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「きみがマクシミリアン・マクグレイヴであることは、ぼくは少し前から知っていた」
マックスの目が、驚きと恐怖が混じったように見開かれる。
椅子から勢いよく腰を浮かせながら声を発する。
「ジン、まさか。お前、はじめから……」
ぼくはその言葉の途中で首を横に振る。
そして反論をする前に、先に口を挟んだのはアスだった。
「違う。ジンがそれを知ったのは、オスカーの言葉からだ。調べがついた後は、すぐに私にも教えてくれた」
「……だからつまり、それはぼくらにとっては大したことじゃないと思っていたんだ。昨日までは、ね」
まだ少し疑わしそうな目を、ぼくとアスへ交互へ向けながら、それでもマックスは腰を下ろした。
アスの言った通り、マックス=マクシミリアンだと知ることが出来たヒントは、二つあった。
まずはオオカミ狩りのときに出会った、オスカーの言葉だった。
『マクシミリアン様ではありませんか?』
別れ際、オスカーはそう口にして、マックスはその言葉を否定した。
そしてヒントは、もう一つあった。
商人の身の振り方をオスカーが話したとき、マックスは商人の生活を知っているかのようなことを、そっとつぶやいていた。
オスカーが顔を見たことのある、もしくは容姿についての話を聞いたことのある有名な商家の、マクシミリアン。
そこまでわかっていて、調べないわけにはいかなかった。
そしてその答えは、町の情報屋から得た断片的な情報をつなぎ合わせれば、すぐに解き明かすことができた。
「マクグレイヴ家は、この国でも指折りの商家だ。数年前に家を出て、行方をくらませている跡継ぎがなぜこんなところでギルド請負人をやっているのか。正直にいえば、ぼくにとってそれはどうでもよいことだった。必要なら、君に聞くまでだ。あるいは、いずれ、君が話してくれるだろう。そう思っていた」
だがその機会は訪れず、代わりにマクグレイヴ家の紋章が記された外套を来た男がやってきた。
「昨夜やってきたヴァレンティンは、君に代わって跡継ぎになった男だ。君の父、アルドリックの早世した兄の子。ぼくの事前の調査とも一致していた。先に用件を聞いても問題ないと判断したのは、そのためだ」
ぼくがこれまでの経過を一通り説明し終えると、マックスが首を横に振る。
「……マクグレイヴ家は、何を知りたがってたんだ?」
「一言で言えば、君の名声のからくりだよ、マックス。魔力を全力で放つことしかできない不器用な男のマクシミリアン。ゆえに、周りの支えを受けて、商人として生きていく道しかない。誰もがそう思っていたことに反発して家を出た一人息子。彼がなぜ、ギルドでもトップクラスの腕利きになったのかを知りたがった。だからぼくは教えてやったよ」
「……ジンたちのサポートあってのことだ、ってか?」
「まさか。きみは本当に優秀な魔導士だと伝えてやったよ。ぼくらもいつも支えてもらっている。そうだろう? ぼくらの本当の関係を誰かに伝えることは、マイナスにしかならない――それに、ぼくの言葉はまるでウソってわけじゃない」
マックスはぼくをじっと見つめ、やがて大きく息をついた。
次に顔をあげたとき、その目からは疑いの色は消え去り、いつものマックスに近い表情に戻っていた。
「だいぶオマケをしてくれたみたいだな」
「礼には及ばないよ、マックス。……それで、どうするんだ? アルドリック……君の父親の件は?」
そうたずねると、マックスの顔色がまた曇る。
マックスが家を出た経緯は、ヴァレンティンには詳しくは聞いていなかった。
アルドリックは、マックスに跡を継がせるために、出来ることは何でもしてきたらしい。
だが二人の間である日、仲違いが起きた。そこには何か、譲れない諍いがあったのだろうか。
そのとき、口を挟んだのはアスだった。
「なぜだ、マックス。帰らないのは、意地のためか?」
「……アスさんには、わからないんじゃねえかな」
「そうか? 私は、エルフに言わせれば『出来損ない』だぞ?」
マックスはその言葉に目を見開く。ぼくはそのアスの揺れることのない表情に、心の痛みを感じる。
今までのところ、アスが自分の家族についてぼくに話してくれたことはない。だけどその言葉から伺えたのは、アスとエルフたちとの深い断絶だ。
マックスも同様のことは感じ取ったはずだ。少しの間、視線を落とし、やがて大きく息を吐いた。
「あれだけ聞く耳のなかった親父が、わざわざ会いに来いって言ってるんだ。死ぬほど悪いんだとしたら、そいつを無視できるほど、俺は親父を憎んじゃいない。顔ぐらい見に行ってやるか……でもさ、もし二人がよかったら」
マックスが言葉を続ける前に、ぼくは口を挟む。
「マックス、きみはぼくが大きな商家との関係性を構築できるチャンスを逃すとでも思うのか?」
マックスは最初は面食らった様子だったけれど、やがてその表情は微笑みに変わる。
「もしまともに話せるのなら、ジンとウチの親父は話が合うかもな。……そうと決まれば、すぐにでも行くか?」
ぼくとアスへ目を見合わせ、うなずく。
「行こう、マクグレイヴ家へ」
そして正直なところ、それが単なるマックスの父の見舞いに留まるものだとは、ぼくは思っていなかった。
単なる病気なら、わざわざ当主代行自らが、マックスの探りを入れるだろうか。
おそらく、マックスの力を求めるだけことがあるのだろうと、そう予感していた。




