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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第2章

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「マックス、体勢を低くして。頭を、ぼくの手が届く位置に。なるべく、動かないでいてくれ……チャンスは一度きりだ。アスとタイミングを合わせて、魔力を放つ」


 ぼくの声を受け、マックスがしゃがみながらうなずく。

 腰を落としたマックスの背後から、両腕で彼の頭を挟み込むように、手を伸ばす。


 そしてぼくは、魔力を展開させる。

 イメージは、『ディスプレイ』だ。

 普段は目に映らないぼくの魔力を顕在化させるには、少し不安があった。

 だから、生み出すべきものだけに集中する。


 現実の無数に存在する色を生み出す必要はない。

 光の三原色。その組み合わせだけで、模倣する映像は生み出せる。

 魔法がイメージだというのなら――そのイメージを強化してやればいい。


「……なんだ、こりゃあ」


 マックスの顔の前、広げたぼくの両手の間に展開した魔力が、徐々に色を帯びはじめる。

 やがてそこには、半透明な映像が生まれていた。

 その映像は、マックスの視界に重なっている。


 『ディスプレイ』に表示したパラメーターは二つ。

 一つは魔力の軌道だ。『糸』を伸ばす要領で、オスカーには当てず、その背後にある魔獣の魔力を撃ち抜く軌道を、黄色いラインで映像化している。


「黄色く映ってるのが、きみの魔力の軌道だ。着弾点は、オスカーの背後になっている? 違っていたら、マックスの方で視界をズラして合わせて欲しい」


「いや、ぴったりだ。……もう一つの、この図形は?」


 その図形は菱形で、その線は赤から青に変わるグラデーションで描かれている。

 今はまだ表示されていないはずだけれど、魔力に反応して、白いポイントが浮かび上がるようにしてある。


「きみの魔力の状態を、ぼくの感覚で可視化したものだ。できるだけ強い力で、一点を貫きたい。上下が魔力の強さで、左右が収束度。……だけど、そんなのは覚える必要はない。とにかく魔力のコントロールに集中して、ポイントが真ん中に来たら、魔力を放つんだ」


