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マクグレイヴ家の応接間には、使用人が案内してくれた。
マックスはしばらく、窓辺に立ち遠くを眺めていた。
ガラスの向こうには、マクグレイヴ家の敷地を囲む深い森が広がり、遠くには山並みも見える。
だがおそらくマックスは懐かしい景色に思いを馳せているわけではなかった。
やがて、応接間の扉が開く。
やってきたのは、ヴァレンティンだ。
「待たせたな、マクシミリアン」
その声に応じて、窓辺に立つマックスが振り返る。
わずかに目こそ赤みを帯びていたものの、その表情は普段のものに戻っていた。
「どうしたんだよ、ヴァル兄。話って」
ヴァレンティンの目がぼくとアスへと向く。
「席を外しましょうか?」
先にそう切り出す。どうせ、聞こうと思えば『糸』を利用して聞ける話だ。
かえって、聞かれていないと思われていた方がいい話かもしれない。
だが、マックスが首を横に振る。
「いや、いてくれた方がいい。……今や、家族みたいなもんだからな」
マックスのその言葉に、ヴァレンティンは意外そうな顔つきをする。
それから少しの間、ぼくらを見つめ逡巡する間があったものの、やがて口を開く。
「単刀直入に言おう、マクシミリアン。わたしと勝負をしろ」
ヴァレンティンから出た突拍子もない言葉に、マックスも呆気にとられていた。
「な、何だよ、ヴァル兄。親父が……あんななのに、力比べか?」
「そうだ」
あくまで真顔で、ヴァレンティンがうなずく。
その表情の奥に、かすかに立ちのぼる魔力の揺らぎをぼくは感じ取る。
マックスには、その魔力そのものは感じ取れなかったはずだ。
だがヴァレンティンの真剣な様子に、マックスも顔色を変える。
「本気かよ」
「ああ。中庭に行こう」
「昔よくやったみたいに、か?」
ためらいながらも、軽口で場の雰囲気を変えようとするマックスに、ヴァレンティンが返したのは冷静な視線だけだった。
やがて、ヴァレンティンが部屋の扉へと向かう。
マックスがその背中を視線で追い、彼もまた歩き出す。
廊下に出たとき、ヴァレンティンとはすでに距離があり、その背中には話しかける余地はなさそうだった。
マックスがぼくに目を向けてくる。
「いったい何だっていうんだろうな、ヴァル兄は。勝負なんてやってるヒマ、あるのかよ?」
「『勝負』って?」
「魔力勝負だよ。力比べだ。子どもの頃、よくやったろ? 魔力で石を押し合ったり――子どもの頃は、俺はまだ大した魔力じゃなかったから、ヴァル兄とも遊べたんだ。大体、俺の勝ちだったけどな。だけど、それがなんで、いま……」
「だけど、ヴァレンティンは本気みたいだよ」
マックスが顔をしかめて首をかしげる。
ヴァレンティンがぼくらの視線の先で正面の扉を開き、中庭に出る。中庭は大商家らしく、よく手入れされており、広かった。
石畳が広がり、ところどころに植栽された木には花が咲いている。
中央には噴水があり、その噴水の方へと向かっていたヴァレンティンが、途中で振り返る。
ぼくたちが追いつくのを待って、ヴァレンティンが口を開いた。
「ここでいい。はじめるぞ、マクシミリアン」
マックスの顔に浮かぶ困惑は、さらに深くなる。
その視線が、奥の噴水へと向く。
噴水の周囲には、手のひらサイズの石が装飾として敷き詰められていた。
「だけど、石は? 一つぐらい、持ってこないと」
「石? それは、子どもの遊びだろう?」
ヴァレンティンの魔力が膨れ上がる。
その雰囲気の違いを感じ取ってか、マックスが戸惑いの声をあげる。
「じゃあ勝負って、一体何を……」
「いいか、マクシミリアン。ギルド請負人になると告げて家を出たお前を、アルドリック様はいないものとして扱った。直接、血の繋がりのないわたしが跡継ぎになったのはそのためだ」
話しながら、ヴァレンティンはジリジリと距離を取る。
それから、ゆっくりとマックスの側方へと回り込むように歩みを進める。
そして、マックスもそれに呼応するように、反対側へと進む。
ヴァレンティンの話が続く。
「だが今や、お前は再びアルドリック様に認められた。しかもギルドでも評判の腕利きだと言う。お前が跡継ぎにならない理由はどこにある? ……もしその評判が、本当の話だとすれば、な」
マックスが首を横に振る。
「俺はいったん家を捨てた身だ。跡継ぎなんか、なれるはずもない」
「それを決めるのはアルドリック様だ。そしてアルドリック様はこの件についての全権をわたしに委ねた。つまり、そういうことだ」
「ヴァル兄は、一体どうしたいんだ? 俺が思うに、ヴァル兄の方が、俺よりもずっと、マクグレイヴ家にふさわしい」
ヴァレンティンの表情に、苦悩が深く刻まれる。
これまでは淡々と、冷静に言葉を連ねていたヴァレンティンが、不意に見せた感情の動きだった。
「……かつて、お前に言ったことがあったな、マクシミリアン。わたしは、ギルド請負人になる、と。言うべきではない一言だったと、今は後悔しているよ。お前に、余計なアイデアを与えたのだから」
ヴァレンティンは、マックスを牽制するように歩き続ける。
そのまま、最終的にはマックスと場所を入れ替えるようにして、ほくらを背にして立つ。
ヴァレンティンの魔力が奥底から湧き上がり、その手をマックスへ向けてかざす。
「わたしの望みなど、どうでもいい。やるべきことをやるだけだ。だからマクシミリアン、お前も力を見せてみろ!」
そして、ヴァレンティンの魔力が放たれる。




