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翌日、予定していた集合時間よりも早い時間から、マックスはギルドの食堂にいた。
朝食を調理中の厨房から甘い匂いが漂う中、マックスは食堂の角の一席に座っていた。そこが、マックスの定位置になりつつある。
その場所に座り、まだ仕事をはじめたばかりの請負人や、かつて組んで迷惑をかけた仲間たちへ食べ物や飲み物をごちそうしつつ話をする、というのがマックスの定番の行動だった。
幸いにして、まだ他の請負人の姿は食堂になかった。
「マックス」
目を向けてきたマックスが、少し意外そうな顔をする。
ぼくとアスはいつも、時間ピッタリに行動するタイプだった。
「どうしたんだ、珍しく早いじゃないか」
「昨日、マクグレイヴ家の使いが来た」
単刀直入にぼくがそう口にすると、マックスの口をつけていた飲み物を置く手が、わずかに震え、カタッと机にあたって音を立てる。
「……なんだよ、マクグレイヴ家って?」
「しらばっくれなくていい。昨日、マクグレイヴ家の使いから、すべて聞かせてもらったよ。例えば、君が捨てた名前とかね、マクシミリアン・マクグレイヴ」
「……そうか」
マックスは口をわずかに歪めて笑う。
少しの間、視線を落としたけれど、すぐにその目はぼくに向く。
「だが、今さら、マクグレイヴ家が何の用だって? 俺は家を捨てた身だ。ジンたちも聞いただろうが……大体、なんだってあいつらはジンたちのところへ行ったんだ?」
その答えは、ぼくはすでに知っていた。
昨日やってきたマクグレイヴ家の使いが聞きたがったのは、マックスの現況だった。
当然、素直に話すわけにはいかない――マックスは仲間でもあり、ぼくらの隠れ蓑でもある。
だから、ウソではない程度に、真実のみを話した。
マックスの魔力制御は実際に向上しており、それがギルドへ持ち込む商品価値の向上につながっている。
難易度の高い魔獣討伐もやすやすと行ってみせる。それがマックスの名声の元になっている。
それらのことを教える前に、マクグレイヴ家からは彼らの目的を聞き出していた。
だが、それをぼくから話すべきか。
ためらっていると、背後から声がする。そちらへ向くマックスの目が、驚きで見開かれる。
「……それは、わたしから話そう。久しぶりだな、マクシミリアン」
振り返ると、そこにいたのは昨夜ぼくらの下へとやってきたマクグレイヴ家の使いだった。
その肩書は当主代行。その名は、ヴァレンティン・マクグレイヴ。
予想に反して、マックスの表情がほころぶ。そうして、安心したように一息つく。
「なんだ。マクグレイヴ家の使いって、ヴァル兄のことだったのかよ。四年ぶり、になるのかな? まあ、座ってくれよ……」
普段の調子で、笑顔で喋りかけるマックスの声が徐々に戸惑いに変わる。
嬉しそうなマックスと異なり、ヴァレンティンの表情は固いままで、いや、より引き締められていた。
「いや、遠慮をしておく。時間もない。マクシミリアン、お前に伝えたい用件は一つだけだ。……アルドリック様が病に伏せられている。お前の顔を見たいそうだ」
顔を見たい。
昨夜は、その情報は教えてはくれなかった。マックスは口を開くが、すぐに言葉は出てこない。
「……親父が?」
「用件はそれだけだ。後は、わたしの知りたかったことは、お前の仲間たちに聞いている。……邪魔をしたな」
それだけ言うとヴァレンティンは、背を向けて去っていこうとする。
その背中に、立ち上がったマックスが駆け寄る。
「待てよ、ヴァル兄。久しぶりに顔を合わせたんだぜ? もう少し、話をしていっても……」
ヴァレンティンが素早く振り返ったのは、マックスが言葉を言い終える前だった。
冷たい目でマックスを一瞥し、彼の足を止める。
「言っただろう? わたしは忙しいんだ。マクグレイヴ家を背負っているのだから」
誇らしくも聞こえるはすのその言葉を、ヴァレンティンはどこか苦しげに言い捨てると、そのままギルドの食堂を足早に去っていった。
取り残されたマックスの目が、ぼくらに向く。
「ジン、何でだ? 何で先に、俺に伝えてくれなかった? ヴァル兄が来たってこと、俺に話してさえくれていれば……」
話していればどうなった?
動揺をみせるマックスに、そう追求することは、今のぼくにはできなかった。
それに、どこから話をすればいいか、ぼくは迷っていた。
実のところ、昨日の使いが来る前から、ぼくは知っていたからだ。
マックスが、マクシミリアン・マクグレイヴであることを。




