だと、アルドリックは認識されている――だからこそ、ぼくには疑念があった。
それは本当に病なんだろうか?
マックスと和解したヴァレンティンにはもう、ぼくの魔力についても話していいだろう。
そう判断して口を開く。
「ほくは人よりも魔力が乏しい――その代わり魔力には敏感に反応出来るように生まれついています。さっきはアルドリック様のことを調べる時間がなかった。でも、もっと詳しく調べることができれば、何かわかるかもしれません」
頭にあったのは、先ほど見たヴァレンティンの魔法だった。
これまでのぼくの魔力のイメージには、遠隔操作の発想はなかった。
だが、ヴァレンティンは完全に放ち終えた魔力を自らの意思で操作してみせた。
ならそれは、他の誰かにも出来ることでもある。
「ヴァル兄、ジンの話は本当だぜ。今までも見てきたし、何なら俺がイラついているぐらいのことで、遠くからでも俺の魔力がわかるらしい。魔獣みたいだろ」
ヴァレンティンが目を見開く。ぼくにとってそれはあまりに自然な感覚で、普段はあまり意識していない。
だが、魔力自体を感じ取るというのは、この世界では人間には出来るとは想像だにされないほどの、特殊な力らしい。
犬ぐらいに鼻が効く、みたいなものなんだろうか。
「……しかし、アルドリック様は休んでおられる」
「別に起きてもらう必要はありません。非礼なのは承知の上です。お休みになっているところでもいいから、直接対面して、調べたい」
ぼくが言い募ると、ヴァレンティンはしばらく戸惑っていたが、やがて決断を下した。
「それなら、頼む。何かアルドリック様に出来ることがあるのなら、何でもしてくれ」




