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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第2章

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 燃える魔獣の角が空気を通じて届かせる、ほのかな熱を感じながら、ぼくとマックスはアスたちに近づく。


「オスカーのおっさん……気分はどうだ?」


 支えるアスの腕から身を起こしたオスカーは、地面に座り込んで呆然としているように見えた。

 だが彼は顔をあげると、マックスへ微笑む。


「最高の気分ですよ。……生き延びれるなんて、思ってませんでしたから」


 微笑み返したマックスが手を伸ばし、オスカーがその手をとって立ち上がる。

 二人はそのまま固い握手を交わしていた。

 その様子を見届けた後、ぼくは魔獣へと目を向けた。


「たぶんこの森は、魔獣のテリトリーだったんだろう。あの狼は、ぼくらから逃げ切れないと悟って、やむなくここに逃げ込んだ。結果、魔獣に殺された」


「ジン、なぜ魔獣はオスカーを殺さなかったんだろう?」


「たぶん、何の興味もなかったんだ。狼とは違い、オスカーは何がどうあっても魔獣の脅威にはならない……あるいは、他の人間を引きずり込む餌だったのかもしれないけれど、今となってはわからない」


 倒したヘラジカ魔獣へ目を向けると、その姿はほとんど灰になっていた。

 わずかな骨だけが残っている。もしかしたら希少な材料だったかもしれない、魔力の発生源とも思えたあの角は、すでに燃え尽きていた。


「あれじゃ売り物にはならないな……」


 ぼくのそのつぶやきを、オスカーは耳ざとくとらえたらしい。それまではマックスと肩を叩きあって笑いあっていたのに、不意にこちらへ見開いた目を向けてくる。


「ジンさんはそう言いますけどね、私なんか、もっとひどいですよ。馬には逃げられる。馬車は壊される。大事な商品は、もう売り物にはならない。そして、食べられるものは自分で消費してしまいました……それが、商人としては、一番悔しい」


 冗談かと思えば、オスカーの表情は崩れない。

 ぼくとアスは、目を見合わせて苦笑する。


「おいおい、オスカーのおっさん。命が助かったばかりなのに、さっそく金の話かよ?」


 肩をすくめるマックスに、オスカーは強く首を横に振る。


「商人にとっては、金も命ですよ。あなた方ほど強ければ、いろんな身の振り方がありますけどね。私は、これでもって生きていかなくちゃならんのですから……ああ、まだ売れるものがあるか、探してきます」


 オスカーが壊れた馬車の方へと向かう。

 アスは呆れた表情から、少し真面目な顔になり、狼のリーダーの亡骸へと目を向ける。


「ジン。あの狼の毛皮は、オスカーに渡してやらないか? さすがに、かわいそうだろう……?」


 ぼくらにとっては、狼の毛皮はもともとの目的だ。

 苦労して手に入れた毛皮を他人に譲るなんて、商売人としてはあってはならないことだ。


 ……だけど、まあ、一部を譲るだけなら、先々の投資としては悪くない。

 何しろオスカーは、この世界にあって、馬車で交易ができるぐらいの力を持った商人なんだし。


「まあ、結局のところ、ぼくらが狩ったわけじゃないし、ね。アス、処理を頼む」


 微笑むアスがうなずいて、狼の死骸の方へと向かう。

 そのとき、マックスがふと口にした言葉が、ぼくの耳に残った。


「商人の身の振り方ぐらい、わかっているよ……ウチも、そうだったものな……」


 狼の毛皮の回収と、オスカーの馬車からの回収を終えた後、ぼくらは来た道を遡った。

 『境目』は、もはや存在しなかった。苔むした森から、乾燥した岩肌へ――踏みだして、その境目を超えたとき、オスカーが深く息をつく音がした。


 目を向けると、オスカーは泣いていた。

 ぼくらの前であることを憚ってか、声は殺していたものの、大粒の涙を流し、手で顔を拭っていた。

 マックスは無言で、そんな彼の肩を一つ、音が出るほどの強さで叩く。

 オスカーは泣きながら微笑む。


「仕方がないでしょう? また、家族と会えるんですから……」


 マックスはわずかに思案げな表情をした後、そっとオスカーから目をそらしていた。

 岩肌を出て振り返ると、すでに『境目』の端の地面の苔は、乾燥してわずかに変色していた。

 もともと、ヘラジカ魔獣の魔法によってやってきた植物たちだ。ここには根付くことなく、いずれ環境に淘汰されてしまうのだろう。

 それから、ぼくは岩肌を見上げた。


「さあ、帰ろうか」


   ※※※


 街にたどり着く頃には、日は傾きはじめていた。

 そして街へ到着した後、オスカーとはすぐに別れることになった。


「もう、すぐに旅立つの?」


 街の入口の、家へ戻る人影が集まる雑踏の中で、オスカーは深くうなずいた。


「幸いにして、この街には知り合いがいるんです。長らく、手紙でのやり取りしかできていませんでしたが、帰る手助けはしてくれるはずです。路銀は手持ちと、いただいた毛皮があれば何とでもなりますし……準備ができ次第、この街を発ちます」


