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「勝負あり、だな」
ヴァレンティンがマックスを見下ろす。
それから、長い吐息――疲労の息にも、ため息にも聞こえる――が続く。
「今のですべてがわかった、マクシミリアン。お前は、何も変わっていない。ギルドでの名声はまやかしか、あるいはあそこにいる、お前の仲間たちの支援の結果なのだろう」
ヴァレンティンは振り返り、ぼくらの反応を窺う。ぼくは無言のまま応えなかった。
ぼくらの反応が、マックスの作戦を狂わせる可能性だってある。
その無言をどう解釈したものか、ヴァレンティンは小さくうなずき、再びマックスへと目をやる。
「マクグレイヴ家へ戻れ、マクシミリアン。ギルドでやれるだけのことはやったのだろう? 本来の当主はお前だったんだ。今となっては、アルドリック様も認めてくれる。アルドリック様がああなった今、実子であるお前がいるだけでも違うのだ。わたしだって、お前を支えてやれる。だから、帰ってこい、マクシミリアン」
マックスがヴァレンティンをしばらく見上げ、それから、ふっと笑みを浮かべる。
「わかった」
その言葉を聞いて、ヴァレンティンが大きく空を仰ぐように視線を上へ向ける。
それから、もう一度大きく息を吐く。
「わかってくれたか、マクシミリアン」
そうして再びヴァレンティンがマックスへ目を向けたとき、マックスの顔に浮かんでいたのは、いたずらっぽい笑顔だった。
「いいや。わかったのは、ヴァル兄の魂胆だ。気持ち、と言い換えてもいいな。ヴァル兄、あんたは俺に家督を譲りたくってたまらないんだろう? しかもそれは、ヴァル兄が今の立場が嫌だから、ってわけじゃない。俺に悪いと思ってるからだ。……別にギルドに行ったのは、ヴァル兄の夢だったから、というだけじゃないんだけどな」
ヴァレンティンが再び身構える。
そうして放たれた言葉は、呆れたような響きを有していた。
「……だから、どうした? お前は勝負に負けた。ギルドでのまやかしの日々には戻さない。マクグレイヴ家の一員に戻るんだ、マクシミリアン」
マックスがヴァレンティンを見上げ、首を横に振る。
「いいや、勝負はまだ終わってない」
「何を……」
「わかったのはもう一つあるぜ、ヴァル兄。……ヴァル兄は昔のまんまだ。身に着けたマクグレイヴ家伝統の魔法も、俺の行動を完全に予測して利用するところも、何も変わってない。それでこそ、ヴァル兄だ。さすが、当主の器だよ。――だけどな、俺は変わったぜ」
そして拘束されたままのマックスの両手が、淡く輝く。
その両手にはすでにマックスの膨大な魔力が集中していた。
しかし射出はされず、魔力は手のひらに留められたまま、ヴァレンティンの魔法で形成された正六角形の面をなぞっていく。
「これだけ時間があれば、こんなことも出来る」
まるで雪が溶けていくように、ヴァレンティンの魔力がマックスの手によってかき消されていく。
自由に身動きが取れるようになったマックスは、呆然としていたヴァレンティンに向けて手のひらを広げていた。
「……これで勝負あり、かな? 昔と違うのは、いま見た通りだよ、ヴァル兄」
その言葉が巧妙にウソを避けていることを、ぼくは知っていた。
もしマックスが魔力を放つとして、ヴァレンティンの背後にいるぼくらや、マクグレイヴ家の屋敷に被害を及ばさない程度に魔力を制御するためには、もう少し時間が必要なはずだ。
拘束された後の会話だって、時間稼ぎの一つのはずだった。
いま見た芸当――魔力を手にとどめて焼き切る――をするのにだって、準備なしにはできなかったはずだ。
ヴァレンティンの本心を知りたい気持ちももちろんあっただろう。
だがその会話の時間さえも利用して自分の強みを見せつける。
……やるじゃないか、マックス。
「もっとやるかい? 俺、今度はヴァル兄に、その位置は取らせないけどな」
そう言いながら、すでにマックスはぼくらの側へと回り込んでいる。
そして、ヴァレンティンにはその言葉が効いたらしい。
ゆっくりと構えを解くと、ヴァレンティンは再び空を見上げる。
噴水の音だけが流れるその中庭で、ヴァレンティンの胸中にあったのは、かつてこの場所で魔力を比べあった、幼い二人の姿だったのだろうか。
少しの間の後、こちらに目を向けたヴァレンティンは、どこか晴れやかな表情を見せた。
「わたしの負けだ。……強くなったな、マクシミリアン」