 ごくん、と息をのむマックス。

 それでも、すぐさま前方へと手をかざす。


「この黄色い線に乗せて、図形の真ん中に表示が来たら撃てばいい。そうだな?」


 マックスの魔力が高まる。その魔力は、ぼくの感覚ではあまりに強すぎて、しかも拡散している。

 おそらく、図形上のポイントは、右上方向に振り切れるほどの勢いで、張り付いているはずだ。それでも、震えるマックスの声が続ける。


「なんだ、簡単じゃねえか」


「攻撃のときは、言ってくれ。そして、アス。そのタイミングに合わせて、避けてくれ。魔力は左方向に放出して、曲げる。右に体をズラしてくれれば、それでいい」


「わかった。声をかけてくれ、マックス」


 マックスの返事はなかった。魔力のコントロールに集中しはじめている。

 そして、ぼくにはその苦戦が伝わってくる。間近で感じるその魔力は、やはり極端だった。

 軽くひねっただけで猛烈な勢いで水を噴出する蛇口のように――加減の調整がひどく難しいらしい。


「ダメだ、ジン……今のままじゃ、できそうもない」


 苦しげな声でつぶやくマックス。

 ダメなのか、マックス。ぼくはそんな言葉を発しそうになる。

 だけど、マックスはそのまま、つぶやくように言葉を続ける。


「だから、何でもいい、アドバイスをくれ。……それで、やってみせる」


 その言葉にぼくが微笑んだのは、きっとマックスには見えていなかった。


「マックス、きみの魔力は、わかってると思うけど、強すぎる。強すぎて制御が出来ず、狙いをつけて撃つのが難しい。だから――言ってしまえば、撃たなくていい」


 マックスの呼吸が一瞬、止まる。ぼくの言葉を理解しようとするそんな間の後に、ぼくは続ける。

 魔法はイメージだ。さっきぼくがマックスに感じた、水量の多すぎる蛇口のイメージ。

 あのイメージを、マックスにも共有出来るのなら。


「流し込むんだ。ぼくがきみに見せている『ディスプレイ』の軌道に乗せて、流すだけでいい。きみの魔力なら、それだけで、あの魔獣を撃ち抜ける」


 軌道をホースのように使って、とは言えなかった。この世界ではまだ、ホースを見ていない。

 だけど、マックスには十分伝わったらしい。一度、大きくうなずく。

 マックスの魔力の質が変化しはじめる。だが、まだ足りない。


「もっとだ。もっと力を抜いて……絞り込むんだ」


 どこか矛盾しているぼくのアドバイスに、マックスはうなずく。

 それから魔獣に向けた魔法を撃ち出す構えを大きく変える。

 右手の手のひら全体を向ける形から、握り込むように親指だけを魔獣に向ける。

 そして、親指と人差し指の間に、魔力が集まる。


 『ディスプレイ』が反応する。

 外周部だけにしか行かなかったポインターが、中央付近で揺れる。近づいた。

 だがまだ、安定はしていない。


 魔獣の魔力は、アスの靴先にまで迫っている。

 猶予は、あと十秒あるか、ないかだ。


「マックス、もう時間がない。カウントは必要?」


「頼む。……アスさん、避けてくれよ。そして、ありがとうな、ジン――お前のおかげで、掴んだぜ」


 つぶやくように言うマックス。

 『ディスプレイ』にある図形の中央付近で、ポインターが揺れる。


「カウントは三秒だ。――三、二、一、撃て!」


 それまで剣を振るっていたアスが、ひねるように右側に身をかわす。

 左側の空間に、細く、まるでレーザーのような収束した光が伸びる。

 その光は、ぼくが『ディスプレイ』に表示した軌道をなぞり、オスカーへと向かい、曲がる。


 オスカーには、当たらなかった。

 十字架のように吊るされた彼の右の脇をすり抜け、心臓の背後にあった、魔獣の魔力の中心部を直撃する。


 マックスが魔力を流し込んでいたのは、一秒にも満たない時間だった。

 だがそのわずかな時間の後、忍び寄ってきた魔獣の魔力が動きを止める。

 防いでいた攻撃が止み、アスが剣を下げる。


 魔獣の角の間に、きらめくような歪んだ空間はもはやない。

 次の瞬間、蝶の羽のように広がった魔獣の角、その全体にマックスの魔力の光が輝くように走る。


 オスカーを縛っていた何かが、その力を失う。

 重力に再び捉えられたオスカーが、ゆらりと落下をはじめたとき、彼の周辺の空気から、確かにオスカーの声がした。


『私に構わず、戦ってください!』

『どうせ共倒れになるなら、せめて、貴方がただけでも!』

『誰かを私のために失うなんて、許されないことです!』

『もう、いいですから、私に構わず!』

『聞こえていないのですね……それでも、私は……』

『お願いですから、私には構わずに!』


 そんな声が届く。

 それは、オスカーと共に捕らえられていた、彼自身の声だったのだろう。


 地面へと落下するオスカー。

 彼は、すでに走りはじめていたアスに受け止められる。

 まだ立ったまま動かない魔獣を、その目前でオスカーを支えるアスが見上げたとき、魔獣の大きく広がった角が燃え上がりはじめた。


 その炎は、奇妙な色をしていた。魔獣の展開していた空間の歪みのように、プリズムのように様々な色に移り変わり、安定しない。

 マックスと、魔獣の魔力が入り混じった炎だった。


 そしてヘラジカ魔獣が、ゆっくりと横倒しになる。

 魔獣の巨体は、もう動かなかった。


 その魔力が失われたことを確認して、ぼくは『ディスプレイ』の魔法を解く。


「やったのか? ……オスカーのおっさんは、無事かよ?」


 『ヘッドセット』を通じてそうたずねたマックスの声色は、かなり疲れていた。

 オスカーを抱きかかえたまま、介抱を続けるアスの声が届く。


「問題なさそうだ。意識もある」


「そりゃあ、よかった」


 マックスがしゃがみ込んだまま、ぼくを目だけで振り返り、にやりと笑う。

 ぼくも笑い返したとき、マックスの姿勢が、ぐにゃりと力を失う。

 慌ててぼくはその肩を支える。


「マックス、大丈夫なの?」


「さすがに、疲れた。でも、ジン。見てみろよ、あれ。完璧だろ?」


 満足そうにそうつぶやき、魔獣へと目を向けるマックス。

 蝶の羽の形をした魔獣の角は、きらめく炎にまだ包まれている。

 だが、魔力の肉体が持っていた魔力はすでに宙へと放散されていた。

 肉体は灰のような色に変わりつつあり、崩壊がはじまっている。


「俺、……やれたぜ」


 マックスはもう一度だけ、そうつぶやいた。

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