「明日でいいんじゃないのか? どうだ、オスカーのおっさん、一緒に食事でも……」


「ありがたいですが、マックスさん、私は一週間前、家族にも何も言わず、すべての取引を放り出して、行方不明になった人間とですよ? 僅かな時間でも惜しいぐらいで」


 太陽の傾き具合に目を向けるオスカーは、すでに時間に追われはじめているようだった。

 だがそれもまた、彼の喜びであるように、ぼくには感じられた。

 何しろ、六日間もの間、あの魔獣に、どこに行くことも出来ない無為の時間を強いられてきたのだから。


「それじゃあ、また」


 オスカーは、手を差し出してくる。

 ぼくの目線の高さに合わせるように、低く差し出されたその手をぼくは握り返す。


「このご恩は決して忘れません。今後、私に協力できることなら、何でもいたします。……もちろん、ジンさんの思慮深い判断あってのことでしょうから、ね」


「それじゃ、損をさせない機会が見つかったら、必ず声をかけるよ」


 オスカーが微笑んでうなずく。


「アスさんも、お元気で。美味しい、珍しいものを見つけたら送りますよ。そしてマックスさん――最後に、いや、最後だから聞いておきたかったのですが、……あなたは、マクシミリアン様ではないですか?」


 それまで、笑顔で握手のための手を伸ばしていたマックスの動きが、一瞬止まる。

 強張った顔と、意外そうな沈黙のあと、マックスが微笑む。


「そりゃ誰のことだい、オスカーのおっさん。俺は、マックスだぜ。ただのマックス・グレイだ」


 オスカーがマックスの表情を窺うように、じっと目を向ける。だがやがてその表情が緩む。


「……そのようですね、マックスさん。それでは、お元気で。また、会いましょう」


 強く握手をかわした後、オスカーはぼくたちに背を向ける。しばらく歩いた後に振り返り、ぼくらにもう一度だけ手を振った。

 その後は、雑踏の中に消えていった。


「俺たちは、どうする?」


 マックスが、目を向けてくる。


「とりあえず、ギルドに向かおうか。狼の毛皮を精算して……もちろん、きみの名前でね、マックス」


「……そういえば、そうだった。ただ、もう、名義貸しなんて関係じゃないしな。三人の代表で、俺の名前を使うだけ――そこに、何のウソもないだろ?」


 その問いかけを受けて、ぼくはアスへと目を向ける。アスは小さくうなずいてみせる。


「マックスがそれでいいならね。何もしなくともぼくらは仕事をこなす――だけど、マックスが一緒にやってくれるなら、その方がいい」


「あんな戦いの後に、別々で仕事をこなすなんて、そっちの方が無理だぜ、相棒。……それにしても、疲れたな」


 ぼくらは、すでにギルドへ向けて歩き出していた。

 夕闇が迫っている。


「まずは夕食にしよう。私はお腹が空いた」


「一つ聞いていいか? アスさんってエルフだよな? なのにお腹がすくのか?」


「言っただろ? 私には魔力がない。『出来損ない』なんだ。だから、腹が減る。……でも、だからこそ、ご飯が美味しいんだろうな」


 言葉をかわす二人を後ろから眺めながら、ぼくは歩を進める。

 この二人がいれば、ギルドの依頼はいくらでもこなせる――だから、後はギルドと交渉するぼくの手腕次第だ。

 どうするのがベストだ? 第一に、マックスを仲間として引き入れたことに、ヘイワードはどんな反応をするだろう……?

 そんな風に思考を展開させていると、前を行く二人が振り向く。


「ジン、早く行こう。食堂が混む」


「メシでも食いながら、今後の話をしようぜ」


 夕闇の中に溶けはじめている、急かす二人に駆け寄るように、ぼくはスピードを上げる。

 考えることはたくさんある。でも、後でもいいか。そんな風に思いながら。

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